2011年12月21日水曜日

塗りたてのペンキに対するノブレス・オブリージュ




昔から貼り紙に「ペンキ塗りたて」と書いてあるものには、必ずさわることにしているのです。おぼつかなくも日々をこなして、気がついたらだいたいそういうことになっている。「炊きたてのご飯」とか「揚げたての天ぷら」と同じで、「どれ、それじゃひとついただいていくか」という気にさせられるんだとおもう。僕にとってはこれもだいじなキープレフトのひとつです。そういうことにキープレフトを使うなと言われても、その応用範囲は果てしなく広いのだからしかたがない。

すっかり乾いたあとだったらそれはやっぱり残念なきもちがするし(天ぷらが冷めているのと同じ道理です)、指にペンキがついたらついたでさわらなきゃ良かったと悔やむに決まっているから、どのみちあまりいいことはありません。かといってせっかく「塗りたてだよ!」とアピールしてくれているのに、むざむざと通りすぎる法もない。どちらかというと「お兄さんちょっと遊んでかない?」と声をかけられるのに近いかもしれないけれど、何にしてもそれをプイと袖にするのは心意気に欠けるようにも思われるし、男がすたります。ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)とまでは言わないまでも、限りなくそれにちかい心持ちはありましょう。紳士たるもの、然るべきときに然るべき振る舞いが求められるのはごくごく当然のことです。塗りたてとあるのだから、襟を正してペタリとやりたい。

ひょっとしたらさわっちゃいけないのかもしれないけど、それは貼り紙に書いていないのでどうかわからない。叱られるのは本意でないから、そうだとするとすこし困ります。でもそれなら初めからキッパリ「さわるべからず」と書いたらいいのです。禁じられてなお強行する一休さんの専売を横取りしようとはおもわないし、ピンポンダッシュ的な冒険はそこらの稚児にまかせておけばよろしい。

そう開き直ってさわってみたらやっぱりペンキが指について、眉間にしわをよせることになるのです。貴族の義務も楽じゃないとおもう。些事から大事まで何ごともきちんと向き合おうとすれば、塩梅というかさじ加減というか、きもちの舵取りがいろいろむずかしい。


それはそうと先日は本屋でお菓子のレシピ本を物色する女子高生3人組の後ろ姿を見かけて何だかキュンとさせられました。かつては隣り合わせだったはずのあの甘やかな秘密の花園から、かくも遠ざかってしまったことをおもうとひどくかなしい。

Joni Mitchell の "Big Yellow Taxi" を口ずさみながらトボトボと家路をゆく年の瀬です。

Don't it always seem to go
That you don't know what you've got ‘til its gone
They paved paradise and put up a parking lot...


2 件のコメント:

赤舌 さんのコメント...

小心者な僕にはものすごいワイルドな行為に見えます。うらやましい。
ちなみに僕はお地蔵さんに出会うと必ず会釈してます。

いつも楽しく拝見してます。
匿名でコメントしてましたが、ご迷惑かけるとアレなので名前かいときます。

ピス田助手 さんのコメント...

> 赤舌さん

こんばんは。お地蔵さんに会釈はキープレフトのまろやかな一例ですね。わかります、すごく。いつもありがとう!