荷重100%さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. お風呂場のお湯と水が蛇口を閉めても止まりません。漏れ続ける水の利用方法を教えてください。
よい心がけです。あるがままに欠陥を受け止め、それを慈しむばかりか、さらなる高みへと誘う高僧のような姿勢には、わたしたちも大いに学ぶべきものがあります。質問でありながらそれ自体が答えとして完成しているなんて禅問答みたいな話です。個人的には「早く修理しなよ」と思わないでもないですが、考えてみれば徳の高い僧は自分で蛇口の修理なんかしなさそうな気もするし、功徳を積むつもりですこし向き合ってみましょう。
手塚治虫による不朽の名作に「火の鳥」という壮大なシリーズがあります。中でも最高傑作との呼び声も高い一編が、「鳳凰編」です。ここでは隻腕にして隻眼の賊である我王と仏師である茜丸の交錯する人生が圧倒的な筆致で描かれています。
どちらかというと作中で比重が大きいのは我王のほうかもしれませんが、ここで取り上げたいのは茜丸のエピソードです。
一流の仏師となるべく研鑽を重ねていた茜丸はある時、ただ気に入らないという理由で我王に右腕を斬られます。彫刻を生業とする者にとって利き腕の自由を失うことは、死にも等しい悲劇です。
その傷を介抱した寺の住職は、もう仏師ではいられないと絶望する茜丸にある彫刻を見せます。今にも動き出して飛び跳ねそうな、鹿や猿の像です。あまりの出来栄えに驚嘆する茜丸が彫り手の名を尋ねると、住職は境内にある鹿威しを指します。斜めに切った竹が水の重みで石に当たってカコーンと鳴る、アレですね。
要はしたたる水の下に石を置き、長い年月をかけてすこしずつ位置をずらしながら滴の弱々しい力だけで動物の形に仕立てていたのです。
ちなみに僕は鳳凰編を小学生のころ読んでいたので、「雨垂れ石を穿つ」という諺には故事があってそれがこれだとかなり長いこと思いこんでいました。それくらい説得力のあるエピソードです。
もうおわかりですね。漏れつづける水の利用法はいろいろあると思いますが、いただいた質問に対する答えという意味ではおそらくこれしかありません。
A. 何らかの像を彫りましょう。
ちなみにひとつ彫るのに7年くらいかかるそうです。必要ならそれとは別の新しい蛇口を取り付けてください。
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その386につづく!
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