2018年12月23日日曜日

安田タイル工業のグレゴール賞2018 後編


<前回までのあらすじ>
いつまでたっても煮え切らないルノーの態度に日産の首脳陣が業を煮やすなか、安田タイル工業の社員たちは一丸となって栄えある第1回グレゴール賞選考のため、どこにあるのか未だ判然としない会場へと急ぐのであった。

→前編はこちら


「海ですね」
「海だな」
「いくらなんでも過程を端折りすぎじゃないですか」
「出航時間ギリギリすぎてそれどころじゃなかったろうが」
「それはそうですけど、何がなんだか」
「ちなみに貸し切りだぞ」
「えっ」
この船には乗組員以外、われわれしかいない
「ええー!」

いつどの時点でそうなったのか、とにかくやぶからぼうに海で船ですが、たまたま乗客が他にいなかっただけとは言え、実質的に船を借り切ることなどしたくてもそうそうできることではありません。いつの間にか船の上にいるのと同じくらいやぶからぼうなサプライズにテンションだだ上がりな安田タイル工業の面々。

キャッホー!






ホントに誰もいない

「あっそうか」
「どうした」
「下田から船に乗ったってことはこれ、どっかに上陸するんですよね!わあー大島かな?新島かな?船は貸し切りだし、ゴージャスすぎてもう」
「おい浮かれるな」
「ハッ」
「われわれはグレゴール賞の選考にきてるんだぞ」
「そうでした」
「その使命を忘れてはいかん」
「あっ専務、写真撮りましょう写真」
「おい聞いてるのか」
「はい、チーズ!」
パシャリ

安田タイル工業の社員たち

緊張感漂う選考風景


選考中

正装する専務



正装する主任


そうこうしている間に神津島に到着。通常は島の表玄関とも言うべき前浜港なのですが、この日は海が荒れていたため、島の東側にある多幸湾に入港です。島にそびえる天上山は西側が豊かな緑、東側が岩むき出しの荒々しい山肌と劇的に異なる景観ながら、主に目にするのは前浜港のある西側なので、東側を望むことができる多幸湾から入港できたこの日はかなりラッキーだったと申せましょう。かく言う主任も山の東側から全体を眺めたのはこれが初めてです。



「わあー神津島だ!上陸?上陸ですか?」

上陸しない

式根島に到着。


「わあー式根島だ!上陸?上陸ですか?」

上陸しない

「てことは新島かな?やっぱり上陸するなら大きい島のほうが」



上陸しない

「あれ……じゃあ利島に……あっ富士山だ!」



と、今朝の雨模様からはとても想像できない空の爽快すぎる晴れ渡りぶりに心奪われているところへ、船内アナウンスが流れます。

利島は本日不良のため欠航となりましたので、これより下田港に帰港いたします
「最後まで上陸しなかった!」
「おい、いいから選考に集中しろ」
「だって目の前に島があるのに」
「何しにきたとおもってるんだまったく」

出航から瞬間的に沸騰したテンションもお湯のようにゆっくりと冷め、ようやくしょんぼり本腰を入れてグレゴール賞の選考に向き合う安田タイル工業の面々。




選考中


選考中

そうしておよそ7200秒にも及ぶ長時間の討議の結果、受賞したのは……


タイル賞:シャイニングマンデー

個々人で向き合うべき問題を全体で向き合おうとした結果「何言ってんだおまえ」と案の定こき下ろされながらも未だにくすぶりつづけているプレミアムフライデーという怪物に対し、「月末金曜は忙しい」という当たり前すぎる理由から経産省の職員向けに提唱されたもうひとつの怪物がシャイニングマンデーである。あくまで省内の職員向けであって一般に推奨するものではないというが、じぶんたちが実践できないプレミアムフライデーはそのままにじぶんたちだけ都合のいいシャイニングマンデーに置き換えたことで、みんなわかってたプレミアムフライデーの形骸化にあろうことか提唱者がお墨付きを与えたばかりか、どうも未だそのことに気づいてすらいないらしいという、やるせない事実こそまさしくタイル的であるといえよう。

しかしそうしてみると気の毒なのはプレミアムフライデーやシャイニングマンデーといった怪物的概念である。どう考えても責めを負うべきは怪物をつくりだした親であって、プレミアムフライデーやシャイニングマンデーそのものではない。後者にいたっては前者とちがって一般に推奨されたわけではないにもかかわらず、同じように叩かれる始末である。

生まれた怪物に罪はない。それでも人が愛せないというのなら、我々が愛さずにいったい誰が愛してやれるというのか?安田タイル工業としては心からの愛をこめて、シャイニングマンデーにタイル賞を贈りたい。


平和賞:同盟関係にある英国で発生した毒殺未遂事件を受け、ロシアのスパイを追放しようとしたらそもそもスパイがいなかったニュージーランド

それは言ってみれば「掃除しようとしたらゴミが落ちていなかった」というようなことであり、権謀術数という名のゴミにまみれた世界においてにわかには信じられないくらい、いい話である。



努力賞:106年ぶりに利尻島まで泳いで上陸したヒグマ

婚活のために北海道から20キロ泳いで島へとたどり着いたが、交際相手がみつからずにまた泳いで帰る、だいたい106年ぶりというのは明らかにその甲斐がないからだが、そんな些細なことは歯牙にもかけない愛すべき徒労ぶりは文句なくグレゴール賞に値する。


自然科学賞:自由浮遊惑星

公転するから惑星なのに公転しないなんて自由すぎるにもほどがある。スケールも圧倒的かつ文字どおり天文学的である。


ブザービーター賞:ギョウザがおいしい永田町の開化亭

他に選択肢がないのでやむを得ず半ば投げやりに入った店がめちゃめちゃ美味かったとき、もしくはあまりの好印象で心理的な逆転が起きたとき、安田タイル工業ではこれを「ブザービーター」と呼ぶ。本来はバスケットボール用語である。


ナイスミドル賞:ランク落ちのコシヒカリを選んだ石関事務長

討議による賞の選考が熱を帯びる中、「お仕事ですか」と話しかけてくれたあぜりあ丸の石関事務長は気さくでフレンドリーなナイスミドルである。事務長さんはコシヒカリが気になるとのことであった。


追記:事前予想で最有力候補と目されていた「いきなり!ステーキのステーキ提供システム」「築地場外市場に投じられた8669票」が受賞を逃したことについては、討議がおもいもよらない視点と結論をもたらすこともあると述べるに留めておきたい。


ぶじ賞が決定した安堵感からか、急に腹の虫がグーと鳴り出します。

「そういえば昨日の晩からなんですけど」
「ん?」
ずっとお腹がすいてるんです
「よしメシだ。パーッといくか!」

考えてみれば前夜、箱根のあたりで食事処を探すも丑三つ時で見当たらず、朝は朝でとるものもとりあえず飛び出してきたため食事をし損ない、そのまま港まで一直線でいつもどおり出航時間ほぼぴったりに船へと飛びこんだため食べるどころか買う暇もなく、気がついたらそのまま日が暮れようとしていたのです。

パーッといった結果





結局どの島にも上陸しないまま、美しい海を眺めながら船上でカップラーメンを食って帰ってきた安田タイル工業の面々。

「専務」
「なんだ」
「お腹がすきました」
「またか」
すくに決まってるでしょうが!
「そうキレるな。よし、パーッといくか!」




土曜の晩から月曜の晩までほとんど寝ていない専務


なんとなく見覚えのあるお店でなんとなく見覚えのあるものを食いながら、しみじみと選考会を振り返ります。世のため人のため、そして主にタイルのためにひたすら心のタイルを磨いてきた安田タイル工業が満を持して世界の知られざるタイル的精神に捧げるグレゴール賞の重みとたらふくつめこんだハンバーグが胃にずっしりともたれるようです。



「昨夜の専務のライブなんですけど」
「ああ、あれ昨日だったか」
常務もライブしてましたね
「数年ぶりの帰国だったからな」
「あの人じぶんが常務って知ってますかね」
「たぶん知らないだろう」

あのころはまさか10年後も会社が存続しているとは夢想だにしていなかったことを思い出して、感慨もひとしおの専務と主任。今やTシャツにマグカップ、スマホケースとグッズも豊富で、社会に賞を授与するほど存在感が増したのだから、考えてみればずいぶん遠くまできたものです。



♪パ〜パラララ〜(エンディングテーマ)


飽くなき探究心と情熱を胸に、安田タイル工業は今後も逆風に向かって力強く邁進してまいります。ご期待ください。


安田タイル工業プレゼンツ「第1回グレゴール賞選考会」 終わり


2018年12月19日水曜日

安田タイル工業のグレゴール賞2018 前編


某月某日……

安田タイル工業の専務がタイル業のかたわら営んでいる音楽活動でたいへん豪勢な響宴を催し、大盛況のうちに幕を閉じたのです。

縦横無尽にラップする専務と、それを草葉の陰から見守る主任……この夜ほど安田タイル工業の社員であることを誇りに感じたことはありません。主任にいたっては「専務!アレうちの専務です!ワーワー!」とひとりツイッターでおとなしく喚いていたものです。


「いい夜でしたね」
「ウムいい夜だった」
「それはいいんですが」
「どうした」
「これ帰り道ですよね」
「そうだぞ」
「なぜ僕が専務の車に同乗してるんですか?」
「何を言うんだ、水くさい」
だってクソ山道ですよ


「おいおい忘れたのか」
「えっ」
「もう今年も終わりなんだぞ」
「あっまさか!」
「もちろんそのまさかだ」


世界に向けて遠吠えを!

あるかなきかの零細企業、もしくは世界のミスリーディングカンパニー、でなければある種のミクロネーション、安田タイル工業のなんかどっか遠くに行くやつが今年も帰ってきた!2017年12月以来となる今回も、細かいことを気にしないハートウォーミングな旅に専務と社員、総勢2名の大所帯でクリスマ

「ちょっと待ってください」
「なんだ」
「クリスマスには早すぎませんか」
「誰がクリスマスと言ったんだ」

※安田タイル工業のクリスマスについては以下をご参照ください。
2010年
2011年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年

「クリスマスじゃなければ何なんですか!」
「期待を裏切られた恋人みたいな口調だな」
クリスマスじゃなければ何なんですか!
「2回も言うな。グレゴール賞の選考会だ」
「えっ」
「グレゴール賞の選考会だ」
「まさか!あの!」
「うむ」
グレゴール賞の選考会!
「そう言っただろうが」


グレゴール賞とは、あらゆる困難が僕を打ち砕く(Mich brechen alle Hindernisse)」と言い遺した文豪フランツ・カフカ(1883-1924)の飽くなきタイル精神に敬意を表して、タイルの健全な発展を目的に、その年最もタイル精神に富んだ人、物、事を讃えるべく設立された賞である。


受賞者はジンバブエドルに匹敵するタイル通貨でおよそ1億タイル、台座にカフカの至言が刻まれた彫像、そして大量のジャガイモが贈られる気持ちを授与される。


今年度のノミネートは以下のとおりである。


・ 「アカデミー賞を観る代わりにしていることをいくつか」シリーズをリアルタイムでドロップしつづけたマコーレー・カルキン
・ 国際信州学院大学
・ 106年ぶりに利尻島まで泳いで上陸したヒグマ
・ 自由浮遊惑星
・ とうとう粉末になった水素水
・ ローマ帝国時代の金貨
・ 世界にひとつしかない、周の長さと面積がどちらも同じ直角三角形と二等辺三角形の組み合わせ
・ いきなり!ステーキのステーキ提供システム(特許公報5946491号
・ 南極から流れ出した世界最大のタイル
・ インドに建造された世界最大の立像
・ ギョウザがおいしい永田町の開化亭
・ ダーツの世界大会で負けた理由を対戦相手の放屁のせいにしたウェズリー・ハームズ選手
・ すごくさみしいエピソード
・ 自宅からの退去を求めて両親に提訴されたマイケルさん
・ 築地場外市場の名称を決める選挙に投じられた8669票
・ シャイニングマンデー
・ グリーンランド沿岸に漂着した100メートル級の氷山
・ 同盟関係にある英国で発生した毒殺未遂事件を受け、ロシアのスパイを追放しようとしたらそもそもスパイがいなかったニュージーランド
・ 乱気流に巻き込まれて機内のほぼ全員が嘔吐したウィスコンシン航空3833便
・ 特AからAに転落した魚沼産コシヒカリ


「ということはこのクソ山道は……」
「選考会場に向かうその道すがらというわけだ」


この時点で丑三つ時ど真ん中の午前2時であることなど意にも介さず、長年夢みてきたグレゴール賞の発表に胸を躍らせる安田タイル工業の面々。そういえばわざわざ言わないと誰にもわかりませんが、ふたりとも安田タイル工業のTシャツを着ています。

「よし、ついたぞここだ」
「えっ」





「こんな豪勢なところで!」
「しずかにしろ、夜中の3時だぞ」
「夢のようですね」
「何はともあれ、風呂だな」
「お風呂ですって!」
なんだ入ったことないのか
「ありますよお風呂くらい!」




それにしても写真でお見せできないのが本当に残念でなりませんが、そこは地上から7階の高さにある天空露天風呂であり、降り出した冷たい雨と漆黒の闇に包まれて得も言われぬ風情を醸し出す、夜の楽園だったのです。もうもうとたちこめる湯気から時折顔を出す山々の黒い稜線と、かけ流しの源泉に肩までつかりながら仰向いた顔にぱたぱたと落ちる雨粒の心地よさ、いつもなら首をすくめてしまう12月のきりりとはりつめた空気すら、愛おしく感じられます。長年会社に対してただただ愚直にひたすら滅私奉公をつづけてきた甲斐があったと、目頭を熱くせずにはいられません。安田タイル工業にあってこれ以上の至福はどうしたって望めないとおもえば、何ひとつ始まってないけどもうここがエンディングでいいじゃないか、そんな気までしてきます。



「いいお湯でしたね」
「ウムいい湯だった」
「僕おもうんですけど」
「なんだ」
「もうエンディングでよくないですか」
「おいおい始まったばかりだぞ」
「いえ、あんまり幸せすぎて」
「朝までゆっくり眠るといい」
いま朝の5時ですけど
「ふふふ」
「ふふふ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」


♪パ〜パラララ〜(エンディングテーマ)


飽くなき探究心と情熱を胸に、安田タイル工業は今後も逆風に向かって力強く邁進してまいります。ご期待ください。

安田タイル工業プレゼンツ「発表されなかった第1回グレゴール賞」 終わり


「おい起きろ」
「ムニャ?」
「6時半に出発するぞ」
5時に寝たばっかですよ!
「わたしだって眠いんだ」
「え、出発?出発って」
「なんだ」
ここが会場じゃないんですか?


<後編につづく!>

2018年12月11日火曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その291


ふくらはぎだるおさんからの質問です。(ペンネームはご自身でつけられています)


Q: 大吾さんのアルバムを年代順に聴いてると確実に表現力が増していっているのを僭越ながら実感します。新しい「処方箋」などは本当に素晴らしいと思います。そこで質問ですが、朗読の練習は日常的に行なっているのですか?行なっているとすれば詩を朗読する上でなにか気をつけていることなどあるのでしょうか、よろしければパンドラ的質問箱で扱っていただけると嬉しいです。

あと僕はコーヒーが好きなのですが、夜に飲むと眠れなくなります。でも夜のコーヒーはチルな感じで大好きなんです。どうすればいいですか


僕はたしかに今も細々と活動をつづけていますが、しかしその細々ぶりたるや、場末のさびれた商店街の片隅にぽつんと残っているちいさな煙草屋でうたた寝しながら店番をしているおじいちゃんみたいなものなので、過分な賛辞をいただくとビクッとしてうろたえてしまうところがあります。

おまけに最後にリリースしたアルバムがすでに4年かそれ以上前ときているので、これは本当に最近の質問なのか、数年前のものを引っぱり出してきたのではないのか、なんならぜんぶ自作自演ではないのかとじぶんでじぶんを疑う始末です。

ちがいます。これは本当につい最近いただいた質問です。その証拠に新しい処方箋について触れてくれています。そうなると残る可能性は自作自演ですが、そんな攻めの姿勢があるのならとっくの昔にそうしているし、そうであったためしなどかつて一度もないことは火を見るより明らかです。

なのでここは、もはや失われつつあるある種の尊厳を取り戻してくれたハートウォーミングな一通であると結論づけて先に進みましょう。ふくらはぎだるおさん、どうもありがとう!

朗読の練習を日常的に行っているか、ということですが、結論から言うとまったく行っていません。まったくというのは文字通りまったくであって、すこしとかときどきを四捨五入してゼロにしているのではなく、始めからゼロです。

もちろん、だからといって何も考えていないというわけではありません。どうしても考えざるを得ない状況というのがときどきあって、そういうときは本当に寝食を忘れて向き合います。そうした状況のひとつが、ライブアクトです。

どうしたら最後まで飽きずに楽しんでもらえるだろうとか、リーディングに何ができるだろうとか、要するにそういうことですね。とりわけ2年つづけた独演会「オントローロ」では、何度来ても楽しんでもらえるようにということをつねに考えていたとおもいます。

そのうえで改めて気をつけたいと今もつくづく思い知らされるのは、「朗読には聴き手がいる」ということです。当たり前と言えば当たり前だし、もっと言えば朗読に限ったことでもないですが、これを意識するのとしないのとでは天と地ほどの差があります。そして誤解をおそれずに言うなら、それがすべてです。

言葉の選び方とか、滑舌とか、声色とか、個別の要素はいくらでもありますが、そのどれもが「聴き手がいる」ということのためであって、すべてそこに含まれてきます。もっと上手く読めるようになりたいとおもうし、実際そう言ってもいるけれど、それも結局「聴いた甲斐があったとおもってもらいたい」というきもちの裏返しです。というか、そうでないならわざわざ人に聴かせる意味も、人前に立つ意味もない。ですよね?

また、その「聴き手」には自分自身も含まれます。じぶんが客としてじぶんのパフォーマンスを観たり作品を聴いたりしたときに楽しめるかどうか、ということですね。正直たのしめたことはまだないけど、その視点があるのとないのとではやっぱり違ってくるんじゃないかなとおもいます。

と、あまり積極的に活動しない僕が言うこと自体、ちゃんちゃらおかしい気もしますけど、だからこそなおのこと、やることが昔と寸分違わず同じなら今も人前に立つ資格はないとじぶんを追い詰めているようなところがあります。そりゃ消極的にもなるわいと逆ギレする所以です。

もうひとつ、夜のコーヒーについてですが、僕はもうかれこれ数十年飲みつづけているせいか、就寝前にゴクゴク飲んでも直後にスヤスヤ寝ています。逆に言うと僕の場合、眠気覚ましにカフェインは微塵も効きません。

なので、体への影響を気にせずにせっせと飲みつづけていれば、夜に飲んでも平気で眠れるようになります。実際のところ効いてしかるべきカフェインが効かないのは肉体的に決して好ましい話ではないとおもいますが、それはまた別の話なのでまた別の機会に考えましょう。


A. 自分自身を含む、聴き手の存在を意識するように心がけています。コーヒーは飲みつづけるとカフェインが効かなくなるので、夜のんでもスヤスヤ眠れます。




質問は10年たった今でも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その292につづく!

2018年12月8日土曜日

真っ暗な電車と新しい棘、ぶりしゃぶ、丹下健三、切り込み接ぎとミカンの神様、その他もろもろについて考えるネロ少年の事後報告


そんなわけで先週末は、とこうしてのんびり振り返ることができるのも多くのミュージシャンとちがって普段はほとんどそういうことをしようともしないただのおっさんだからこそですが、御大タケウチカズタケの相伴で松山と宇和島、そして大阪を回ってまいりました。


出発当日、カズタケさんと合流するまさにその途中で電車が止まり、フッと照明が切れ、しばらく異様な静けさに包まれたときは多難な前途を暗示するようで言い知れぬ不安におののいたものです。何がこわいって、そうそうあることじゃないのに乗客の様子が微塵も変わらないことがこわい。



僕はこれまでずっと、そしてよほどのアクシデントでもないかぎりこれからもずっと、ライブを積極的に避けていくであろう性分なわけですけれども、それでもタケウチカズタケという百戦錬磨の凄腕プレイヤーといっしょにステージに立てることのありがたさとその類稀な幸運は身にしみてよくわかっています。耳を傾けてもらえるリーディングのありかたについて今も考えていられるのは、ひとえに彼がすぐそばで変わらずに支持してくれているおかげです。



とりわけこの3日間はほぼすべての時間と行動を共にしていたこともあって、僕がいま発揮できる力を余すところなく引き出してもらえたんじゃないかとおもいます。そんなひとときを一緒にすごしてくださった皆々さま、本当にありがとう!見てもらえてよかったと心からおもえる3日間でした。



松山では数年ぶりにDJ TOKNOWと再会してカレー食って丹下健三のちょっとした話なんかも聞けた(!)し、宇和島ではぶりしゃぶというディープインパクトな美味もご馳走になったし、大阪では気づいたらもう3度目になるグッシン(THE GOOD THING)のみなさまにそれはそれは温かく迎えてもらえたしでまったく、何度でも言いますが思い残すことは塵ひとつありません。



セットリスト的には数年ぶりに書いた新しい一遍なんかもありましたが、それよりもやはり、ビート抜きでカズタケさんのピアノと合わせた「棘/tweezers」に感慨深いものがありました。手漕ぎボート(Mother Tereco ver.)や処方箋(THE 3 ver.)につづく、今度はかれこれ15年越しのアップデートです。

こんなことができる日がくるなんて想像もしてなかったし、イメージ通りにきちんと披露できたことも胸に迫るものがあります。聞いてくれてありがとう。

コパルさんかっこいい写真をありがとう!

さすがに今年はちょっと意図せず人前に出すぎた感があるので、今はただただ、ルーベンスの絵の前でパトラッシュを抱き寄せるネロ少年のように穏やかな心持ちでおります。


2018年11月10日土曜日

シンギュラリティという概念からわたしたちの未来、もしくはタイルがどうあるべきか改めて考えさせられる話


やぶからぼうに何ですが、創元社やさしく知りたい先端科学シリーズのカバーデザインとイラストを昨年から担当させてもらっているのです。

なぜそんな大事なことをこれまでここで触れてこなかったかといえばもちろん、うっかりしていたからとかそういうさもありなんな理由ではなく、いえそういう側面が絶対にないとはたしかに自信を持って言い切れない、というかだいたいいつもそうじゃないかと言われればまったくもってそのとおりで返す言葉もないですが、ともあれそのシリーズ3作目となる「シンギュラリティ」がこのたび11月14日にめでたく上梓の運びと相成りました。


「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは、人工知能の驚異的な発達によって人類がその手綱を捌けなくなり、文明の発展を担う主体が人類から人工知能に取って代わられる、そのタイミングのことを言います。具体的には2045年ごろがひとつの境目になると考えられているようです。

本書では世界がシンギュラリティに至るまでの道筋と、その結果もたらされると考えられる未来の在り方についてとてもわかりやすく解きほぐしてくれています。そしてまた、全世界に数百億もの熱狂的なファンを持つ、あるいはそうだったらいいなと夢見ている安田タイル工業の専務と主任が、音もなくひっそりと全国流通デビューを果たしています。



箸でつままれた餃子らしき物体も含めて、ここにあるのはかつてたしかに描かれ、今も根気よく探せばみつかるものばかりですが、言ってみればなくても大勢に影響はない刺身のつまみたいなものであり、多くを語ることでもありません。なんといってもこれはシンギュラリティという高度な概念からわたしたちヒューマンビーイングがこの先どうあるべきかを改めて考えさせられる人類必携にして必読の一冊であって、安田がどうとかタイルがどうとか、そんなちまちまとした些細なことはきれいさっぱり脇にうっちゃり、ご一読をおすすめする次第です。

さらに世界への理解を深めてくれるシリーズ1作目「ベイズ統計学」、2作目「ディープラーニング」もよろしくおねがいします。


2018年10月25日木曜日

タケウチカズタケと小林大吾で行く四国と大阪ぶらりくつろぎの旅3日間●小粋なライブ付き●


どういうわけかこのところ、ぽつりぽつりと「お仕事を依頼してもよいのですか」というありがたいお問い合わせをいただいて、言われてみれば日ごろから「お仕事のご依頼はこちら」的なことをあまりアピールしていない、あるいはどこかでしたかもしれないけど本人が覚えてないくらいには少なかったと、十数年ぜいぜいと喘ぐようにやってきて今ごろ気づいたのです。

お仕事はもちろん、町内のドブ掃除から両親を安心させるために連れていく婚約者のフリまで、できそうなことはだいたい何でも24時間承っております。婚約者のフリをするにはやや薹が立ちすぎてむしろご両親を困惑させるかもしれませんが、愛があればそんなことは問題ではありません。

そこそこ得意な分野という気がしていた「言葉とそれにまつわる諸々」についてはそういえばあまりお仕事をいただいたことがないので、ひょっとしたら生き方を根本からまちがえていたのではないかと近ごろは反省しきりですが、そのあたりも今までずっとそうしてきたように概ねハッタリでどうにかなるとおもいますので、なんなりとお気軽にご相談くださいませ。

dr.moule*gmail.com(*を@に)


さて、それじゃ本題にと向き合いかけてふと Solo Solo Solo TOUR 2018 最後の3日間をまったく振り返らないまま2ヶ月が経過していることに気づきましたが、それはまあそれとして、最近のKBDGはほぼこの人のおかげで成り立っていると申してもまったく過言ではない御大タケウチカズタケとお話していたら、何の話をしていたのだったか、とにかくこう、ポロリと切り出すのです。

「宇和島行かへん?」
「なんでですか?」

カズタケさんからこう話を振られた時点でなんでもへったくれもないと言えばないのですが、それでもなぜと問い返さずにはいられないあたりに僕の、それがライブであるかぎり迷うことなく二の足を踏む徹底した姿勢がよく表れています。

そこに理由はありません。いや、ちゃんとした理由があったような気もするけれど、あろうとなかろうと同じことです。やるとなったら雨が降ろうと槍が降ろうと、火の粉が降ろうとコーヒーフロート、それはもう否が応でも真っ正面から向き合わなくてはならないのです。一般的なミュージシャンが一ヶ月にこなすライブ数が数年分に相当する僕としては、こないだのツアーで残りの寿命を使い果たした気でいたし実際そうなので、今回は完全に死後の話ということになります。

おまけにカズタケさんと2人ということは、いつになく自分の出番が長いということです。僕がそれを望むかどうかはこの際脇に置くとして、仮に望んでもなかなか得られないひとときであることはまちがいないので、お近くのみなさまはどうかどうか、足をお運びくださいませ。


そうだ、宇和島いこう「タケウチカズタケと小林大吾」の3日間

HIPHOP/HOUSE界隈で活躍するキーボーディスト/音楽プロデューサー、タケウチカズタケ。トラックメイクからグラフィックデザインまでも自ら手掛けるHIPHOP以降の吟遊詩人、小林大吾。両者それぞれのソロパフォーマンスや、2人が共に生み出した楽曲披露、よもやま話までをひっくるめてお届けします!

11/30(金) 松山 Caezar
ADV. 3,000円 DOOR 3,500 ※それぞれ1drink付
20:00~24:00
089-932-7644

12/1(土) 宇和島 booby
ADV. 3,000(1D別) DOOR 3,500(1D別)
OPEN 19:00 LIVE START 20:00
0895-49-2352

12/2(日) 大阪南船場 the good thing
ADV. 3,000 DOOR 3,500 ※それぞれ1drink付
OPEN 18:00 LIVE START 19:30
06-4704-8708

※より詳細な、最新の情報はこちら!



2018年8月12日日曜日

リアルタイムというのはある種の呪縛であること


新聞を読んでいると、あれ?とおもうことがあります。

そこに書かれている話題を、すでに知っているのです。

ことによるともうだいぶ前から知っていて、そういやそんなことあったなあ、としまいかけた記憶を引っぱり出すくらい遠ざかってしまっている場合もあります。遅いなとおもう。まあ、そういう時代です。スピードだけならネットで流しそうめんのように流れてくる一口サイズの情報をすくいあげるほうがよっぽど早い。

それでも僕が新聞を読んでいるのは、自分にとって守備範囲外の情報を雑多に取りこむことができるからです。ネットが流しそうめんなら、新聞は幕の内弁当みたいなものですね。べつに好きなおかずでもなかったけど食べてみたら意外と美味かった、みたいなことが往々にしてあるし、その経験がまた別の知識に結びつくこともあります。この「べつに気にしてなかったおかず」的な情報は言ってみればノイズみたいなものなんだけど、経験上、ノイズは多ければ多いほど自分のなかにあって気づかずにいた点と点が線になりやすいのです。線は交わっていずれ網となり、より多くのものが引っかかるようになります。

だからまあスピード感はそんなに重要ではないとおもうんだけど、考えてみればこんなエクスキューズみたいな物言い自体、スピードに一定の重きを置いていることの裏返しではないのかという気もします。

ひょっとしたらじぶんで考えているよりも情報のスピードに囚われているのではないのか?そりゃ早いにこしたことはないとおもうけど、早いからなんだというのか?世間に遅れずにすむだけじゃないのか?遅れたらなんだっていうんだ?遅れたことで後ろ指をさされるというのなら、これまでの人生だってずっとそうだったじゃないか?

リアルタイムの呪縛です。そうでないからといって困ることなど何ひとつないのに、そうあるにこしたことはないと考えてしまうのなら、それが呪縛でなくて何でしょう。ここは声を大にして言わなくてはなりますまい。実体のない空虚な呪縛など、むき終えたバナナの皮といっしょに捨ててしまうがいい、と。

とまあそんな次第でリアルタイムとかそんなものはまるっと蹴り飛ばし、ちょうどぴったり30日前の話を昨日あったことのようにしますけれども、椎名純平、タケウチカズタケご両人のご相伴に与り、平生めったに人前に出ようとしないKBDGがどういうわけか短期間で数年分のライブをこなす驚異(当社比)のSolo Solo Solo TOUR 2018、5日目となるPOWERS2@元住吉はたいへんな盛況のうちに幕を閉じました。おいでくださった多くのみなさま、どうもありがとう!



当日はあまりの熱気で頭がまっ白になっていたのか、それとも今この時点で単純に1ヶ月すぎているせいなのか、あんまりよく思い出せませんがとにかくわーっとなってドカンとくる失神不可避のハッピーな惨事だったことだけはたしかです。僕は僕で案の定やらかす安定のポンコツぶり、ツアー限定のアルバム「3」にいたってはなぜか来場者数よりも多くの枚数が売れるという、そう聞いて思わず聞き返してしまったささやかな奇跡もありつつ、ツアーの折り返しとしてじつに申し分のない、むしろ身に余るすてきな夜であったと申せましょう。そんなこと言ってホントにおぼえてんのかよとか、そんな野暮を言ってはいけない。


POWERS2にはこれまでにも何度か足を運んでいて、雰囲気が良いばかりかゴハンがめちゃめちゃ美味い、もう1回言いますけどゴハンがめちゃめちゃ美味い、なのでイヤでもみんな好きにならずにいられないあの空間で自分がステージに立つ日がくるなんて、しみじみ感無量です。あの場所で観てもらえて本当によかった。ありがとうありがとう!

とまあ、そんな話を今ごろになってしているのは、ともすると当人たちもうっすら忘れかけているSolo Solo Solo TOUR 2018 のクライマックスが、2週間後に迫っているからです。

ツアー最後の3日間は豊橋、名古屋、敦賀の計3箇所を巡ります。


8/24(金)@豊橋 輪 -RiN-
LIVE: 椎名純平、タケウチカズタケ、小林大吾
Opening Act:  cheat Jam Direction
Open19:30 LIVE Strat20:00
2,500円+1d500円
ご予約、お問合先:FreeStyle BAR? 輪-RiN-
〒441-8012 愛知県 豊橋市愛知県豊橋市羽田町86
080-8264-4558

8/25(土)@名古屋 千種 喫茶モノコト
Open18:30 LIVE Strat19:30
ADV. 3,000+1Dオーダー(¥500)/ DOOR 3,500+1Dオーダー(¥500)
ご予約、お問合先:喫茶モノコト 070-6411-7531
名古屋市千種区内山3-28-1ちくさ正文館2F
monokotoakichi@gmail.com

8/26(日)@敦賀 tree cafe
Open18:00 LIVE Strat19:30
Charge 3,000
ご予約、お問合先:tree cafe 0770-21-3033
〒914-0056 福井県敦賀市津内町1丁目3−5


日ごろ穴ぐらで息をひそめている僕としては永遠にも感じられた8日間も、これが最後です。ふだんは帽子なので気づかれませんが、すでに前半の5日間で「うわっなんだこの白髪!」とおもわず声を上げてしまったほど、髪が白くなっています。

したがってこの次がある保証は、といってもそんなものがあったためしはかつて一度もないのですが、まったくありません。冥土の土産においでませ!