2021年6月25日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その332



ふくらはぎさんからの質問です。(ペンネームはご自身によるものです)


Q. 自分の部屋の壁にカレンダーくらいしかかかっていない事にうんざりしてきました。なにか額に入れた絵でも飾ろうかなと思ったのですが、何を飾っていいのかよくわかりません。自分はどんな絵が部屋にあると充実するのか見当もつきません。好きな絵は無くもないですが、好きな絵と部屋に飾るべき絵はまた違うのかなと思ったりもします。僕は何を飾ればよいのでしょうか


一人暮らしをしていたころ、UFOキャッチャーで取ったしょくぱんまんのぬいぐるみを壁にぶら下げていたことがあります。

今にして思うとなぜなのかさっぱりわからないのだけれど、とにかくUFOキャッチャーにのめりこんでいて、毎日のように100円玉を投入しては取りまくったぬいぐるみを片っ端から押し入れにぶちこんでいた時代があったのです。押し入れの1/4くらいはぬいぐるみで埋まっていたんじゃないかとおもう。

今はもうありません。あの大量のぬいぐるみを一体どうやって処分したのか、それもまったく覚えていない。友人もいなかったし、というかこんなことしてるんだからそりゃそうだよなと思わないでもないですが、たぶんどこかのタイミングでまとめて燃えるゴミの日に出したんでしょう。

壁に飾っていたのはしょくぱんまんだけです。数百体ものぬいぐるみの中からなぜこれが選ばれたのか、これも今となってはまったく思い出せません。他とくらべて特に好きだった記憶もないし、ひょっとするとクオリティが群を抜いて高かったのかもしれないけど、わざわざ記憶を掘り返す甲斐もなさそうなので理由はまあどうでもよろしい。僕が今でもはっきりと覚えているのは、部屋の西側の何もない壁にしょくぱんまんだけがぽつんとぶら下がっていたことだけです。

言葉を重ねれば重ねるほど、不可解な状況ですね。

そんな当時のある日、風呂から上がってふと壁を見ると、しょくぱんまんの鼻が黒くなっていることに気づきました。風呂上がりで眼鏡を外していたので、目をこらしても黒いことしかわかりません。でも黒いのはわかる。というかホントにちょうど、鼻だけ黒い。

眼鏡をかけた瞬間、レンズをぱりんと割るほど目玉が飛び出たあの夜を、僕はこの先忘れることはないでしょう。そこにいたのはしょくぱんまんの鼻に擬態した一匹のゴ

擬態できてねえよ!

いやいやいやいやあんた全身、黒光りじゃん!しょくぱんまん超色白だから!似てるどころか対極じゃん!あるだろもっと他に擬態できそうな何かが!なんでよりによって色白の鼻に擬態すんだよ!そっちの界隈では美白で通るかもしれんけどでも元がほぼ黒じゃん!そんでまた何でサイズだけぬいぐるみの鼻とぴったり一致してんだよ!いやああああああもうああああああああああああああああああ!(殺虫剤をまき散らしています)

あれから四半世紀もたとうという今となっては、懐かしい思い出です。あれから何度、この話を方々で披露したことでしょう。そのたびに人から「ないない」と鼻の話だけに鼻であしらわれたものです。当の本人である僕ですら何言ってんだとおもうし、無理もありません。

しかしひとつ言えるのは、壁にしょくぱんまんを飾っていた日々が決して無駄ではなかったということです。それは想像もできないような驚異の体験のひとつとして、僕のしょぼくれた人生を今も彩ってくれています。

絵画ほど心を豊かにしてくれるものではないかもしれません。しかしその代わりに、忘れたくても忘れられないような劇的な何かを心に刻みつけてくれる可能性があります。実際に否応なく刻み付けられた僕が太鼓判を押すのだから、間違いありません。

ゆえに僕としては、誰がどこで何と言おうと、堂々と胸を張ってこれをお勧めする次第です。


A.しょくぱんまんのぬいぐるみを飾りましょう。




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dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その333につづく! 


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