ツルの倍返しさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. 今まで食べたものの中で一番美味いと感じたものは何ですか?
こう言ってしまってはなんですが、僕は物心ついてから食べものを前に「不味い」と発語したことは本当に数えるほどしかありません。回数で言ったらたぶん、片手で足りるとおもいます。世間にはすごく美味しいとまでは言えない程度で不味いと言ってしまう人もいますが、僕にとって不味いとはシンプルに「口に入れていられない」という意味であり、実際に吐き出したものだけです。パッと思い出せるのはまだ10代で料理にあれこれ試行錯誤を重ねていたころ、里芋の煮っころがしにオレガノを入れてしまったとき(鉛筆みたいな味でした)と、その昔コンビニで買った森永の「カレーヨーグルト」ですね。西部劇で決闘するガンマンの早撃ちよりも早く吐き出したのは今のところこれだけです。
ためしにググったらウィキペディアの記載があるばかりか、記憶に違わぬ衝撃的な商品であったことを裏付けてもらえて本当に助かります。98年だったか……すげーなインターネット……。
美味いと感じたものの話なのになぜ不味いものの話をしているのかというと、それ以外は僕のなかでだいたい「美味い」に分類されているからです。安心して食事ができることそれ自体を美味いと定義してしまっているふしすらある。
そうなると今までで一番美味いというのはかなりハードルの高い難問になってきます。それはワンピースで言うとサンジに美しい女性を一人選べというようなものです。このたとえでどれくらいの人に伝わるかわからないけど、食物に関しては少なくとも味覚のみでの判断は困難を極めます。どうしてもこう、そのときの状況、思い出なんかとセットになってしまうのは避けられません。
それで言うとまず思い出せるのは、小学生くらいのときに食べたイカの刺身です。水揚げされたばかりのものだったらしくて、色も透明、食感もぷちぷちと口の中で弾けて鼻血が出るほど興奮したのをおぼえています。イカというのは白くてクニクニしたものだとおもっていただけに、あの衝撃は忘れられません。ただこれは味覚がどうというより、味覚ではあるんだけど、それ以上に未知との遭遇ですよね。
それから肉体労働をしていたころ、工事現場の残土で育てていたトマトです。トマトをあんなに美味いとおもったのは後にも先にもこのときだけですが、これもまあ夏の炎天下だったし、真っ赤な完熟をその場でもいで食ったんだからそりゃ美味いわと言うほかありません。たぶん、あのトマトをいま食卓に出しても同じ美味さは味わえないとおもう。残土がまたちょっとね、いい土だったんだよな。
食べものでなくてもよければ、シンプルに味覚のみで衝撃を受けたものがひとつあります。もう10年近く前にブログにも書きましたが、伯母にもらったダージリンのファーストフラッシュです。紅茶ですね。
そもそも僕がコーヒー派であること、また紅茶好きの人がキレてもおかしくないほど時季を逸してしまっていたにも関わらず、あまりの美味さに一週間ほどコーヒーを飲まずその紅茶だけをだいじに飲んでいたこと、さらに状況や思い出なんかとは結びついていなかったこと等々を考え合わせると、本当に掛け値なしの美味さだったんだとおもいます。中国茶の奥深さもヤバいらしいという風の噂も、あのとき初めて、実感として理解できたような気がしたものです。紅茶なのに黄金色だったしな……。
アイスの中で、というかなり限定された条件つきでよければ、これも昔、名前も覚えていないお店で食べたザバイオーネのジェラートです。そもそも特にアイス好きというわけでもないので、これを超えたことはいまだにありません。ザバイオーネが何だかも知らなかったし、今ググっても「んん?そうだっけ?」というかんじで全然ピンとこないのだけれど、ザバイオーネという耳慣れない単語だけは今でもよく覚えているし、あれから一度も出会っていないせいもあって僕の中でちょっとした伝説と化しています。あれは一体何だったんだという謎がまた過大評価に拍車をかけているとおもう。
それでまあ、一晩たってもまだ今までに食べた美味いものを思い出そうとしていたのだけれど、単にめちゃめちゃ美味い、ならいくらでも出てくるんですよね。あれも美味かったし、これも美味かった、でもその中で一番と言われると途端に思考が止まります。人生でとりわけ美味かったものを、たったひとつだけ挙げるなんてことができるんだろうか……?それはある意味、否が応でも自分の人生を象徴する、もしくはそれと等価値を持つ食べものです。ですよね?
選んでみたい……けど、そうすると何だ?何になるんだ?紅茶……紅茶でいいのか……?毎日飲んでいるのはコーヒーなのに?
しみじみと、よい質問です。機会があったらいろんな人に訊いてみよう。とりあえず今日のところは、紅茶で!食べものじゃないですけど。
A. 伯母がインドから持ち帰ったダージリンのファーストフラッシュです。
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dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その335につづく!
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