2015年12月11日金曜日

2文字を半分に分けようとしてバラバラになる話


「博士ー」
「博士は留守だよ」
「いるじゃないですか。あれ、変わった椅子に座ってますね」
「国立新美術館からいただいてきたんだ」
「はあ。それはそうと、訊きたいことがあるんです」
「留守だと言っとろうが」
「どうして公衆便所の小便器は外から丸見えなんですかね」
「知らないよ」

終 了

「積極的にコミュニケーションをとろうという姿勢が感じられないのはなぜですか」
「君とまともにコミュニケーションをとれたことがかつて一度でもあったか?」
「それは博士がいつも拒絶するからですよ」
「丁重にお引き取り願ってるだけだ」
「それを拒絶というんです」
「どのみち引き下がったためしもないだろうが」
「だって引き下がったらそこで終わっちゃうし……」
「ほう。どんなふうに?」
「どんなって……こんなかんじですよ」

終 了

「ね?」
「終了したのになぜ舞い戻るんだ!」
「今のはサンプルですから」
「今ので終了でいいじゃないか」
「だからサンプルなんですってば」
「何がどうちがうんだ」
「きもちがちがいます」
「じゃ実物をよこせ」
「今はこれしかないんです」
「じゃあそれでいい」
「ひとつしかないからダメです」
「ガタガタ言うな。木っ端微塵になりたいのか?」
「今までさんざん木っ端みじんにされてきましたよ」
「融通のきかないやつだ」
「半分でいいですか?」
「半分?」
「ぜんぶあげるとなくなっちゃうし……」
「まあいい。でもでも同じことだ」
「はい」



「終の半分じゃない!」
「冬のほうがよかったですか?」
「了はどうした!」
「あ、そうでした」



「あっ上下に折りおった!」
「左右はムリですよ」
「そういう意味じゃない!」
「んもーああ言えばこう言う」
「なぜ終と了の2つに分けないんだ!」
「( ゚д゚)」
『あったまいい〜』みたいな顔をするな!」
「じゃ了のほうをあげます」
「真っ二つで使いものにならん!」
「それで小便器の話なんですけどね」
「そんな話は……君こないだも小便器の話をしてなかったか?」
「してないですよ」
「いや、してた。ここだ」
「あら〜ほんとですね」
「便器が好きなのはわかったが、わたしを巻き込むな」
「べつに好きじゃないですよ」
「気が合うな、わたしもだ。では解散」
「まだ話してないですよ」
「おうちに帰るまでが便器だぞ」
「遠足といっしょにしないでください」
「遠足のほうが100万倍ましだ」
「入り口あたりからほとんど丸見えじゃないですか」
「何がだ」
「公衆便所の小便器がですよ」
「また便器の話か!」
「またもなにも……あっまたと言っても股のことじゃ」
「知るか。便器に直接言え」
「通報されそうですね」
「願ってもないことだ」
「用を足す後ろ姿も丸見えなんですよ」
「前が丸見えよりいいだろうが」
「ハッハッハ!……痛い!なんで殴るんです?」
「腹が立った」
「セクハラじゃないかとおもうんです」
「君の存在が、ということならわたしもそうおもう」
「用を足す後ろ姿がですよ」
「君にくらべたら微々たるものだ」
「外から見たくないし見られたくないんです」
「佐助に弟子入りでもしろ」
「佐助って誰ですか?」
春琴抄の佐助だよ」
「見えないようにすべきだとおもうんですよ」
「そうだな」
「あっなんか今きゅうに匙を投げられた気がする」
「……」
「鼻をほじらないでください」
「これがほじらずにいられるか!」
「人権を侵害してるとおもうんです」
「君に人権があったとは初耳だ」
「それで言うと当たり前のように男子トイレで掃除してるおばちゃんも……」
「わかったわかった!わかったよ」
「わかってもらえましたか」
「ここにすごい爆弾がある」
「この梅干しみたいなやつですか?」
「地球の2/3を吹き飛ばせる代物だ」
「前は1/3だったから……のこり全部ってことですね」
「これで世界を征服するといい」
「誰がですか?」
「むろん君がだ」
「どうしてまた……あっまたと言っても股のことじゃ」
「征服すれば何でもできる」
「はあ」
「便所でもなんでも好きにしたらいい」
「たしかにやりたい放題ですね」
「解決策は出してやった。あとは君次第だ」
「そうですね、じゃあ、あの……」
「……」
「帰ってダイゴくんに相談してみます」
「今ここにいる君はいったい誰なんだ」



   冬
 マ
  

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