2013年8月13日火曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その167



続・猿の剥製さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)続というからには1匹目がヒットしたんでしょうね。


Q. 私はとても汗かきです、夏場に外出でもしようものなら大惨事になってしまいます。10代のころはそんな自分が嫌で周りの目を気にして、余計汗をかいていたのですが、20代も半ば近くになり、それも個性だと、匂いさえ気をつければいいか、とあまり気にしなくなってきました。ですが、それでも汗なんてものは必要以上にかかない方が良いに決まっております(服屋で服が試着できない…。)少しでも減ってくれればいいんですが…、どうしたらいいでしょうか?


僕も先日滝のような汗を流しておもいましたが、この状態が日ごろからさほど珍しくないのだとしたら、その難儀は察するに余りあります。ふつうの夏でもそうなのに、とくに今年のような歴史を塗り替える超暑となったらまったくやりきれますまい。

これがもし体質とバッサリ縁を切りたいといった主旨の法外なお話ならば、切り捨て御免でうっちゃっておいてもよさそうなところなのですが、さにあらず、何しろ大部分はご自身できちんと折り合いをつけておられます。受け入れた上でほんの少しの改善を願うささやかなきもちを、いったいどうして無碍にできましょう?いくらかでも力になれるものならば、よろこんで力になりたい。

僕はあまり汗をかかないと前に書きましたが、生まれつきかというとじつはそうではありません。十代のころはわりとかいてました。ではなぜそれほどかかなくなったかというと、さすがにそれが直接の原因ではないにせよ、ひとつ思い当たることがあります。暑い暑いとおもいながら溶け出しそうな顔でうだうだと歩いていたあるとき、ひとりのご婦人をみかけたのです。

着物をきっちりと身につけ、右手に日傘、左手に扇子で、じつにすずやかな顔をしています。どう考えても僕なんかより断然、厚着です。暑くないわけがない。でもぜんぜん、そんなふうに見えない。すくなくとも、顔に出ていない。

そのぱりっとして乱れのない立ち居振る舞いには、ハッとさせられるものがありました。ひょっとして僕は暑いというきもちを辺りかまわず撒き散らしすぎていたのではないか?それで涼しくなるなら格別、却って暑さをみずから増長させてしまっていたのではないのか?四六時中真夏日に対する非難を垂れ流す自分のような人のそばにいるより、あのご婦人のそばにいるほうが同じ暑さでもよほど涼しく感じられそうじゃないか!

そうおもったら今にもでろでろと溶け出しそうなじぶんの顔が途端に恥ずかしくなってきたのです。どのみち暑さが変わらないのなら、そんな顔はしてもしなくても同じです。それならあのご婦人のように何でもない顔をしているほうがずっとさわやかでうつくしい。要は気の持ちようで顔に出さなければいいのだから、真似してできないようなことでは全然ありません。猿真似だろうとなんだろうと、あのたたずまいに近づけるものならちょっとでも近づきたい。

それ以来、僕はなるべく暑さを口にしないようにしています。たとえどんなに厳しくてもです。いえもちろん、さすがにこりゃ参るなとおもうときはあります。とりわけ今年はその頻度が異常に高い。でも顔には出しません。出そうとするとあのご婦人の姿が脳裏をよぎります。

見よう見まねで実践してみてわかったのは、顔と口に出さないだけで、感じる暑さはがらりと変わる、ということです。そして感じかたが変わると、汗のかきかたも変わります。こんなことで汗をかかなくなるなら世話はないし、実際かくにはかくんだけど、身体が意に反して暴走しないよう手綱をしっかりにぎっているような印象があるのです。

……


これ…

僕はそのとおりにしてびっくりするくらい効果があったし、たしかにあると信じてるんだけれど、冷静に読み返してみるとマジかよという気になってくるのはなぜでしょうね?書き方がマズいのか?

まあよろしい。こんな向き合いかたも時としてばっちり功を奏することがある、くらいに受け止めてください。


A. 「待て。待て。まだ汗の出る幕じゃねえ」と啖呵を切れば、汗もそのうち「そういうものかな」という気になってくるとおもいます。


そしてまあそれはそれとして、年を取ったり、赤ん坊が泣くのと同じで、汗はやはりかくものです。その程度が甚だしいからやりきれなくもなるわけですが、でもそんなご自身の性質を否定せず、どうにかこうにか折り合いをつけながら前を向く続・猿の剥製さんが、僕は好きです。その上でできればもうちょっとお手柔らかに、と願うのも当然ゆるされて然るべきだとおもうし、またその控えめな姿勢が、いかに気立ての良さや信頼できる人物であることを表しているかも、僕にはしみじみと伝わってきます。同じきもちを抱える人にとっては、続・猿の剥製さんほど正面から受け止めてくれる心強い味方は他にありません。

それもひとつの器量だとおもいませんか?




質問はいまも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その168につづく!


4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

これは本当に同意できる。
同じような光景を見て同じように実践して同じような効果があって、理由がはっきりしないまま「これが噂のプラセボ効果ってやつか!」と、そういう着地の仕方をしました。

でもこれ、寒くて震えている時にはまったく効果がありません。なぜだろう?

ピス田助手 さんのコメント...

> 匿名さん

そ う な ん で す !

何しろ僕、極度のさむがりなので
同じようにためしてみたんだけれど
さむいときにはちっとも役に立たない。
もう、まったくもって、おっしゃるとおりです。

乾杯したい。

サクマミオ さんのコメント...

あー!確かに寒さには役に立たない!
寒さに気づかないふりをするという無駄な足掻きをしている人間が私だけではないと知って励まされる思いです…。

ピス田助手 さんのコメント...

> ミオさん

こんなことでもないとつながらない
仲間が意外といるものなんですねえ。

同志!