2013年12月25日水曜日

安田タイル工業のクリスマス慰安旅行2013


目がさめたらきりきり冷える外気との温度差に窓がしたたりまくっています。じぶんの部屋ではありません。のっぴきならない事情もあったとはいえ、まさかクリスマスイブイブの朝を専務の部屋で迎えることになるとは……。




世界に向けて遠吠えを!

あるかなきかの零細企業、あの安田タイル工業のクリスマス慰安旅行が、何ごともなかったような顔をして2年ぶりに帰ってきた!去年は専務リア充につきあっさり中止となった慰安旅行が、なぜ今年になって復活したのかという点については聞かないであげていただきたい!

※これまでの旅行については2010年版と2011年版をご参照ください。


2011年12月以来となる今回も、とくに得るものもない自虐的な旅にタカツキ専務とダイゴ主任、総勢2名の大所帯でくりだします。

「朝だ!出かけるぞ」
「でもさっき寝たばかりですよ」
「今年も日帰りだ」
「前回はハードでしたからねえ」
「今回はソフトだから心配いらない」
「おや!」
「ハートウォーミングでラブリーな旅になる」
「四十路間近の男ふたりでいく旅のキャッチフレーズとしてはぎりぎりアウトじゃないですか?」
「さらに今回は車でいく」
「なんですって!」
「小粋にドライブとしゃれこもうじゃないか」
「イヤッホウ!」



さむくて凍りついたフロントガラスの霜をせっせとかき落とす専務




よく見るとケースもないむき出しのiPhoneでかき出していて目を疑います




おまけになぜかかき出した霜を運転席のほうに寄せたまま出発しようとする詰めの甘さ




ともあれそそくさと高速に乗った一行の前に、雲ひとつない澄み切った晴天が広がります。こいつァ幸先がいいぞ!



…とはしゃぐそばからわかりやすく垂れこめ始める暗雲



この数分前まで最高の上天気だったと言っても信じてもらえないかもしれませんが



後ろの空はあざ笑うように晴れ渡っています



しかしまあ考えようによっては空の色がちょっと変わっただけだし、この程度の凶兆をいちいち気に留めてもいられません。暗雲にも慕われる気さくな町工場、それが安田タイル工業です。


「朝飯を食ってなかったな」
「そういえばそうですね」
「どっかで食っていくか」
「というとまさか…」
「列車の旅では味わえない大きな醍醐味のひとつだ」
「サービスエリアですね!」
「よし、寄るぞ」
「イヤッホウ!」












とてもきれいで洗練されたゴージャスなサービスエリア内をうろうろと見て回り、なんとなく釈然としない思いを抱えながら、なんだかよくわからないテーブルで軽い朝食をすませ、ふたたびドライブに戻ります。

「あの、専務」
「どうした?」
「僕まだちょっと受け止めきれてないんですけど」
「何を?」
「さっきのあれ、サービスエリアですよね?」
「そう書いてあったろう」
「でもユナイテッド・アローズ入ってましたよ」
「入ってたな」
「フリーズ・マートも入ってましたよ」
「そうだっけ?」
「屋内でBMW売ってましたよね」
「そういえばあったなあ」
「あまつさえコンシェルジュです」
「何をそんなにぷりぷりしてるんだ?」
「それにあのスタイリッシュなトイレ」
「ぴかぴかだったな」
「お洒落すぎておちおち用も足せないんですよ!」
「ケツの穴の小さいやつだな、はははははは!」
「お腹を抱えて笑うほどおもしろくありません」
「そう言うな、ほら前を見ろ」
「なんですか?」


「やや、晴れてきましたね!」
「ちがうちがう、山だ、よく見ろ」
「あっなんか書いてある…」


「茶だ」
「茶ですね…」
「静岡に来たという実感が湧いてくるだろう」
「あ、静岡が目的地だったんですね」
「人工衛星からも見えるんだぞ」
「ナスカの地上絵ってひょっとしてこういうことだったんですかね?」





そんなこんなで砕け散った恋の話などにキャッキャと花を咲かせつつ、車でのんびり4時間かけて辿り着いた先は…


大井川鐵道の新金谷駅です。


趣たっぷりの駅舎にしばし見とれる安田タイル工業の面々。ハートウォーミングという専務の言葉もあながちまちがいではなかったようです。

「いい雰囲気ですねえ」
「そうだろう」
「わりとあっさり目的地着いちゃいましたけど」
「ちがうちがう、ここがスタート地点だ」


呆気にとられるダイゴ主任をよそに、いそいそと列車にのりこむタカツキ専務。静岡県島田市の中心部から大井川に沿って北にのびる大井川本線は、よその大手私鉄から譲り受けた車両のみで運行している(つまり独自の車両を持たない)、ふしぎな路線です。これは元南海高野線の急行車両。


そういえば行き先をまったく聞いていなかったことに今さら慄然としながら、列車は軽やかに走り出します。





前回の重機的な恋とその後を彷彿とさせる黄色い彼氏のしんみりした後ろ姿



これは元近鉄の特急車両








長いこと揺られてようやく辿り着いた終点駅に降り立つ安田タイル工業の面々。澄んだ空気を胸いっぱいに吸いこみながらウーンと伸びをしているところへ専務の声が朗らかに響きます。

「よし、乗り換えるぞ!」
「まさかの中継地点!」


「わあ、蒸気機関車じゃないですか!」
「まあな。でも乗るのはこっちだ」


「めっちゃちんまり!」
「もともとダムをつくるための専用鉄道だったからな」
「さっきまで乗ってたのとはちがうんですか?」
「さっきのは大井川本線で、これは井川線」
「なんか真ん中あたりに寒そうな車両がありますよ」


凍てつく寒さのなか山間部に向かうにはいささかエクストリームすぎる感がなくもない、スケルトンな車両に躊躇なく乗りこむ専務






一見するとぽかぽかして暖かそうにおもえますが、遮るものが何もないので暖かいどころの話ではありません。窓1枚へだてた隣の車両には暖房がガンガンきいているとわかっているだけに、なおさら寒さがつのります。またこの路線はそれでなくとも山間だけにトンネルが多く(たしか50箇所以上)、このトンネル内の冷えこみ具合といったらほとんど懲罰です。あと至極当然の帰結として、音がすごいうるさい。







ここでふと先頭車両のあるものに目が止まり、忘れかけていた現実へ否応なく引き戻される安田タイル工業の面々



メリークリスマス!


それはそれとしてやはり寄る年波には勝てず、無言で暖房車へと避難しています





「おい、着いたぞ!」
「え、ここですか」
「ハートウォーミングでラブリーなポイントがここだ!」
「降りるの僕らふたりだけみたいですけど…」
「望むところじゃないか。何が不満なんだ?」







この駅は湖上のど真ん中にあって施設らしい施設もなく、むしろ恋人たちがお互いの愛を再確認するためのスポットとしての機能に特化しています。したがってホームに降りてひとしきり愛を確認し合ったあとはとくにすることがありません。次の下り電車は1時間半後、しかも16時43分発のこれがこの日の終電です。

これまでの流れ上、いやでも永遠の愛を誓い合わざるを得ない専務と主任


それではここで、数キロ四方にまったく人の気配がない山間の湖畔からタカツキ専務が世界に向けて放つ渾身の遠吠えをご覧ください。




手本を見せようとしゃしゃり出る主任



ちなみにふたりの遠吠えはここから放たれています


「とりあえず愛は確認しましたけど」
「うむ。したな。たっぷりした」
「これあと帰りの電車を待つしかないですよね?」
「いや、待たない」
「でもどこにも行きようがなくないですか」
「四の五の言わずについてこい」

















「橋が見えてきましたね」
「あれを渡り切った先に最終目的地がある」
「あ、まだ最終目的地があったんですね」
「ハートウォーミングで超ラブリー」
「愛ならさっきさんざん確認しましたけど」
「クリスマスにはうってつけなんだ」
「橋の手前に大きな鉄琴みたいのがありますよ」
「うむ。あるな」
「奏でましょうか」
「奏でよう」




心温まる可憐な演奏を終えた安田タイル工業の面々は、いよいよ最終目的地へとつながる大きな吊り橋を渡ります。



 その先にあったのは……


八橋小道、通称ラブロマンスロードです。

「どうだ」
「ははあ」
「胸がいっぱいになるだろう」
「なりすぎて胸焼けしそうです」
「これ以上クリスマスにふさわしい場所があるか」
「でも人っ子ひとり見当たらないですよ」
「貸し切りだ」
「誰に借りたんですか?」

説明には、「恋愛という戦いに必勝を祈り末広がりを意味する"八つ"の橋と小道を歩いていく。起伏に富んだ遊歩道はさながら"人生の道"のよう」とあります。

「戦うみたいですよ、専務」
「戦うからには勝たねばなるまい」
「僕ら中年なんでもうあんまり体力が」
「いくぞ、つづけ!天運我にありだ」









ぶじすべての橋を渡りきり、非の打ち所のない圧倒的な勝利に鬨の声を上げる安田タイル工業の面々。

「あれ?」
「どうした」
「橋、8つ渡りました?」
「渡っただろう」
「ひいふうみい…7つしかないですよ」
「いや、渡ってるはずだ」
「見落としたっぽいですね」
「荒ぶってたからな。瞬殺だったんだろう」
「じゃあ帰りますか」
「うむ。まだ16時すぎだがじき終電がくる」


*



♪パ〜パラララ〜(エンディングテーマ)


飽くなき探究心と情熱を胸に、安田タイル工業は今後も逆風に向かって力強く邁進してまいります。ご期待ください。


安田タイル工業プレゼンツ「聖夜のラブリーな過ごしかた」 終わり




※このあと9時間かけて帰りました。


*


おまけ1:列車を見送る専務




おまけ2:「帰りにさわやかなハンバーグを食わせてやる」と専務が連れていってくれたさわやかなハンバーグレストラン





2013年12月11日水曜日

要約したら1、2行で済みそうな話を長々と



いまいち職務を果たしてないようにおもわれるローソンの看板

*


(おそるおそる)こんばんは。

電話越しにアンジェリカの容赦ないタコ殴りで半死半生となってから早ひと月、傷を舐めることにかけては人後に落ちないわたくしのことですから、今やすっかり癒えて恙無く、ではまあえーと全然ないのですが、どうにかこうにか虫の息で生きながらえております。全国3000万、から2999万9970を引いて残った総勢30名(本人と肉親含むが親戚は含まない)くらいの小林大吾ファンのみなさま、ご機嫌いかがですか。今年は例年になくばりばりブログを更新していて、すごくいいぞ!とついこないだまで鼻息も荒かったのに、気づけばばーんと張っていた胸もしおしおと丸くなって今や猫背のていたらく、お約束ともいうべきゴール間近でのみごとな失速ぶりにじぶんでもガッカリです。

しかしここでこう更新しようとしているからには、さぞ有益な情報がもたらされるにちがいないとおもえば豈図らんや、とくに進展はありません。そもそもこのブログはCDをリリースしている人のそれとはおもえないほど全体的にのらりくらりとしていて、何かがまともに進展したためしなどないのです。

いや、そんなことはない(と今ふと思い出しました)。そういえば先日まで「リリース確定に至らず」とお伝えしていたように記憶していますが、これがまず確定になりました。どの時点で確定になったかというと、今や文具界ではその名を知らぬ者はない、OKB48の総合プロデューサーにしてTBSラジオの人気番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル(通称タマフル)」の構成作家でもある古川さんが…

こうして改めて書き出してみると、どうしてこんなすごい人が僕なんかにかかずらっているのか、つくづく考えさせられます。こないだはおいしい牛カツをごちそうになりました。ほとんど保護者です。

もはや来世でも返しきれない大恩については考えれば考えるほど身がちぢこまっていくので、ひとまず忸怩たる思いをくるくると丸めて脇に置きましょう。

ともあれそんな古川さんが先日タマフルの放送中、リリースについてお話しくださった時点で確定になりました。(僕がそのときまで息をしていればの仮定つきですが)来春です。まだ全体の3割くらいしかできてないことを考えると、ちょっとした夢のようですね。

そしてさらにもうひとつ申し上げると、その際あたらしい曲をひとつオンエアしてくれました。まだミックスどころかタイトルさえ決まっていないデモ中のデモ音源にもかかわらず電波にのせてしまう気っ風の良さにはまったく頭が上がりません。ありがとうありがとう。矢面に立たせてしまって本当に心苦しいかぎりです。抗議とか殺到してませんように。

*


これまでのアルバムと大きくちがう点があるとすれば…

あれ?

(もうだいぶ行数費やしてるな)

(これ以上何か書くと次書くことなくなる)

(このへんで切り上げてしまおうか)

(それがいい)


そんなこんなでもういちどあらためて、アルバムをつくっています。
オーディオビジュアルからもうすこしで4年、その次が出るなんて誰より本人が考えてもいなかったのに(あっ)、それでもやろうと言ってくれた古川さんあってのプロジェクトです。

多くなんて全然なくていいから、誰かにとって心から楽しんでもらえるものに仕上がりますように。



ここ数年、ずっとくだらないことばかり書いてきたから、急にこんな、お知らせみたいなの書くとなんか背中がむずむずしていたたまれないです。僕としてはくだらない話を延々としてるほうがよほどたのしいんだけれど、どっちがいいんでしょうね?と考えこむこと自体ひずんでるのか?


それはそうとなんか今年、灯油高いですね。


2013年11月9日土曜日

かろうじてお話しできそうなことをいくつか


<前回までのあらすじ>
いるのかいないのか、いるとすればなぜいないように見えるのか、ときどき思い出したようにプツリと消息を絶つのはべつに珍しいことでもないからそれはもちろん棚上げでよいとして、だとすると部屋にあるあの梨のようなものは何なのか、あれこそがまさしく本人なのだとするとなぜ齧ると甘い味がするのか、そしてまた本人でないとするとなぜあんなに瓜二つなのか、だいたい梨一つなのに瓜二つとはあまりに人を馬鹿にしているのではないか、いかにぞや、とまあ概ねこんな感じの流れでアンジェリカがダイゴくんに電話をかけています。アンジェリカのそばにはピス田さんがいます。アンジェリカは散弾銃で市長の鼻を吹っ飛ばしたことのある剛胆な女性です。ダイゴくんというのはこのブログの主です。ピス田さんはムール貝博士の助手であり、性別でいうとオスです。ムール貝博士は今ここにいませんが、このブログにおける火種そのものと言うべき人物です。

そしてここがどんなブログかというと、うっかり目玉焼きについての秘密を開陳してしまったがために、お腹を空かせたネットユーザーが多数ふらりと訪れるようになったものの、CDを3枚も出していることについては一切ふれられず、モノがモノだけにどちらかといえば不審がられ、あげく「もっとこんなレシピないですか」との要望が寄せられるようになり、そんならいっそ心機一転「ムール貝博士の手軽でおいしいひとくちレシピ」と看板を掛け替えてアクセスを稼ぎ、ついでにアフィリエイトもフル活用して文字どおりそれでゴハンを食ったほうがよほど生産的であるぞと真剣に検討していたら、ふいにポロリと涙がこぼれ落ち、げにむなしきは独り相撲と愁嘆に暮れる、あまたの個人発信の例にもれず、ここもそういう場のひとつです。

それはさておき


「もしもし」
「あッ出た!」


プツリ


ツーツーツー


「そして切られた」
「切るくらいなら出なきゃいいのに」
「それはムリでしょ」
「なんで?」
「だってあたしがかけてるんだもの」
「でも切ったぜ」
「それくらいの選択肢は与えてあげないとね」
「またかけるの?」
「当然」
「また切られるんじゃないの」
「馬鹿のひとつ覚えがいつまでも通用するわけないでしょ」
「電話ってそういうもんだっけ?」
「あっ」
「出た?」
「ははあ、そうくるわけね」
「どうしたの」
「電源切られた」
「むこうはむこうで心得てるわけだ」
「やれやれ!」
「どうする?」
「どうするって?」
「さすがにもうつながらなさそうだよ」
「そう?」
「そうって…そうでしょ」
「じっさいのところ電源が入ってようとなかろうと、関係ないのよ」
「いや、あるよ。関係メチャある」
「望んでもない番号を知らないうちに登録することができるなら、電源の入ってないケータイに電話をかけることだってできるはずでしょ」
「いやいやいや」
「カピバラがライオンに楯突いて勝てるとおもうほうがおかしい」
「自分を百獣の王にたとえたよこの人は」
「目にモノ見せてあげよう」



30分後



「というわけで」
「ホントにつながったね……」
「そう言ったでしょ」
「言ったけども……」
「抵抗するダイゴくんからムリヤリ引きずり出した情報がこれ」
「べつに欲しかったわけじゃない気もするけど」
「まあ、つながったからには引きずり出しておかないとね」
「穴があったらもれなく指を入れてみる、みたいなことだな」
「写真が送られてきた」
「写真?なんの?」
「さあ。地獄の入り口だって」
「またそんなところをうろうろしてるのか……」
「地獄の沙汰も金次第って言うし」
「ダイゴくん金もってたっけ?」
「だから追い出されたんでしょ」
「地獄から追い出されるなら貧窮もわるくないな」



「あといくつか情報があるんだけど、いちばん大事なのはコレ」
「何?」
「あれは梨です」
「ガーン!」
「新高梨です」
「いきなり核心に切り込んだ上にダメージがでかい」
「高速でぶつければ人の頭くらいは楽に砕けそう」
「砲丸みたいに言うけど、梨の話だよね?」
「それから、えーと、あとは大体わからない」
「わからないって?梨なんでしょ」
「梨じゃなくて、ダイゴくんの話」
「梨だったってだけでもう十分傷ついたよ」
「いろいろ聞いたんだけど、何を言ってるかわからないの」
「たとえば?」
「たとえばコレ」


→アルバムをつくっています。


「またか!懲りない男だ」
「アルバムって写真貼るアレでしょ?」
「いや……え?そういう認識?」
「夏の思い出でも整理してるわけ?」
「そんな思い出があればね」
「あとはまるでちんぷんかんぷん」
「何て言ってた?」
「箇条書きにするとこんなかんじ」


→気がついたらビートが40個くらい貯まっている
→そのうち20個ちかくはすでに詩がついている
→ただしいつにも増して大衆性を欠くため、リリース確定には至らず
→ムール貝博士の過去がひとつ明らかに


「おいおいおい」
「ってわけ」
「他はどうでもいいけど、最後のは何だ?」
「さあ……あたしにはそれだってどうでもいいけど」
「アンジェリカにはよくてもこっちがよくない」
「そもそも何の話をしてるのかさっぱりわからないし」
「CDの話だとおもうけどね」
「キャッシュ・ディスペンサー?」
「大衆性を欠くキャッシュディスペンサーに需要はあるのか?」
「まあ、とりあえず梨問題は片付いたからこれでよしってことよね」
「ヤブヘビだったとしかおもえない」
「死んでも遺体が腐らない程度には痛めつけておいたから、次は包帯でぐるぐる巻きのダイゴくん自身が息も絶え絶えに事態の収拾を図ります」
「せめて死なない程度に……え、電話で?」
「ついでに借りた本も顔面に叩きつけてやった」
「それはありありと目に浮かぶ」
「以上です。では解散!」
「博士には言えないな、まったく」


2013年10月24日木曜日

そこはかとない違和感に再度バチンと目をつぶる話



「ねえねえ」
「やあアンジェリカ」
「ダイゴくんてどっか行ったの?」
「ダイゴくん……?」
「知らない?」
「誰?」
「誰って言われると困るけど……このブログの主だよね」
「それはつまり、ほぼ何者でもないってことだな」
「忘れたの?」
「いや、冗談だよ。知ってる知ってる」
「どっか行ってるの?」
「さあ。居所は知らないな。部屋は?」
「行ってみたけど、いなかった」
「アンジェリカがダイゴくんの部屋に行ったその理由のほうが気になるな」
「借りてた本を返しに行ったの」
「ああ、なるほど」
「前にくまのプーさんを借りたんだけど」
「くまのプーさん?ミルンの?」
「そしたら同じ作者だからってこれを貸してくれたわけ」
「『赤い館の秘密』……」
「これがさあ」
「これホントにプーさんのミルン?」
「同じなの。たしかに同じ人なんだけど!」
「どうしたの」
「本格推理小説なんだよね!」
「くまのプーさんみたいのを期待してたのに?」
「くまのプーさんみたいのを期待してたのに!」
「で、読まなかったと」
「まさか。ちゃんと読んだよ。読み終わってから気づいたの」
「だって創元推理文庫って書いてあるぜ」
「そんなのいちいち気にしないもの」
「おもしろかった?」
「おもしろかった!これたぶん、名作だとおもう」
「じゃあ問題ないじゃない」
「それとこれとは話が別なんです」
「そう?どこが?」
「ピス田さん『アメリ』観た?」
「なんだって?」
「アメリ。観た?」
「観たよ、いちおう」
「好き?」
「何の話をしてるんだ、いったい?」
「まあいいや、じゃあピス田さんはアメリが好きだとする」
「と言われてもね」
「で、こんな映画がもっと観たいとおもったとする」
「べつにいいけども」
「そこであたしが同じ監督の作品を持ってくる」
「ジャンピエールジュネの別の作品てこと?」
「そう。うれしいでしょ?」
「うれしいとおもうよ、たぶん」
「じゃあこれ、ってあたしがDVDを手渡す」
「ふむ」
「それが『エイリアン4』なわけよ」
「ああ…」
「エイリアン4がどうってことじゃないの。それはそれでいいの」
「なるほどね」
「まちがってないけど、でもそうじゃないのよ!わかるでしょ?」
「それで文句を言いに行ったわけだ」
「文句?」
「ちがうの?」
「誰に?」
「ダイゴくんでしょ」
「あ、そうだった。そうそう、そういうこと」
「で、いなかったと」
「あの人なんでいつも部屋にカギかけないの?」
「知らないよ」
「ふつうに開くからいるとおもうじゃない」
「あんまり意味がないとおもってるんじゃないかな」
「なんで?」
「しょっちゅう博士にこわされてるし、それに…」
「それに?」
「博士は合鍵も持ってる」
「なんで?」
「そこが博士の博士たる所以なんだよ」
「まあいいけど。そしたら書き置きがあったの」
「部屋に?」
「部屋に。探さないでくださいって」
「あれ?」
「べつに探すつもりもないけど、ピス田さんなら知ってるかなとおもって」
「その書き置きならわたしたちも見たな」
「わたしたちって、ピス田さんと…」
「博士だよ。そうだそうだ、おもいだした!」
「そのときにもういなかったの?」
「いや、いた。ただ、なんか様子がへんだったんだ」
「へんなのはいつもでしょ」
「それを言っちゃ身もふたもない」
「ちょっと待って、本人がいたのに書き置きを見たの?」
「そう、そこがへんなんだ」
「それホントに本人だった?」
「もちろん」
「梨じゃなかった?」
「梨?」
「メガネかけた梨なら置いてあったけど、まさかそれじゃないよね?」
「いやいや、いたよ、ちゃんと」
「なんか話した?」
「話しかけても無反応だったからなあ」
「それ梨でしょ」
「まてまて。メガネをかけてたって?」
「そう」
「だとするとその梨は頭とおなじくらいの大きさってことになるぜ」
「うん……あれ?」
「デカすぎるよ」
「言われてみれば…」
「いたんだよ、本人が。そこに」
「うそでしょ。どう見ても梨だったけど」
「見間違えたんだよ」
「そしたらあの書き置きは何?」
「メモじゃないの?」
「そんなメモある?」
「メモってそんなもんだよ。たとえばここにも1枚あるけど」
「何?」
「なんて書いてある?」
「『おどりぐい』って書いてあるけど…」
「洗濯したシャツから出てきたんだ」
「これが何なの?」
「さあ。それがさっぱりわからない」
「忘れただけでしょ」
「たぶんね。だからあの書き置きもそうなんだよ、たぶん」
「そうなのかなあ」
「電話してみた?」
「え?」
「電話」
「だれに?」
「ダイゴくんに」
「番号知らないもの」
「登録してあるよ、たぶん」
「してないってば。必要ないし」
「いや、してあるとおもう。確認してごらん」
「してないって……あら?」
「あったでしょ」
「何これ、いつの間に…?きもちわるい!」
「でないと話が進まないからね」
「イヤだなあ、こんなの」
「人生はイヤなことでいっぱいだ」
「あたしの人生にイヤなことなんてひとつもない」
「その例外がダイゴくんてわけだ」
「もう……しかたない、かけてみるか。出るかしら」


ぷるるる


「もしもし」
「わ、出た!」



つづく