2024年7月26日金曜日

アグロー案内VOL.7 解説「フィボナッチは鳳梨を食べたか?/pineapple as a depreciable asset」


ある昼行灯の問題/still on the table」と「フィボナッチは鳳梨を食べたか?/pineapple as a depreciable asset」のテキストをプルクワパ霊苑に埋葬してあります。よかったら読んでみてください。


僕は昔から「それ以外の選択肢」に心を寄せる傾向があります。それ以外というのはつまり、多くの人が選ぶわけではないし目立たないけれども、確かにあって手を伸ばすことができる選択肢のことです。

どちらかといえば僕自身が「それ以外の選択肢」に属している自覚もあって、それを選択することはそのまま自分自身を肯定することにつながっているのかもしれません。

思えばリーディングというスタイルからしてそうだったし、それによって生まれたアルバム群もまた当然そこに連なります。

また、アルバムとしてだけでなく、収録された作品にも「それ以外の選択肢」はあるわけだから、これはもうある種のフラクタルと言っていいでしょう。

フィボナッチは鳳梨を食べたか?/pineapple as a depreciable asset」は、おそらく「紙芝居を安全に楽しむために /you may be the last to carry on」と並んでその極北、でなければ辺縁ギリギリに位置する一編です。何を言ってるのかわからないかもしれないけど、これ以上の「それ以外」にはなかなかお目にかかれないんじゃないかとおもう。深海魚みたいですね。

タケウチカズタケの才能をこんな得体の知れない深海魚の調理に浪費させてしまっていいのかという後ろめたさや自責の念はもちろんあります。もちろんあるけど、アグロー案内なので仕方がありません。びっくりするほど美味しいスペシャリテに仕上げてもらった以上、僕としては次の深海魚を狩るべくしれっとまた海に潜るだけです。

テキストはもともと、朗読の練習のために書いた記憶があります。ただ、なぜパイナップルなのかは全然おぼえていない。最初はむしろフィボナッチに焦点を当てていたような気もするから、たぶん書いているうちにピントがずれていったんじゃないかと思う。出口に辿り着ける迷宮よりも、一向に辿り着かない迷宮で快適に過ごそうとする性分なので、これも仕方がありません。

この性分はまた、わかることよりもわからないことのほうに重きを置いている、と言い換えることができます。わからないほうがいい、ではなく、わからなくてもいいに近いニュアンスです。

何であれ大切なのは考えつづけることであって、答えではない、と僕はつねづね胸に刻んでいるところがあります。イージーな答えはそこで思考が止まってしまうという点で、いつも危うい。わからないものは無理にわかろうとせずに、わからないまま置いておけばいい。必要ならまた考えるときが来る。

そうした向き合い方を知るひとつの端緒として、最初から最後まで何ひとつわからないゴリッとした異物がさも意味ありげに存在していることはそれだけでたしかな意味があると、僕は思うのです。それこそモノリスのように。

2024年7月19日金曜日

アグロー案内 VOL.7解説「ある昼行灯の問題/still on the table」



各地で話題が沸騰したあげく吹きこぼれて空焚きして炎上して焼け落ちてもなお鎮火せずに延焼中!とかじゃなくてよかったじゃないか、火の気がないのが一番だよ、と夜中にひとりアンニュイな面持ちでグラスを傾けながらしんみり夢みる人生をみごとに体現した噂の アグロー案内 VOL.7、今週は2曲目「ある昼行灯の問題/still on the table」について語ります。DON’T MISS IT!!!!

♪ズッチャッズッチャッ(ジングル)

この番組は、いつも心にぷくぷく泡を、泡ぷくぷくコーポレーションの提供でお送りします。


さて、というわけで今回は神奈川県町田市にお住まいのペンネームたらちゃんから前回いただいた「グレープフルーツからフルーツを取るとなぜブドウになってしまうのですか」という質問について、ひょっとしたら何かのヒントになるかもしれないので、まずは「ある昼行灯の問題/still on the table」のお話をしてみましょう。

(間)

失礼しました。町田市は東京都です。訂正の上、つつしんでお詫び申し上げます。

お伝えし忘れていましたが、アグロー案内の片割れであるタケウチカズタケからみた VOL.7 徹底解説がすでに全曲分、まとめて公開されております。僕自身も知らなかったことがてんこ盛りなのでぜひそちらも併せてお楽しみください。


ある昼行灯の問題/still on the table」は、これはもう、完全にタケウチカズタケのビートを活かすつもりで書いた一編です。一聴するとリーディングに合わせてビートを構成したようにも思われるかもしれませんが、実際には逆で、テキストは100%、初めから組まれていた構成に沿って書いています。

たとえば「ピンポーン」というインターホンの音から始まる緩やかなパートは、テキストに合わせて音を足してもらったわけではなく、僕が元からビートにあったその音をインターホンみたいだな、と解釈してテキストをこしらえたわけですね。

なのでカズタケさんの解説にもあったように「うわっ音に合わせてきた!」と気づいてもらえたのはすごくうれしかった。聴くぶんには気にもならないと思うけど、この部分はこのプロジェクトがお互いに全力の応酬であることを明確に象徴する、ささやかなハイライトのひとつです。

また、この曲ではメッセージ性やストーリー性よりも、言葉遊びに重点が置かれています。というのも、届いたビートを聴いてまず思い浮かべたのが「永遠に繰り返されるある一日」だったからです。あれこれ考えて、さんざん悩み抜いた結果、振り出しに戻る感じ。どのみちこの先も懲りず繰り返されるわけだから、生半なパンチラインよりもむしろ言葉遊びにうってつけのテーマと言えるでしょう。

言葉の置き方としてぼんやりイメージしていたのは Common の “Come Close” ですが、できてみると全然ちがいますね。ただなんというか、テーマと同じように言葉も同じ音を繰り返して、歩くというよりはその場で足踏みをするような形にしたかったので、それはクリアできてよかった。

英題の「still on the table」は、もちろんテキストの「まだテーブルの上にある」に対応しているわけですが、on the table はそのまま検討中という意味の慣用句でもあります。裏を返せば本当にテーブルの上に置いてあるわけではないことを、このフレーズが示しているのです。英題を添えているのはこういう、視点としてのちょっとしたギミックを仕込めるからでもあります。われながら野暮な気もするけど、このブログもこの先はすべてが遺言みたいなものなので、遺言じゃ仕方ねーなと大らかに受け止めてください。

次回はVOL.7に収録された曲のうち最も難解だが書いた当人含めてべつに誰も解く気はない「フィボナッチは鳳梨を食べたか?/pineapple as a depreciable asset」についてです。


2024年7月12日金曜日

アグロー案内 VOL.7解説「名探偵は2度起きる/the return of you-know-who」


さてみなさま、アグロー案内 VOL.7 はお聴きいただいていますでしょうか。

わたくしもリリースされてからというもの、各種メディアの取材依頼が殺到したり何らかのパーティーに引っ張りだこの夢にうなされて朝もおちおち起きられず、町を歩けばファンと思しき散歩中の犬に吠えられたりとたいへん忙しい日々を送っております。

何と言っても数字の大きさからしてアグロー案内史上最高峰との呼び声も高いVOL.7です。本来であればタケウチカズタケの音楽におけるかなり明確な変化と深化についてお話ししたいところですが、正直あまりに高度すぎるのでそれは御大自身の発信を待つとして、これからしばらくはほとぼりをなるべく維持するためにも、KBDG視点による楽曲解説をしてまいりましょう。


え、山本和男が1曲目なん?とカズタケさんはギョッとしていましたが、これはもう、迷うことなくそうあるべきでしょう。

VOL.5で滝壺からの予期せぬ滑落を描いた「名探偵の死/the final problem」、そしてそこからシーズン1のエンディングテーマとも言うべきVOL.6の「名探偵は眠らない/to be continued…」を踏まえてのシーズン2、VOL.7です。その華々しい新たなオープニングテーマを1曲目以外に置く選択肢などありません。

このビートが届いたのは、たしか3月の頭です。この時点ではふたりとも、例によって何らかのセリフを乗せるつもりでしたが


待てよ、これ曲の盛り上がりを煽るような詞のほうがいいんじゃないのか…?と僕が勝手に言葉数を増やし、そのまま採用されています。

カズタケさんには話していなかった気がするけれど、もともと僕はインストで遊ぶだけでなく、いずれちゃんと名探偵山本和男の詞を書くべき必要性を感じていたので、書くとしたらこんなことだよなとかねてから若干のテキストを温めておいたのです。まさかこんな熱量の高いニュージャックスウィングに乗せることになるとは想像もしてなかったけど、どう考えてもめちゃめちゃカッコいいし、どう考えても使うなら今しかないということで、お互いに想定外の着地と相成りました。結果として初めからそういう予定だったように感じるほど新オープニングテーマに相応しい仕上がりになっています。われながら完璧な判断です。えらい。

具体的なことは何ひとつ語られていないのに、背後にあるストーリーとその奥行きを想像せずにはいられない、これが創造性でなくてなんだろう!そういえばそういうことをやりたい人生だったと気づいたら改めて実感させてくれている、それが名探偵山本和男シリーズです。

タイトルについても触れておきましょう。

言うまでもなくこれは前回VOL.6に収録の「名探偵は眠らない/to be continued…」に対するカウンターとしてのタイトルです。もちろん前回はあくまで山本和男の物語は終わらないという意味での「眠らない」だったわけですが、これを字義通りに解釈して、「寝てんじゃねーか」というツッコミになっています。しかも2度起きているので、二度寝です。めっちゃ寝てるやん。

そしてもちろん、タケウチカズタケが敬愛する映画007の5作目「007は二度死ぬ」のオマージュでもあります。

とはいえ山本和男はシャーロック・ホームズへの偏愛から生まれた探偵です。ホームズシリーズ「最後の事件」に酷似する前回の状況からしても今作は「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of Sherlock Holmes)」に当たります。なのでそれがそのまま、英題に反映されているわけですね。

ただ「The Return of Yamamoto Kazuo」ではちょっとあざとすぎるし、何ごともなかったかのようにというか実際何ごともなかったはずなので、しれっと再開するために「you-know-who(あの人)」とお茶を濁しています。たぶんカズタケさんも気づいてないとおもうけど、これはハリー・ポッターの宿敵ヴォルデモート卿の通名からの拝借です。山本和男をヴォルデモート扱いすんなよ!と盛大に叩かれたい、そんなささやかな願いがこめられています。

次回は新曲、「ある昼行灯の問題/still on the table」についてです。

2024年7月5日金曜日

まだ公開されていない体で公開されるトラックリスト

アグロー案内 VOL.7
2024年7月7日(日)配信開始

勿体ぶるつもりもないんだけれど、ほっとくと川面の葉っぱのようにスイーと流れていってしまうので、それをこう、ちょっとでも引き止めるべく、小分けにできそうな情報を個包装にしてリリースまでの日々を維持しなくてはいけないのです。何しろリリースの確定から配信まで10日しかない最短級のスケジュールでありながら、早くも特に言えそうなことがありません。

そこでトラックリストです。何と言っても今回はVOL.6の2倍の曲数を収録しています。CD時代で言ったら2枚組に匹敵すると言っても過言ではありません。さらにタイトルの文字数だけなら3.3倍という脅威のボリュームです。ここぞとばかりにアピールする甲斐はあると言うべきでしょう。

そう思っていそいそと心の準備をしていたところ、数日前に御大がトラックリストをあっさり放流しており、まさしく川面の葉っぱのようにタイムラインをスイーと流れていきました。

流れ去る葉っぱを川べりでひとり見送るわたくし。

蓋し、人生とはそういうものです。気づけば色とりどりの種々様々な葉っぱが、日々という名の川を流れていきます。ここに小さな葉っぱをもう1枚、流したところでバチは当たりますまい。


VOL.6と並べてもらえるとわかりますが、眠らないはずの男が早くも二度寝をしていることがわかります。アグロー案内のシーズン2は、タイトルからすでに始まっているのです。

配信まであと2日です。都民のみなさまは都知事選の投票用紙にうっかり「山本和男」と書いてしまわないように気をつけてください。