今や十万億土にあまねく浸透し、巷ではアグローあるところに案内ありと囁かれるほど爆発的な好評を博するアグロー案内シリーズ、その主人公にして毎回八面六臂の活躍を見せる名探偵が山本和男です。謎がなくとも解決してしまうその恐るべき慧眼と明察については今さら説明するまでもありますまい。
そんな山本和男も回を重ねに重ねていよいよ盛り上がりが頂点に達するVOL.5ではなんと
突然の死です。
峻険として轟々たる大瀑布で積年の宿敵である森脇(もりわーきー)教授に背後をとられたら、いかに山本和男といえどもんどり打って滝壺に転落するのはわかりきっています。
いえ、早まってはいけません。状況的にどう考えても死んだなこれというだけです。日本ではたとえ原型を留めていなくとも医師の確認がなければ死亡と言わずに心肺停止とするくらいなので、実際のところこりゃダメだな程度では厳密に死と認定するにはぜんぜん足りないのです。
そうは言っても絶望的だなと僕もおもうし、あきらめて早くも冥福を祈っていますが、過去にはシャーロック・ホームズの例もあります。かの有名な「最後の事件(The Final Problem)」では、これ以上ホームズについて書くことにほとほと嫌気がさしていた著者コナン・ドイルが、それまで一度も出てこなかったモリアーティ教授という最大にして最強のチートキャラ難敵を唐突に引っ張り出し、すったもんだしたあげく2人とも滝壺に落としてすべてを強制終了してしまいます。偶然の一致というか、山本和男と通じるものがありますね。
とはいえ、ホームズの冒険譚はこれで終わらず、死んでいなかったことにしてこの後もしぶしぶ描かれています。ドイルの元に嘆願よりもむしろ中傷と罵詈雑言の手紙が山のように届いたからです。スティーヴン・キングのホラー小説「ミザリー」も結末に納得できず著者を監禁してむりやり書き直させる狂信的なファンが描かれていましたが、ほぼこれと同じ力学であると言えましょう。
ただ昔とちがって現代では訴訟と損害賠償のリスクが大きすぎるので、このやり方は正直おすすめできません。むしろいかに愛しているかという熱い思いに満ちた嘆願こそ効果的です。山本和男の一挙手一投足に我を忘れて没入してしまうといった推しへの無尽蔵の愛こそ、彼が息を吹き返す最良にして万能の薬となります。山本和男復活のためにも、そんな熱烈なファンレターを心からお待ち申し上げる次第です。3通くらいは来てもバチは当たらないとおもう。
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それぞれ単独ではインタールードのような印象かもしれませんが、連続で聴くとびっくりするほど饒舌でドラマチックな物語が浮かび上がります。音楽による壮大なストーリーテリングと言っても過言ではありません。後から並び替えることで作品の奥行きがより深まる…これは従来のフォーマットでは表現できなかった、配信ならではの趣向であると申せましょう。
僕も初めからこれをずっと楽しみにしていて、遠からず来るはずのエンディングまでガマンするつもりができなかったのでVOL.5が完成した時点で並べ直してみましたけれども、何かが始まって何かが起きて何かが終わって何も観てないのに何かを観終わって放心するような何らかの充実感が尋常ではありません。
そしてその完成度を劇的に高めているのが、タケウチカズタケによる超絶ミックスです。とりわけ「名探偵の死」では、滝の轟音と助手である加藤くんの叫び声、それを包みこむ超イルなビートが互いに邪魔をすることなく渾然一体となって耳に迫ります。どれも主張の強い要素なのに、どれも音響として等価で味わえるのだから超絶ミックスというほかありません。
リリースから2週間…とりあえずぜんぶ聴いたな、と落ち着いた今こそ改めて趣向を変えて聴き返してみていただきたい。今や巨大ロボとなった山本和男の姿がより立体的に、実感を伴って目の前に現れるはずです。まだすべてのパーツが揃ってないので勇み足な気もしますけど。
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