2011年7月26日火曜日

あるいはこの世にあらざる者の干渉について



希有な夜だったと言わねばなりますまい。


何しろ数多くの夜をフロアで過ごしてきたDJ TOKNOWをして、「こんなイベントはなかなかない」と言わしめるほど、その日は奇妙な多幸感に包まれていたのです。とくに何かを祝っていたわけではないし、タケウチカズタケが自由に好きな音を奏でて、呼ばれたDJが好きにレコードを回していただけなのに、数日たった今ふりかえってみても、なんだか感動的だった、としみじみおもう。レコードの回転が止まり、まろやかな静寂がその場を満たしたイベントの終わり、夜明けの放心状態はちょっと言葉にできません。でもこういうの、いいですね。ホントに。



また一方で僕にとってそれは、見えざる手、あるいはこの世にあらざる者の干渉について、考えさせられる夜でもありました。

 *

これまでに幾度かフロアでレコードをくるくる回したことがあります。そうしてどういうわけかその度に、プレイ中に自らの手でうっかりレコードを止めてしまい、フロアをいたたまれない沈黙でパキンと凍りつかせた、という話は前にも書きました。きまりが悪くて、思い出したくもありません。

だからこそ今回は、きちんと心構えをして出かけたのです。もう二度とないだろうと笑って高をくくっていた前回でさえやっぱり止めてしまったのだから、ふつうなら過剰ともいえるほどのハラハラしたきもちを抱えていたとしてもゆるされましょう。

結論から先に言うと、その甲斐あったと言うべきか、今回はプレイを中断することはありませんでした。手つきがおぼつかないとか、ぜんぜん踊れないとか、そんなわかりきったことはポイと脇にうっちゃるとして、かけたい曲はぜんぶかけました。ゆるゆるではあるけれど、でも大好きなイイ曲ばっかりで、誰より僕がいちばん楽しんでいたはずです。大音量で好きな曲をかけまくるなんて、そんな機会はそうそうないし、フィジカルな快感とはべつに、ちょっとくらい耳をかたむける時間があってもいいよね。

ただ問題は、べつのところにあったのです。

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イベントのはじまる数十分前、設置された2台のターンテーブルをみて、ふとあることに気づきました。


あれ…?


7インチホルダーがない…。




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レコードとあまり縁のない方のために説明しておくと、レコードには「12インチ」と「7インチ」という、大まかに分けて大小2種類のサイズがあります。単位を変えて言えば前者が30センチで、後者が17センチです。ピザみたいなものですね。12インチにはシングルとアルバム、どちらにも使われますが、7インチは基本シングルのみです。大半は、表と裏で2曲だけ。

このふたつは回転数もちがいます。12インチは1分間に33回転ですが、7インチは1分間に45回転です。回転数が多いということは、それだけ針の進む距離が長くなるということでもあるので、とうぜん1曲分の溝に含まれる情報量が多くなります。7インチのほうが音が良いと言われるのはそのためです。

またもうひとつ大きなちがいとして、7インチはセンターに12インチよりもはるかに大きい穴が空いています。なぜかというと、もともと7インチは「ジュークボックス」という巨大なミュージックチェンジャーに合わせてつくられた規格だからです。今ならiPodとスピーカーがあれば事足りることでも、昔は自動販売機みたいに大きな機械のなかにこの7インチが目いっぱい詰め込まれていて、お金を入れてボタンを押すと選ばれた1枚ががたごとセットされる、たいへん大掛かりな仕組みになっておりました。機械が円滑にレコードを操作するためには、相応の大きな穴が必要だったのです。

参考資料


おうちのレコードプレイヤーに乗せて聴くというより、なじみの店にあってみんなで聴く共有物としてのメディアだった、ということですね。

穴の大きさがちがう、ということは、当然レコードプレイヤーに乗せる際にその大きな穴を埋める専用のアダプターが必要になってきます。それが7インチホルダーです。通常はプレイヤーに付属しています。


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えーと、何の話だっけ?


 *

そうそう、驚くほど遠ざかってしまった話を元に戻すと、ターンテーブルのあるべき場所にそのホルダーがないのです。そこだけぽっかり空いている。

プレイするのが12インチだけなら、何の問題もありません。じっさい僕もこれまではホルダーの有無を確認する必要がなかったくらいです。問題は僕が、今回よりによって7インチしか持ってきていなかった、という点にあります。


ガーン!


慣れた人なら、じぶん専用のホルダーを持参していることでしょう。場合によってはそれはDJのアイデンティティのひとつにもなるだろうし、僕でさえターンテーブルの付属品とは別のホルダーを持っています。

でも、持ってきてなかった。


 *


こう書いていると大したことではないように自分でもおもうけれど、そんなことはありません。むしろ致命的です。7インチにとってホルダーがないということは、ターンテーブルがないも同然と言えましょう。つまり、どうしたってかけようがないのです。

もう30分早くわかっていればいったん家に帰ることもできたのだけれど、気づいたときにはもうおそく、あれこれ頭をひねってみたところで結局は途方に暮れるばかりです。

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しかし先にも書いたように、レコードはぜんぶかけました。もちろんホルダーはありません。ではどうしたか?

タカツキせんぱいが思案に暮れる僕のそばへニョロニョロとやってきて、こう言うのです。「ガムテープでくるくる巻いて作ったらええんちゃう

というわけで、これが今回の顛末です。


「スミマセン」の5文字を弾にして僕に早撃ちさせたら、ビリー・ザ・キッドにも勝てる気がする。


 *


しかしまあここまでくれば僕もさすがにわかります。この世にあらざる者がそっと背後にしのびよって耳元で「手を引け」とささやいているのです。「次はこんなものじゃすまないぞ」と非情な現実を突きつけてきているのです。きっと次はターンテーブルが謎の大爆発を起こしてフロアが煙でもくもくになるばかりか、ことによるとケガ人が出たり、損害賠償を請求されたあげく破産申請してワーン!


そういうわけなのでもうDJはやりません。たぶん。さすがにこりたし、せめて猿より学習したい。


記念にセットリストを載せておこう…

01. Looking For A Lover / Guys & Dolls
02. Maybe / 3 Degrees
03. Loving Material / Charmels
04. Bye Bye Baby / Dee Dee Sharp
05. I'm In Love / Hodges, James, Smith & Crawford
06. Taboo / Indigos
07. What Ever You Want / Sir Wales Wallace
08. March Across The Land / Linda Clifford
09. Sweet Norma Jones / Spice
10. It's The Right Time To Do / Velvet
11. All I Want Is You Pt.1 / Four Flights
12. Just Looking For My Love / Four Wonders
13. (Call Me Your) Anything Man / Bobby Moore
14. Pops, We love You / Diana Ross, Marvin Gaye, Smokey Robinson, Stevie Wonder
15. Love Me Today / First Love
16. It Takes Two / Summits
17. If You Had My Love / Oncoming Times
18. Tired Of Being Lonely / Valentinos
19. If A Woman Catches A Fool / Voice Masters
20. Looking For A Love / Kenny Hamber
21. No Escape / Concept Nine
22. Yeah You're Right You Know You're Right / Gatur's
23. Annie Got Hot Pants Power / Syl Johnson
24. Superpeople / Notations
25. Soul Girl / Jeanne & The Darlings
26. How Can You Mistreat The One You Love / Katie Love
27. Open Up Your Soul / Erma Franklin
28. Ring Once / Sisters Love
29. Be My Lady / Dynamic Tints


名曲ばっかり…!

4 件のコメント:

f.k さんのコメント...

イベントお疲れ様でした。
大吾くんのプレーがたっぷりあったので是非遊びに行きたかったのですが、泣く泣く見送る形になったのです。

それが「ちょっと言葉にできません」と、こうきたら、倍の倍くらい「行きたかったなあ」と思うのです。

畳み掛けるように「もうDJはやりません」と仰れば、いよいよ後悔が胸中を独占しました。

とどめは、満点に華やぐセットリスト…
早撃ちのスミマセンが五臓を貫通してあちらへ飛んでいきました。

今や、いつか大吾くんの選曲を生で味わえる日を乞うばかりです。

miya さんのコメント...

素敵なイベントだったんですね。行きたかった。
幼少期に親父のホルダーでアイスホッケーごっこをしてたら、「え~うそ~ん。ひくわぁ~。」ってくらい怒られたのを思い出しました。

タケウチカズタケ さんのコメント...

そんなこと言わずにまたDJ聴かせてくれよ、オファーするからね

ピス田助手 さんのコメント...

> f.k さん
そんなふうに言ってもらえるだけで、僕としてはじゅうぶん満足です。次はぜひぜひ、いらしてください。それよりはもう少し先の話だけど、僕からつながるあの人がゲストに出ることも決定してますよ!

> miyaさん
ターンテーブルに付属してるホルダーはたしかに、ホッケーのパックそっくりですものね。お父さんがどんな1枚に針を落としていたのか気になります。イイ思い出!

> カズタケさん
明け方のカズタケさん、イイ顔してましたね…