カモ山ネギ助さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. 一番男気があふれる野菜って、なんだと思いますか?個人的には、蕪です。漢字に無が入っているのにもしっかり太い実があるし、頼んでもないのに硬い皮まで装備しているので。
これはいろんなアプローチが考えられそうな良問ですね。男気だけでなく、セクシーとか繊細とか蛮勇とかアンニュイとか、いろんなテーマで野菜を見つめ直してみたくなります。男気はマチズモにも通じるものがあって人に適用すると剣呑だけれど、何しろ相手は野菜です。むしろ男気とは何かということが浮き彫りになるかもしれません。
真っ先に思い浮かんだのは、落花生の大粒品種「おおまさり」です。その名前からして必要以上の男気にあふれています。じぶんの名前がこれじゃなくてよかったとしみじみおもうくらいです。
しかもこのおおまさり、「ナカテユタカ」と「ジェンキンスジャンボ」というこれまた男気しか感じられない親品種の交配によって生まれています。アーノルド・シュワルツェネッガーとシルベスター・スタローンの交配によってドウェイン・ジョンソンが生まれたみたいなことである、と言っていいでしょう。男気どころかY染色体しかない。
名前だけではありません。おおまさりはその大きさ、甘さ、柔らかさから、炒るよりも茹でるに適した品種ですが、茹でるのにめちゃめちゃ時間がかかります。実際に美味しくいただいたことのある僕の記憶がまちがっていなければ、たしか1時間くらい茹でる必要があったはずです。1時間も釜茹でにされないとギブアップしないあたりに、いささか不毛な男気を感じます。それでカッコいいかと言えば別にそうでもないところがまた男らしい。
とはいえこれは落花生の一品種であり、野菜という大きな枠組みにおいてはやはり落花生として括られるべきであり、落花生全体に男気が感じられるかといえばそうとも言えない、ということになるでしょう。
その視点で改めて考え直してみると、僕が挙げたいのはピーマンです。何と言っても、名前に「マン」が入っています。この一点だけを見ても圧倒的なアドバンテージを有すると言わざるを得ない野菜です。そう聞かされて一番びっくりするのは他ならぬピーマン自身だと思いますが、ある視点からどう見えるかというだけの話なので、本人というか本ピーがどう認識しているかなどここでは問題になりません。
語尾にマンと付く場合、それが職業や役割でないかぎり、どこかしらヒーロー的な響きを帯びるものですが、ピーマンの場合は逆立ちしてもそうはなれないばかりか、むしろある種の哀愁が漂っています。哀愁はそれ自体が男気の一種です。酔うというか浸るというか、男気という概念にはそういう側面が確実にあります。
ただ、僕がピーマンを挙げたのはその名前のためではありません。そもそも中身が空っぽで薄っぺらいやつだから早く使わないとあっという間に朽ちてしまいそうなのに、冷蔵庫の野菜室に入れておくと思いのほか萎れずにわりと長持ちするからです。
玉ねぎ、人参、じゃがいも、南瓜など、長持ちする野菜は他にもいっぱいあるけれど、正直ピーマンがその列に並ぶようには思えません。でも実際、耐えます、ほんとに。
買ってあったことを完全に忘れていたような状況でも、そして実際、包丁を入れて種の部分が明らかに弱って朽ちかけていても、食用となる主な部分はぜんぜん大丈夫だったりします。忘れられてたんだから朽ちるだけの理由は十分あるのに、意地とかやせガマンとか根性論で持ちこたえているように見えるところに、僕なんかは男気をつよく感じずにはいられません。そうあるべきとは1ミリも思わないけど、最大限の敬意は払いたい、そう思わせる野菜です。がんばれピーマン!
A. ピーマンです。
*
質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。
dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その462につづく!
0 件のコメント:
コメントを投稿