2024年12月20日金曜日

いずれ消えゆく足跡も、歩みとして残るたしかな道のり


かつて頭が真っ白になる驚天動地の美白効果でコスメ界に殴りこみをかけ、今ではその界隈で知らない者はいないと言えたらよかったのにとよく言われる、名実ともに美のミスリーディングカンパニーとして成長を遂げた奇跡の化粧品メーカー「ゴルゴン」

ゴルゴンの沿革についてはこちらをご覧ください

2013年のポテンヒット商品

「美白というよりもはや漂白」と人に言わしめるほど白さにこだわり、またそれが広く世に受け入れられたことから、多くの犠牲を出しながらも振り返ることなく猪突猛進で究極の白さを追い求めた結果、いつしか企業としての理念、計画、目標までまっさらな白紙でなければ生み出す白さも説得力に欠けるという妄信に陥り、失えるものはだいたいぜんぶ失うところまで凋落する、文字どおり空白の時期があったことはあまり知られていません。

片っ端からすべてが白紙に戻ってようやく、白さのために頭どころか未来まで真っ白になっては元も子もないことに、ゴルゴンは気づきます。

しかし何もかもが無に帰したからと言って、これまでの歩みまでもが無に帰すわけではありません。踏み出しさえすれば、いつもそれが新しい一歩になります。回り道もまた、まだ見ぬ道へとつながる立派な道のひとつです。

「消えゆく足跡も、たしかな歩み。」

創業210年目にしてゴルゴンは過去の慢心と増長を受け入れ、否定はしないがなるべく見なかったことにする強靭な企業理念を新たに掲げ、伝統を守りながらも変化を恐れずに明日へと進みます。


そんなゴルゴンの決意表明として、全国紙に一面広告を出す予定が数千万かかると知って消沈し、やむなく町中の貼れそうなあちこちに無断で掲示しながらも狭量な苦情の殺到で回収を余儀なくされた渾身の広告を、若干名の方におすそわけいたします。

ご希望のかたは件名に「ゴルゴン再起の一面広告」係と入れ、

1. 氏名
2. 住所
3. わりとどうでもいい質問をひとつ

上記の3点をもれなくお書き添えの上、dr.moulegmail.com(*を@に替えてね)までメールでご応募くださいませ。

そして今年も!わりとどうでもいい質問にNG項目を設けます。「二択」は禁止です。去年はそれによって応募数が1/3くらい減ったという、考えようによっては耳寄りな事実も明記しておきましょう。

締切は12月27日(金)です。(仮に抽選となった場合でも、いただいたメールには必ず返信しています)

応募多数の場合は抽選となりますが、世に数多ある抽選の中で最も、そして異常なほど当選確率が高いことをここで堂々と請け合っておきましょう。元気を出して!という励ましのお便りも手ぐすね引いてお待ちしております。

今年もありがとうー!

2024年12月13日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その435


さて、#アグローと夜 というタグがすっかり #ひざつき製菓 に置き換わってきたことでもあるし、そろそろまた通常運行に戻るといたしましょう。


全自動ケンタッキーさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. もしハチ公が犬ではなくミミズだったら..もしくはおよそペットとは言えない動物であったら渋谷駅には謎の動物の石像がたっていたんでしょうか


渋谷駅近くには、ハチ公と同じように待ち合わせのシンボルとして親しまれる、謎というならこれ以上の謎はない石像が設置されています。ちょうど今、長く鎮座していた場所から別の場所に移設の真っ最中だったと思いますが、「モヤイ像」というやつです。

モヤイ像それ自体に謎はありません。ラパ・ヌイ(イースター島)のモアイをモチーフに、新島固有の岩石を彫刻したちょっと大きめのオブジェです。あちこちに寄贈されて日本の各地にあります。

しかしそのオリジナルであるモアイは今もって謎の塊です。モアイだけでなく、ラパ・ヌイにはかつてロンゴロンゴと呼ばれる文字が存在し、この島でしか使われなかった上に現存する資料(木片)がごくわずかしかないため、今も解読されていません。島の歴史からして謎に満ちています。

島の歴史やモアイについては科学的な見地から「たぶんこういうことだろうと思われる」という解釈である程度落ち着いてはいる印象ですが、とはいえ当時のことを書き記した記録が他に何も残されていない以上、あくまで現代の感覚で納得できる解釈でしかなく、それを踏まえてもまだ不可解なことがちょいちょい散見されるので、ピラミッドなんかと同じく、やはり人類史に刻まれた大きな謎のひとつと言ってよいでしょう。とくにモアイは数百年ものあいだ人力で継続的にせっせと拵えるにはどう考えてもデカすぎる上に多すぎるというめちゃシンプルな点からして、なるほどと頷ける説明は全然できてないとおもう。

ことほどさようにモアイが今も本質的には謎であるとしか言いようがない以上、それをモチーフにした新島のモヤイもまた、何だろなこれ程度にはやはり謎であり、したがって新島から寄贈された渋谷のモヤイもまたこの謎を当然まるっと受け継いでいます。実際、何だろなこれというほかありません。

ここでやっと、ぎゅーんと話を戻しますけれども、もし公共の場にミミズの銅像が建てられるならば、多くの人が共感するような美談や人気がその背景にあるはずです。そうでなければ銅像にはなりません。

セミをゾンビ化する驚異の真菌マッソスポラだろうと、範馬勇次郎に匹敵すると言われる地上最強の生物クマムシだろうと、それは同じです。おそらくそこには誰もが納得する理由があります。

ミミズやマッソスポラやクマムシが銅像になっていないのはまだ人の胸を打つストーリーを伴っていないからであり、いずれ涙なしには聞けないマッソスポラくんの物語が日本中に広く知れ渡らないともかぎらないのです。そうして建つ像を謎とは、やはり誰にも言えません。モヤイのほうが無限に謎です。

何より、これは強調しておかなくてはいけない気もしますが、「およそペットとは言えない生物」は地球上に存在しません。どうあれ愛情をもって日々をともに過ごすなら、それはペットであり、当人にとっては家族です。

かくいう僕も、今では糠床を愛すべき家族として受け入れています。なんとなれば糠床は、ちいさな森と言っても良いくらい、多種多様な菌の相互作用によってそれ自体が複雑な生態系を成しているからです。手入れを怠って糠床をダメにするのは森が全滅するのにも等しいことであり、同程度の糠床に復元するためには数年の歳月を要することから、僕なんかはふつうに立ち直れなくなるでしょう。何であれ対象が生物であり、かつ当事者が愛情をもって日々を共にしているかぎり、それがペットでないと否定することは誰にもできないのです。糠床の銅像まではさすがに考えたことないですけど。

以上をふまえた僕の結論としては、こうなります。


A. 建っていたでしょう。それも堂々と。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その436につづく!


2024年12月6日金曜日

アグロー案内 VOL.8解説「名探偵の登場/the adventure of solitary cyclist」


こればっかりはどうあっても説明しなくてはなりますまい。

名探偵山本和男が縦横無尽にやらかす冒険活劇のシーズン1は、アグロー案内VOL.5に収録された「名探偵の死/the final problem」にて、肝心の山本和男がライヘンバッハっぽい滝に足を滑らせて落ちたっぽいという、劇的なシーンで幕を閉じ、絶大な反響を呼び起こしました。

「ウソでしょ、ここでシーズン1終了!?」
「打ち切りじゃないよね!?」
「和男が死んだ!」
「寝覚め悪すぎ」
「え、次の主役、加藤?

等々、SNSでのバズりっぷりはかの有名な滅びの呪文「バルス」に匹敵するほどだったと言います。

それから1年…待ちに待ったどころかみんなしびれを切らしてちょっと忘れかけていたシーズン2のスタートが、アグロー案内VOL.7に収録の新しいテーマソング「名探偵は2度起きる/the return of you-know-who」にて発表と相成りました。

そして今回のアグロー案内VOL.8に収録された「名探偵の登場/the adventure of solitary cyclist」でいよいよ、完全に死んだと思われていた、もしくは完全に死んだと思われていることになっていた山本和男がまるで何ごともなかったかのような顔でしれっと奇跡の大復活を遂げたと、こういう流れになっております。

説明しなくてはなりますまい、というのはむしろここからです。

曲中には4人の登場人物がいます。1人目はもちろん山本和男です。「なんだあのセスナ機は?」という何者かの発言から、セスナに乗っていることがわかります。しかし「あの中肉中背のパッとしない男は」との発言からすると、全身が視認できる状態であり、セスナを操縦してるわけではない、つまり機体の外側に屹立しているようです。

2人目は、先の発言をした人物です。彼が犯人だと山本和男に看破されてひどく悔しがっていることから、どうあれ何らかの犯人であったことは間違いないように思われます。

3人目は、助手の加藤くんです。「やまもとーーー」と歓喜の声を上げているのが、彼ですね。探偵でもないのに何をしていたんだろう。

4人目は先の犯人とちがってきちんと名前がある新キャラ、山口警部です。自ら名乗ってくれているあたり好感が持てますが、事件の解決にはとくに寄与していないようなので、今後の活躍が待たれます。ちなみに彼が食っている煎餅はひざつき製菓「雷光(旨塩味)」です。


よくよく考えるとセスナを操縦しているのは誰なのかという問題もなくはないですが、これはあらかじめ自動操縦にしておいた、ということで良いでしょう。したがって山本和男がひらりと飛び降りた後、あのセスナ機は楽曲に描かれていない遠く離れたところで地面に激突して爆発、炎上しているはずです。

そもそもセスナが滑空できるほどのだだっ広いところで3人は何をしていたのか、加藤くんと山口警部を除けばあとは謎の男しかいない状況で何に行き詰まることがあるのか、セスナ機に立って颯爽と登場する山本和男のイメージ以外はほぼすべてが謎に包まれている印象ですが、事件があって犯人が判明した以上、それ以外のちまちました謎など問題ではありません。いつでもカッコいい場面とその瞬間のみに全力を注ぐ作家タケウチカズタケの真骨頂がまさしくここにあります。

それよりもむしろ、曲の最後に残された不可解な呟きのほうがはるかに重大です。何しろこの楽曲それ自体が、事件の発端であることを示唆しています。

山本和男を讃える言葉の数々が忽然と消え失せている…。これは事実です。このシリーズにおける多くの例と違ってそういうことになっているわけではなく、ここには実際に言葉がありました。実際に書いて録音した僕が言うのだから間違いありません。あったはずの声が楽曲から失われるという、他に類を見ない前代未聞の事態です。

どこの誰が何のために声を盗んだのか、そしてこれを取り戻すことができるのかどうかが、華々しく幕を開けたシーズン2を左右する、でなければ上下する重大なカギになっていると申せましょう。

ただし、山本和男がカギを見つけても拾わないばかりか気にも留めないタイプの名探偵である点には注意が必要です。何しろそういう人なので、こればっかりは僕らでも如何ともし難いところがあります。

アグロー案内シリーズ屈指のフィリーソウル感も楽曲として最高なんだけど、ともあれどんな声と言葉がそこに乗っていたのか、想像しながら聴くのもまた一興かもしれません。

あ、あとそうそう、タイトルの英語部分、 ”the adventure of solitary cyclist(孤独な自転車乗り) は、シャーロック・ホームズシリーズの一編から拝借しています。こうしてみると山本和男のことにしか思えないけど、実際にこのタイトルを冠した短編があるのです。よかったら探して読んでみてね。