2021年4月2日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その319



からしにしやがれさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)ワサビにしようとしたんでしょうね。


Q. 家に入ろうとするたび鍵の上下の向きが違ってガってなるのですがどうしたらいいですか


子どものころ、鍵の上下の向きがちがってガッとなったとき、負けじと押しつけた上に全力で回した結果、鍵がぐにゃりと90度くらいねじれてしまったことがあります。鍵の向きがどうだろうと住人が開けようとしてるんだからとっとと開けるのが筋なのにまったく、鍵ごときにナメられちゃたまったもんじゃないですよね。

しかし改めて考えてみると今の僕は鍵の向きを確認している意識もないのに、鍵でガッとなることがほとんど、というかまずありません。なんかとにかく突っこめば開くくらいの気持ちで差しこみ、実際にそれで開いている印象です。無意識に鍵の種類と向きを判別しているか、でなければ住人だから鍵の種類がちがったり向きが逆でもドア側の判断で開けてくれていることになります。

裏を返せば帰宅時に鍵がガッとなるのは、向きがちがっているか、もしくはドア側が住人の帰宅を拒否しているかのどちらかです。そうは言ってもしょせん鍵なので、向きが合えばイヤでも開けざるを得ないわけですが、もし毎回、判で押したように拒否してくるとなるとそれはちょっと真剣に受け止めなくてはいけません。

なんとなればそれまで住人の従属物にすぎなかった部屋の鍵が長年の間に少しずつ力をつけ、いずれ向きが合っていようと決して開けないクーデターを起こさないとも限らないからです。

このクーデターの恐ろしさは、いくら鍵を変えようと決して開かないこと、そして住人以外の人が鍵を手にしたときはあっさり開いてしまうので、誰にも信じてもらえないことです。じぶん一人だけが開けられない鍵など、はっきり言って手の打ちようがありません。窓から出入りするという手もあるにはあるけれど、窓だってドアと同じように拒否する可能性は大いにあるし、そもそも毎日のように窓から出入りしていたら遠からず通報されるのは目に見えています。

したがって、できれば鍵の向きがちがっても大らかに受け入れ、黙って開けてくれるくらいの信頼関係を今からでもドアと築いておく必要があるのです。

まずは謙虚に、わが身を振り返ってみましょう。

たとえばうちのマンションの住人は新型コロナが広まり始めたころ、外側のドアノブにティッシュを巻くという不可解な行動に出ていましたが、これなんかはドアノブがキレて入室を拒否しかねない格好の例と言えそうです。

あるいはたとえば、他の部屋にまちがえて入ろうとしてしまったとか、他所のカッコいいドアに見とれて、自室のドアが嫉妬するようなことをしていないだろうか?

締めるべき鍵を閉め忘れて、ドアノブが拗ねたりしていないだろうか?

仕事場や立ち寄ったお店で鍵をたびたび置き去りにしたりしていないだろうか?

当たり前におもえる関係ほど大切にしなくてはいけないのは、恋人も夫婦もドアの鍵もいっしょです。今のところまだ拒否はされていないけれど、そういえば僕もドアやドアノブや鍵に対して、感謝のきもちを忘れてはいなかっただろうかと今さらながら身につまされるものがあります。

鍵の向きが合えば開くということは、まだクーデターには至っていないということです。今からでも遅くはありません。ドアやドアノブや鍵の声に真摯に耳を傾け、好物や趣味を知り、信頼関係の回復に努めましょう。白馬の王子様を夢見る女子みたいなドアノブなら、白馬の王子様みたいなドアノブを紹介するのも一計です。肉が好きなら焼肉に連れていくのもいいでしょう。

それがなければ部屋に入れない以上、僕らは決して、鍵を軽んじているわけではありません。ありませんが、あるいは慣れによってそう受け止められてしまうケースはおそらく、往々にしてあります。ただちょっと、当たり前みたいになってしまった関係に甘えてしまっただけで愛が霧散したわけでは全然ないんだということを、誠心誠意、伝えてみましょう。今でも入室はできているのだから、ドアやドアノブや鍵だってきっと、それを待ってくれているはずです。


A. それがなくては人生が立ち行かない事実と正直なきもちを、この機会に誠心誠意伝えましょう。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その320につづく! 

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