2024年8月23日金曜日

フライと焼きそば、あるいは8月にして早くも1年を振り返ろうと試みる話の続き


今年のあれは…4月だったか5月だったか、ちょっとした野暮用があって埼玉県のあるエリアをバスで移動していたら、「フライ/焼きそば」という看板が目についたのです。

何のフライだかわからないけれども、アジフライとかかな、まあそんな店もあるだろうとあまり気に留めずにいたら、15分くらいの間にちょいちょい似たような看板を見かけてさすがにいやいや待て待てと席を立たずにはいられません。

言うまでもなく、看板自体はそれぞれまったく違います。でも看板メニューがどれもこれも判で押したように「フライ/焼きそば」とあるのです。どう考えてもこれは尋常ではない。そもそもアジフライだろうとエビフライだろうと、一般的に言ってフライを売りにする店はそう多くありません。少なくとも僕は見かけた記憶がないし、何のフライなのかを明記しない時点でだいぶ常軌を逸しています。そして焼きそばです。一軒だけならともかく何軒も、そしてさも当たり前のように掲げるフライと焼きそばの組み合わせに一体どんな関連性があるというのか、何だこの町は、とまるで異世界に迷いこんだかのような混乱を覚えたのも無理からぬことと申せましょう。

野暮用を済ませてあとは電車で帰るだけ、という段になってからGoogleマップで周辺を検索すると、びっくりするほどフライを売りにする店がヒットします。そしてどの店も、フライが何のフライであるかを明記していません。ここに至って何となく察した点は2つです。この町におけるフライとは一般に言われる揚げ物としてのフライではないかもしれないということ。そしてどうやらフライが主で焼きそばが従であるらしい、ということです。ホームズとワトソンみたいなことですね。

何しろあとは帰るだけだったので、謎を探るとしたら駅周辺しかありません。徒歩圏内でなんとなく古くからありそうな、フライを扱う店に目星をつけてまっしぐらに向かいます。この町におけるフライとは何なのかを確かめずに、このまま帰路につくことはできません。

意を決して店に入ると、齢80越え(!)と思しき老婦人がひとりで切り盛りしているようです。印象としては昭和の喫茶店に近くて、懐かしい趣を醸しています。


席についてメニューを手に取れば、どこをどう見てもフライ、というかふらい焼きと焼きそばしかありません。あ、焼くんだ…。


迷わずふらい焼きを注文して、ひたすらその時を待ちます。そして出てきたのがこれです。



食感的にはお好み焼きとチヂミの中間みたいでなぜこれをふらい焼き(フライ)と呼ぶのかわかんないけど美味え。80年代によく見かけたようなお店の雰囲気と相まって超楽しい。あんまり楽しいので焼きそばも注文してみたけれど、これはやっぱりホームズに対するワトソンよろしく、フライといえば焼きそば、というある種の定型のようです。焼きそばそれ自体にはそこまで強い印象はありません。でもおいしい。そしてふらい焼きは明らかに食べたことがないタイプのメニューです。あとまあそりゃそうかという気もするけどそれにしたってめちゃめちゃ安い。個人的にはふらい焼きの後に追加で注文した焼きそばの後さらに追加で注文したキムチふらいがとりわけ絶品だったことを付け加えておきましょう。


想定外の未体験が楽しすぎてうっかり長居したのち、帰り際に聞いたら店は今年で70周年らしく、また卒倒しかけます。

「70年!?フライってこの店が始めたんですか?」
「いやいや隣の、行田にね、先輩がいて、その人が始めたの」

つまりフライとは、揚げ物でもなんでもないけれど、行田とその周辺地域に少なくとも70年以上伝わる郷土料理だったのです。行田とフライでググればわかります(このときはあえてググらなかった)。限られたエリア以外ではまず見ないし、それでいてエリア内にはやたらとフライを扱う店があるので、どうあれこれは郷土料理と言うべきでしょう。

2024年に偶然でくわした個人的に最大の事件のひとつがこれです。

あとはもちろん、アグロー案内 VOL.7 がぶじに配信されたことですね。なんだ藪から棒にと思われるかもしれませんが、先々週から予告していたように、今年1年を振り返っているのです。

あとはこれといって特筆できそうなこともありません。今年もありがとう!どうか良いお年を!

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