2025年12月12日金曜日

アグロー案内 VOL.10解説「九番目の王子と怪力の姫君/how he became a pearl diver」②


九番目の王子と怪力の姫君」は、たぶんあまり類を見ない制作過程をへて完成した作品でもありました。

まず、この曲に関してはテキストが先に書かれています。カズタケさんがトラックの制作にとりかかったのは、彼がそれを読んだあとです。一読して浮かんだそのイメージでトラックを作ってもらった、ということですね。

紙芝居を安全に楽しむために」や「フィボナッチは鳳梨を食べたか?」も先にテキストが書かれていましたが、これはテキストというよりすでに録音してあった朗読を音楽と組み合わせてもらう趣向(むちゃ振り)だったので、僕からカズタケさんへの往路だけで作品が完成しています。

それにひきかえ、「九番目の王子〜」は後でリーディングをビートに嵌めることが前提でした。つまり、このテキストがビートにどう乗るのかさっぱりわからんけどとにかく書いてカズタケさんに読ませる、そしてこのテキストがビートにどう乗るのかさっぱりわからんけどとにかく浮かんだイメージでビートを組む、というお互いに五里霧中の状態で制作が進められたのです。

ビートを意識せずにテキストを書いてから乗せ方を考えること自体は、初めてではありません。以前からちょこちょこと試していて、たとえば「前日譚」とか「魚はスープで騎士の夢を見る」なんかもそうです。ただこれらは先にトラックがあったので、僕がテキストをその雰囲気に寄せて書いています。「九番目の王子〜」はここが逆です。これまではまずカズタケさんが球を投げる側にいたのが、今回は僕が投げる側に回った、と言えばわかるだろうか。

いずれにしても、ビートを意識せずに書かれたテキストでもビートに嵌めて読むことができる、という確信がなければ不可能なプロセスです。BPMが60だろうと100だろうと一向に差し支えない点で、これはリーディングというスタイルの真骨頂とも申せましょう。

僕の胸を瞬時に射抜くようなめちゃ素敵なビートが送られてきたので、あとはリーディングを乗せるだけです。適当に書き散らかしたテキストの細部を、ビートに合わせて整えていきます。ある程度のまとまり、具体的には8小節くらいのイメージでテキスト全体を区切っていくわけですね。8小節という単位は、それが曲の構成としてごく一般的な区切りのひとつだからです。その際、テキストの多かったり少なかったりする部分を削ったり補ったりもしていきます。

ところが、よし、大体こんなもんだな、と整え終えて、いざ乗せようとしたところで思いもよらない壁にぶち当たりました。

8小節分のリーディングを終えても、まだビートが一段落しないのです。テキストの区切りを間違えたと思って指折り数えても、やっぱりちゃんと8小節で区切っています。ということは…

このトラック、10小節でループしてる…!!!

そんな次第で、整えたテキストをまた一から区切り直すことになったのです。まさかこんなところで通常とは異なる構成が施されていたとは想像もしておらなんだ。

ちゃんと聴きながら区切らんといかんな、と改めて反省したものの、そもそもトラックに合わせて書いたものではないので、トラックの構成とテキストの構成には当然ズレが生じます。なのでやむなく便宜的に僕がトラックを組み替え、リーディングを乗せました。とにかくまずはリーディングを乗せることが肝要だったし、むしろ構成についてはまた調整をお願いすればいいと考えたからです。そして僕としても意外なことに、その組み替えがそのまま採用されています。

シンガーやラッパーが受け取ったトラックを自ら組み替えることなど、本来はまずありません。便宜上とはいえそれができるのは、どうあれ僕がトラックを自作してきた経験があるからです。したがってこの制作過程ひとつとっても、この2人でしか成し得ない、ひいてはめちゃアグロー案内的であるとも言えるわけですね。

でも実際に仕上がって聴いてみるとむしろ初めからこの着地を目指していた気がするくらい、しっくりきています。ふしぎなもんですね。もし8小節ループだったらどうなってたんだろう?

九番目の王子と怪力の姫君」はこんな作り方もあると実感できた点で、おそらく一生忘れ得ない作品のひとつです。

2025年12月5日金曜日

ライブのある会社説明会みたいな夜だったこと


せんべいはぶじ配り終えたとしか言いようがない、そんな夜だったと申せましょう。以前お伝えしたとおり、ひざつき製菓さんのご厚意で「アグローと夜2025」にご提供いただいた雷光(旨塩味)は、なんとダンボール6箱(!)です。それをうちの人がひざーるくんのコスプレで来場者のみなさまにせっせとお配りし、お客さんはそれをライブ中にぽりぽりと食べ、なんならちょっとお腹も満たされてお帰りになりました。


率直に言って、これほどごくごく私的かつ小規模なイベントに協賛がつくことなど、まずありません。一体何がどうなるとこういうことになるのか、あれから1週間が経とうとしている今でもさっぱりわからないのだけれど、とにかくあんなおもしろい夜はそうそうないよな、と得難い感謝をしみじみ噛み締めています。ひざつき製菓さん、本当にありがとうございました!

リハ中

そして今年も、ライブの合間にはトークだけでなく、さまざまなCMが流れました。

・DAPHNE「アポロニカ学習帳」NG集
・サンボ乳業「トラバター」
・阿具楼製薬「阿具楼漢方胃腸薬」
・バリモア石鹸「ピッカリンクイック」
・山本和男 THE MOVIE 鈍足の快速急行
ひざつき製菓「雷光(旨塩味)」ver.1
ひざつき製菓「雷光(旨塩味)」ver.2

アポロニカ学習帳」はもちろん、アグロー案内 VOL.9に収録のCMです。レコーディング時にいろいろまちがえたバージョンがテイク4まであります。僕も当日はこのノートを会場に持っていきましたが、何人かのお客さんもお持ちになってくださっていてうれしかったです。去年のアグローと夜で流したスチャラカCMを受けて、次はどこにもないはずの商品をちょっとだけ現実にする、というコンセプトだったはずなのに、まさか土壇場になって実在する商品(雷光)がそれを凌駕することになるとは、ほんとにね、生きてるといろんなことがあります。

しれっと雷光(旨塩味)のCMが紛れこんでいますが、これは違います。いえ違うというか全然違わないんだけど、えーと、雷光(旨塩味)が配布されることになってから慌てて作ったようにたぶん見えると思うんだけど、違います。そうではなくて、ひざつき製菓さんからご連絡をいただくその前から勝手に作ってあったのです。どうあれ会場では流すことが最初から決まっていた、と言い換えてもよいでしょう。実際、他のCMと同じタイミングで録音しています。「どのみち聴くのは会場のお客さんだけだし、好きに作って流しちゃおうぜ!キャッキャッ!」といういつものノリでレコーディングした後になってひざつき製菓さんからご連絡をいただいてしまい、むしろ狼狽えたくらいです。当の担当者さんがお聴きになるのと、そうでないのとでは、どう考えてもやらかし具合が変わってきます。

なので慎重に協議を重ねた結果、まあいっかということで、何ひとつ変更せずにそのまま流しました。どうあれ深い愛情なくしてこれほど完成度の高い着地にはなり得ないし、その思いは十分に伝わったはずです。と信じたい。なんなら公式でもそのまま使っていただきたい。


ライブのセットリストには、今年配信された4曲が追加されました。CMや山本和男を含めると7曲ですが、いずれにせよアグロー案内は気づいたらもう、一度に全曲やることはできない作品数になっています。ありがたいことです。

中でも「水茎と徒花/black & white」は、だいぶ以前から公開はしているのでリメイクといえばリメイクなんだけれど、実際にはこれが初の正規リリースとなっています。実際、こうしてカズタケさんに仕上げてもらってみると、以前のバージョンはオリジナルというよりデモ音源だったんじゃないかとおもう。

またこれに関してはリリース前から、もしライブでやるならここはこうしたいという明確なイメージがありました。言うまでもなく「食うなよ」の部分です。その一言に至るまでの言葉にならない複雑な胸中を、ライブなら思う存分、表現できます。へんな言い方だけど、要は好きなだけ絶句できるのです。そういう意味では基本的にライブ向きの作品でもあると申せましょう。本当に心の底から「あーもう!」というもどかしさを費やすことができたのでたいへん気持ちよかったです。


一生に一度、あるかないかの協賛はさておき、個人的には「アグローと夜」という催しの、あるべき形が見えてきたように感じています。少なくとも、人前でパフォーマンスすることを大の不得手とする僕が、また来年もできたらいいなと思うくらい楽しい催しになりつつあることは確かです。とりわけ今年は開催が週末だったこともあってか、初めてのお客さんが思いのほか多くいらしてしみじみと感慨深いものがあります。観てもらえて本当によかった!ありがとうありがとう。どうかまたお目にかかる機会が巡ってきますように。


また今年は、終演の数日後に収録したアフタートークもspotifyで配信しています。「アグローと夜」を振り返る、はずだったのだけれど、あまり振り返っていません。でもなんだろ、こういう体温の感じられる後日談があってもいいなと思ったので、よかったら聞いてみてください。ライブよりぜんぜん気楽に喋ってるのがいい…とじぶんで言うのもなんですけど。
 

2025年11月28日金曜日

アグロー案内 VOL.10解説「九番目の王子と怪力の姫君/how he became a pearl diver」①


この曲の制作におけるイレギュラーな過程についてはまた改めて書き残しておこうと思いますが、ぜんぶまとめると長くなるので今回はひとまず注釈だけ記しておきましょう。

というのも、この曲のテキストもまた、これまでにない書き方をしたからです。

何しろ通常はある程度テーマを抱いて向き合うところ、この曲に関してはテーマもへったくれもなくとにかく思いつくままに書き散らしてから考えようとめちゃめちゃアバウトに書き始めています。最初に思い浮かんだのは「理由がある。」という一言のみです。

ほほう…理由がある…それはどんな?ひとつだけ?と自問しながら深く考えずに書いていったら、なぜか龍に転じました。龍か…龍といえば…とここで曲亭馬琴の南総里見八犬伝が思い浮かびます。八犬伝にはちょいちょい龍が出てくるのだけれど、そういや龍の子についてあれこれ書いてあったな…と思い出したのが、つまり「龍生九子」です。いくつかバージョンがあるようですが、ここでは八犬伝の記述(元はおそらく「懐麓堂集」)に準じています。龍になれないならどうやって龍が育つんだ、とおもいますが、元々そのあたりを度外視した伝承なので、仕方ありません。曲の途中で唐突に解説が始まるあたり、リーディングならではという気もしますね。

龍になれないということはまあ落ちこぼれだよな、とここでそのうちの一人として気の毒な小悪党が登場します。落ちこぼれなので親である龍の期待に沿うことは当然できません。どうにかしてその目から逃れ、生き延びる必要があります。空から見下ろす龍の目から逃れるとしたら、うーん、海かな…あ、海の底にあるじゃん、真珠貝亭が、とここでかの酒場に連れていくことになったわけですね。なので続編になってしまったのは、100%成り行きです。

とはいえ真珠貝亭についてはもうすでに書いているので、再度そこに焦点を当てることはできません。なので、じゃあ店にいる客でも引っ張り出すか…どんな人がいいかな…とあれこれ想像しているうちに現れたのが今昔物語集に出てくる怪力の姫君、「大井光遠の妹」です。ここでそのあらすじを記すことはしませんが、大好きな話なので気になったら読んでみてください。まじで想像を絶する怪力っぷりです。

先の小悪党にも名前がなかったので、せめて姫には名前をつけとくか…どんなのがいいかな…と考えて思い出したのが、松尾芭蕉(とその同行者である曾良)が出会ったかさねという少女です。どこにでもいるような、ごくごくありふれた農村の子なのだけれど、なんて典雅な名前だろう、と感銘を受けたことがおくのほそ道に記されています。

と、ここまで考えてふと、あれ?かさねって…と連想したのが、着物の重なりに見る日本古来の配色美、襲(かさね)です。しかも漢字に龍がいる!なんておあつらえ向きなんだ、ということで、怪力の姫君の名がつけられました。

つまりこの作品は、南総里見八犬伝今昔物語集おくのほそ道という、日本における3つの古典から生まれたとも言えるわけですね。

とはいえ元より、こういうのを書くぞ!と意気込んだわけではなく、書いてるうちにそうなってしまっただけなので、まあそんなふうに生まれるテキストもあるよ、という話です。へ〜としか言いようがないと思いますけども。

でもなんというかこう、詩というには語りすぎだし、物語というにはアクロバティックすぎるこの感じ、このフォーマットでしか活かせないテキストとして、めちゃめちゃ気に入っているのです。

2025年11月21日金曜日

九番目の王子と怪力の姫君/how he became a pearl diver


 理由がある。とってつけるほどある。方方に売りつけてその売れ残りを、きれいに掃いて捨てるほどある。浮世は汲めども尽きぬ理由に溢れて、石油のようにいずれ枯れることもない。誰かが道に落とした理由をアリたちがせっせと運ぶこともあれば、道具箱のように引っかき回してやっと見つかることもある。折り目正しい執事がていねいに畳んで、主人にさりげなく手渡すこともある。あるいは機械の部品にも似ていて、いくつか組み合わせてやっと歯車が回ることもある。盗賊にとってのダイヤモンドにも似ていて、大きすぎても手に余るし、小さすぎても足りない。これだけ溢れ返っていても、よしとはならない理由がまた、ここにある。理由にさえこれを支える理由があって、理由の理由の理由にもまた、別の理由がある。

 それはまるで数珠のように連綿とつらなり、ねじれてはひねり、もつれてわだかまり、ほぐそうとしてのたうちを繰り返すうちに、やがてくるくると螺旋を描いて上昇し、雲を突き抜け、空を駆け巡り、大雨を呼ぶ。のどの下にあって逆鱗と呼び做す、逆さまの鱗にひとたびふれれば、雷鳴とどろき、大地を震わせ、その猛威は遠くどこまでも伝わり、小さな町の片隅、路地裏をうろつく、三下もどきの小悪党を慄かせる。ごらん、ここにいるのは、ろくに奪えず、ろくに欺けず、むしろたぶらかされて、一杯食わすはずが食わされることもしばしばで、けちな悪事ひとつやりおおせない、アル・カポネを夢見るにはあまりにもちょろい、龍でなくとも豆粒に見える青二才。

 龍は九つの子を生むという。これを龍生九子という。子はみな異なる性格を受け継ぎ、それぞれ、鳴くことを好み、呑むことを好み、高いところを好み、音楽を好み、文学を好み、裁きを好み、座すことを好み、背負うことを好み、殺戮を好む。そしてかなしいかな、どの子もみな、龍にはなれないという。

 路地裏の小悪党は龍の子のひとりで、龍どころか悪党にもなりきれない男。まだ目はあるのか、それともないのか、指で弾いて宙を舞うなけなしの硬貨はつかみそこねて転がり、排水溝に消える。草葉の陰、ビルの谷間、捨て置かれた空き家とあちこちに身を潜めながら、目指すのはとにかくここではないどこか、白と黒と色を問わずただいられるどこかを、あてもなく求め歩くその道の先々で探偵、死神、鰐の小娘、蟷螂やらその他がそれとなく指し示す方角をたよりに、おぼつかないまま吹き寄せられて、いつしか流れ着いたのは海に沈んだ浮かばれない酒場「The Pale Pearl Parlor(真珠貝亭)」。

 長すぎる夜を耐えたその床に散らばるのはラムの空き瓶、目の掠れた骰子、針のない時計、鈍器としての灰皿、怪力の姫君、いびきかくピアノ弾き、火だるまの酔いどれと去りそびれた老いぼれ。

 中でも怪力の姫君は(かさね)と呼ばれ、腕相撲で無双するうるわしい豪傑。覚えのある猛者たちの丸太みたいな腕を鉞よろしく端から薙ぎ倒す。くだんの小悪党も挑んで軽くあしらわれ、懲りずに挑んでまたあしらわれる。挑んでは敗れ、敗れては挑み、そのたびに容易く椅子から転げ落ちる。耳を貸せと言っては勝手に借りていく連中が、久しくなかった余興に笑い転げる。

 そんな賑わいを遠巻きに眺めるのもいて、そういや龍はまだ見たことがねえな、ん?いやあったか?あったかもな、前もいたよな?と不意に話をふるカウンターの内側で、昔マッチ売りだった女がどうとでも受け取れる曖昧な笑みを浮かべながら、グラスを拭いている。 

2025年11月14日金曜日

「アグローと夜」にひざつき製菓の雷光(旨塩味)がついてくる話


本来であれば今週は アグロー案内 VOL.10 のトラックリストを公開してどうにかリリースまでの間を持たせようと目論んでいたわけですが、しかしこれはやはり、どうあっても書き留めておかなくてはなりますまい。

さかのぼること1週間前、ここでは昨年以来すっかりおなじみとなったひざつき製菓の「雷光」と「城壁」がリニューアルされ、ハロウィンの晩にその比較検証をしたことをお届けしたわけですが、その投稿が公開されるさらに数時間前、ポコンと1通のDMが届いたのです。


えーと……「アグローと夜」にひざつき製菓さんが……

え?

「アグローと夜」に??ひざつき製菓さんが……雷光(旨塩味)を……

え??雷光(旨塩味)を提供……提供??

してくださる???

え、待ってチケット??

チケットまで取ってくださっている……???

たしかに僕は今年の春、アルスクモノイを訪問してくださったひざつき製菓広報担当の方とお会いして、

※参考記事

そのたいへん気さくなお人柄をいいことにここぞとばかりにいろんなお話をさせていただいています。しかしそれはあくまで、たまたまその日神保町の古書組合でひざつき製菓のせんべい試食会を勝手に開催していたアルスクモノイ店主akaうちの人の代理であって、そのひざつき愛をひたすら強調することはあっても、僕自身の話など何ひとつしておらず(当たり前だ)、また知るはずもないと思っていたからです。

もちろん、Xを辿ればこのブログに行き着くこともあるでしょう。そしてアルスクモノイ店主の連れ合いである僕がなんらかの音楽的な活動をしているっぽいと把握できるところまでは、まだギリわかります。

問題はここからです。

たしかに音楽的な活動をしていることは否めないけれども、一般的なミュージシャンと大きく異なり、僕は人前でパフォーマンスをすることがとにかく不得手で、少なくともこの20年、一貫してライブに二の足を踏み続けてきた男です。実際ここ数年、「アグローと夜」以外のライブはありません。そもそも認知度が高いわけでもないし、多くのフォロワーを抱えるメジャーアーティストやインフルエンサーでも全然ないどころか、道端に横たわるバナナの皮と大差ないただのおっさんです。第一線で活躍しまくるタケウチカズタケと違って、該当するカテゴリすら砂つぶ規模であると言ってよいでしょう。

そんな、どこの馬の骨で具体的に何をしてるんだかわかりようもない不審な人物の、年に一度もあるかないかのささやかなライブイベントに……しかもオファーの時点ですでにチケットを取ってくださっている……

と当の僕自身がうろたえまくるのも、無理はありません。あるわけがない。

しかし事実です。ひざつき製菓さんも、一瞬の躊躇いもなく「まったく問題ありません」と太鼓判を押してくださっています。昨年来、地に足のついたその堅実な企業スタンスに好感を抱いていましたけれども、その印象が間違っていないばかりかそれ以上だったことを今、身にしみて実感しています。こんな道端のバナナの皮みたいなおっさんでも何がしかのお役に立てるのなら、よろこんでこの身を捧げたい。

この投稿前に完売してしまったのでこれ以上喧伝できないのが本当に残念でなりません。でも今年の「アグローと夜」には本当に、もれなく雷光(旨塩味)がついてきます。おそるおそるフライヤー画像にひざーるくんを入れてお伺いを立ててみたら、これも快諾していただけて言葉もありません。すごい……


それでなくともアグロー案内 VOL.9アポロニカ学習帳とのタイアップにキャッキャとはしゃいだばかりなので、これまたいつもの楽しいホラのひとつではないかと当の僕でさえ二度寝してしまうほどです。

ひざつき製菓さん、本当に本当にありがとうございます……!

そしてそのやり取りの数時間後、もともと予定していた城壁と雷光の比較検証記事が投稿されたという……ぜんぶ偶然なのになんだろうこのステマ感は……。

 

2025年11月7日金曜日

ひざつき製菓「城壁」と「雷光」のあまり知られていないリニューアル前後を比較検証した話


閃光に貫かれたかのような、ひざつき製菓との衝撃の出会いからかれこれ1年が過ぎようとしていたある日、主力商品の一つである雷光(旨塩味)を愛する会の会長として今も日々精力的な活動をつづけるアルスクモノイ店主akaうちの人の元に、古書店仲間である浅草橋のかみふく書房さん(@kamifukubooks)から緊急の連絡が入ったのです。「たったいへんです!城壁と雷光が……!」

ここで今一度、説明しておかなくてはなりますまい。栃木を本拠とする至高のおせんべいメーカー、ひざつき製菓の看板商品に「城壁」「雷光」があります。城壁はひざつき製菓のアイデンティティと言っても過言ではない、今も昔も不撓のフラッグシップモデルです。そして他に類を見ないその生地を「揚げる」ことによって生まれたのが雷光であり、こちらはむしろ弟分にあたる、と言ってよいでしょう。

城壁には「金色のたまり味(しょうゆ)」「白銀の京味(塩)」があり、同じく雷光にも「はちみつ醤油味」「旨塩味」がありました。(あったと過去形で書いた理由は最後に触れます)

これは完全に好みの問題ですが、わが家が推し、布教しているのは雷光(旨塩味)、次いで城壁(白銀の京味)です。つまりどちらも塩味ということですね。

冒頭に登場したかみふく書房さんは以前から古書業界におけるおせんべいマイスターとして知られており、ここぞとばかりにうちの人が城壁と雷光を勧めたところ、同じく底なし沼に溺れて沈み、あれよあれよと城壁(白銀の京味)を愛する会の会長へと登りつめた人です。半径10km圏内に城壁と雷光を置いてある店がないうちと違って、彼の場合はたまたま日々の行動範囲内で手に入る環境だったこともあり、止めないと主食になりかねない勢いで今も城壁を摂取しつづけています。すくなくとも城壁に関して23区内で彼以上に愛情を注ぐ人は存在しないと言い切ってしまってよいでしょう。

わが家は今年の正月に栃木のひざつき製菓本社工場を電車と徒歩で参詣していますが

※ここまでの経緯は以下の投稿をご覧ください

かみふく書房さんもその後まったく同じ轍を踏んでことをしています。栃木駅から徒歩30分ですよ。

ここまでが前提です。

改めて言い直すと、雷光(旨塩味)を愛する会の会長(であるうちの人)が、城壁(白銀の京味)を愛する会の会長(であるかみふく書房さん)から、城壁と雷光に重大な異変が起きた旨の急報を受けたわけですね。

送られてきた画像を確認したところ、たしかにパッケージが新しくなっています。しかし全体としての異変はそれどころの話ではなく、とても静観できる状況ではないっぽいことから、急遽お互いにストックしてある旧バージョンと新バージョンを持ち寄って、比較検証の場を設けることになりました。それがハロウィンの晩です。




外観から確認できる違いは、以下のとおりです。

・パッケージデザイン
・内容量
・原材料
・栄養成分表示
・パッケージ裏の文言

これだけでも、かなり大幅なリニューアルであることがわかります。とりわけ、原材料に違いがある点は見逃せません。かみふく書房さんはこの時点ですでに味わいの違いを独自に検証しており、以前のほうが美味しかった可能性を懸念していたことも、ここで強調しておきましょう。

ただ目隠しで検証していたわけではなかったので、今回は公平を期すためにバージョンの新旧を伏せて食べました。果たして目隠しでも違いがわかるのかどうか、全員で食べ比べた結果が以下です。

・城壁→わからない
・雷光→わかる

そしてこれはいくら強調してもいいとおもうのだけれど、どうあれ「やっぱ美味いな……」という結論になりました。

その上で、検証した全員が当てることのできた雷光のリニューアル前後について記しておきましょう。

これはあくまで比較したから認識できたことなので、もとより良し悪しの話ではないことを前提にお伝えすると、リニューアル後の雷光は、以前よりも塩気と旨みが控えめになっている、という印象です。塩分については栄養成分表示からもわかるように城壁と雷光のどちらも明確に抑えられているものの、どちらかといえば雷光のほうがそれを感知しやすかった気がします。実際、以前の雷光を食した人のなかには、ちょっと塩気が強いかも…、という感想を抱いた人もいるようなので、その点ではよりやさしく、フレンドリーになったと言えそうです。

以前の強烈な旨みに重きを置く場合は若干物足りなく感じる可能性もありますが、裏を返せばこれは生地のおいしさがより前面に打ち出された、ということでもあります。せんべいである以上、生地の魅力を強調するのはごくごく自然なことであり、より多くの人に訴求できるポテンシャルを高めたと言うこともできるでしょう。ここには間違いなく、せんべいに対するひざつき製菓の愛と矜持がはっきりと感じられます。

したがって、以前との違いはたしかにあるものの、珠玉のせんべいであることに何ら変わりはなく、やはり全力で推さずにはいられないというのがわれわれの結論です。どうにか手に入れてぜひ一度、食べてみてください。

ちなみにこのリニューアルに伴ってかどうか、公式サイトのラインナップから雷光(はちみつ醤油味)が消えています。ただ、うちにしてもかみふく書房さんにしても推しは塩味なので、その行く末を追い求める予定は今のところありません。