たけのこの佐藤さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. 地域によって鎌だとか鍬だとか農具の形が少しづつ違うことを最近知ったのですが、身の回りのものでこれちょっと普通じゃないなという形のものはありますか。
これまでもツイッターで何度かふれてきましたが、僕の身の回りでちょっと普通じゃなさそうな形といったら、何はさておき文化鍋です。少なくともこの数十年、僕の身近で使っている人に出会ったことはありません。
どことなくおっぱいに見えなくもないのは把っ手がなくなってしまったからです。
ウィキペディアにもあるように、文化鍋とは主に炊飯用の鍋です。僕が生まれたころにはもう炊飯器が一般的だったとおもうけど、どういうわけかうちは炊飯器ではなくずっとこの鍋で米を炊いていました。実家が炊飯器に切り替えたのち、僕がそれを引き継いだのでたぶん40年以上は現役で使っていることになるとおもいます。
使い方はすごく簡単です。米を研ぎ、水を張り、30分くらい浸したら強火にかけ、沸騰したら弱火にして、15分くらいで火を止めます。10分蒸らせば炊き上がりです。コツもへったくれもありません。炊き込みご飯とか、ちょっとお焦げができたらうれしいな、というようなときに調整できるのはちょっとした強みですね。
最大の難点は保温ができないことで、僕もかつては米を保温するためだけの「保温ジャー」を持っていましたが、保温する必要を感じなくなった時点で処分しています。米を保温するためだけの家電なんだから、そういえばこれも家庭ではあんまり普通じゃないもののひとつですね。保温しかできないジャーを置くくらいなら炊飯器にしなよと今ならおもいますが、当時その発想は全然なかったです。なんかもう、そういうもんだとおもってごはんをせっせと鍋から移し替えてました。
もちろん、というか何というか、ふつうに炊飯器を使っていた時期もあります。誰からだったか「炊飯器もらったんだけど、よかったら持ってく?」みたいな流れでありがたくいただいたのです。そもそもがこだわりというよりこれで炊けるなら別にこれでいいじゃないかくらいの気持ちで使っていたから、とうとううちにも文明の利器がやってきたと心躍ったことを覚えています。何と言ってもいちばんテンションが上がったのはタイマー機能で、朝起きたら自動でごはんが炊けてるとかすごい、まじすごいと感動してました。念のため申し添えておくと、この時点で昭和ではなくとっくに平成です。
そこからなぜまた文化鍋に戻ってしまったのかは、いまいちよく覚えていません。ただ文化鍋はもともと炊飯用ではあるけれど、パスタを茹でたり豆を煮たり、ふつうに鍋としてもばりばり重宝するので、別に炊飯器なくても困らないというか、これもあんまり必要性を感じなくなっちゃったんですよね。
あと、何と言っても文化鍋の強みは「とにかく頑丈であること」です。一応把っ手はプラスチックだったとおもうので消耗するというか割れたり溶けたりして、うちのも今や跡形もありません。でも雪平鍋なんかとちがって、なくてもふつうに使えるというか、本体はアルミ鋳物だからどんなに乱暴に扱っても本当に、まじで、全然、壊れない。電気も不要だし、世界が滅亡したのちのサバイバル中に背後から何者かに襲われた時なんかは鈍器や防具にもなります。
じつはもうひとつ、祖母が亡くなったときにストックしてあった新品の文化鍋を引き取って持っているのだけれど、何しろ現役の鍋が一向に壊れないので今も新品のまましまってあります。この分だとたぶん死ぬまで開封できないんじゃないかとおもう。
シンプルにして頑丈きわまりない、実用的な美があるとしたら、まちがいなくこれがそのひとつです。土鍋でごはんの美味しさを極めるのもいいけど、僕なら同じ直火でしかも圧倒的に汎用性が高い文化鍋のほうをぐいぐい薦めます。
一見めんどくさそうにおもえて、炊飯器もけっきょく内釜を洗わなきゃいけないこと考えたらそんなに大差ないとおもうんだよな。
土地によって形が変わるもの、では全然ないですけども。
A. 文化鍋です。
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その342につづく!
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