2024年8月16日金曜日

サラブレッドとしてのきゅうりについて考える話


【お詫び】今週は8月にして早くも1年を振り返って総括するとお伝えしていましたが、急ぎかといえば全然急ぎでもないし何ならあと5ヶ月くらいは余裕があるので、急遽予定を変更してお送りします。ご了承ください。


それは先日ふと小さな、それでいてかなり根本的な疑問を抱いたことに始まります。

お盆といえば祖先の霊を祀り迎える行事であり時期ですが、ここで言うご先祖とは一体誰で、どの家に帰ることになっているのだろう?

子孫のなかった人の霊はこの時期何してんだろうな、とは昔から僕がぼんやり考えることのひとつです。囲碁でも打つとか、Vtuberの配信でスパチャに興じるとか、でもそんなん別にお盆じゃなくてもいいしな、そうするとお盆も単なるカレンダーの一部みたいな認識になるんかな、とかまあそんなかんじでいつものようにせっせと貴重な人生を浪費していたわけですね。

しかしふと、もし子や孫がいる霊の立場だったら、と考えたときに思考が停止したのです。待てよ、下界に帰省って、どこに帰りゃいいんだ?

一番わかりやすいのは、子がひとりで、つい最近に霊の仲間入りをした場合です。これはもうどう考えても、帰ると言ったら子の家に決まっています。他に寄るところもないし、疑問の余地はありません。

では子が5人いる場合はどうだろう?当然、全員に会いに行ってほしいよなと思うけど、ここで問題になるのが、いわゆる精霊馬です。きゅうりと茄子で作る、ご先祖のための乗り物ですね。

聞き知るところによればきゅうりは馬、茄子は牛を表していると言います。もちろん、早く来て、ゆっくり帰ってね、という小粋な気配りです。

しかし早く来るための馬はともかく、ゆっくり帰るための牛は、それ以外に寄るところがないことを意味しています。どう考えても、寄る家がひとつである前提です。あちこち寄るなら牛になど乗っている暇はありません。ですよね?

にもかかわらず茄子の牛がきゅうりの馬とセットで置かれるのだから、これはもう明らかに、下界で寄ることができるのはひとつの家のみという暗黙の前提があることになります。僕が5人の子をもつ霊だったら、そんなの困るとしか言いようがありません。

家制度の時代ならわかります。継がれる家はひとつしかないし、それを継ぐ人が確実にいたのだから、ご先祖が帰るとなったら当然その家で、もし兄弟姉妹がいるならそこにみんな集合する。単純明快です。僕がその時代の霊ならぜんぜん悩まない。

しかしそれはせいぜい80年くらい前までの話です。何なら祖父母の暮らしていた家がすでにないことも、今では往々にしてある。うちもそうです。その上で子が5人いるなら、じゃあ長男の家に行くか、とはなりません。なぜならそう選択するための根拠がとっくに消え失せているからです。

ではこの時代に複数の子孫を持つ霊となった僕は下界のどこへいけば良いのか?

また、ここまでは話をすごくシンプルにしていますが、家制度の存在しない現在、仮に僕が玄孫を持つ祖先でかつ霊だった場合、さらに帰省先がわからなくなります。血のつながりがある家をすべて訪れるにしてもかなりの数になるでしょう。そしてそれ以前に、そもそも迎える側が曽祖父母以前の祖先まで想定していない可能性のほうがはるかに高い。僕自身は曽祖母までは認識しているけれど、その血縁者は自分につながる分と、従姉妹につながる分しか知りません。でも間違いなくもっと大勢いるはずだし、高祖父母になると何をか言わんやです。さらにその祖先となったら父系と母系を合わせてその数はかなりのものになります。ちょっとしたフェス並みです。1、2本のきゅうりと茄子で済むわけがない。

そうなると玄関先に置かれた数本のきゅうり馬は、大量にいる祖先の霊の間で奪い合いになるでしょう。さながらビーチフラッグの様相を呈してきます。霊なんだから骨も肉もないのに文字どおり骨肉の争いです。血のつながりのある家のうち、見過ごされがちな家に目星をつけておく、といった戦略も必要になってきます。また畑を持っている家は用意するきゅうりも新鮮で質が高く、それが馬としての性能に反映されているはずです。競争率の高いきゅうり馬をあえて狙うか、萎びていても確実に奪えるきゅうり馬を狙うか、祖先としての経験が問われるに違いありません。中にはたとえば僕なんかのように、べつに牛でもいいやと茄子に乗ってそのまま旅に出てしまう祖先もいるでしょう。

さらにここで俄然意味を帯びてくるのが、お盆にすることがなかったはずの、子孫を持たない霊のみなさんです。今年は一体どの霊が最も優れたきゅうり馬を手にするのか、これはもう間違いなく賭けの対象になります。もはやお盆は子孫の有無にかかわらずすべての霊が熱狂できる一大イベントです。一斉に下界へと向かうご先祖さまたちの動きを、固唾を飲んで見守ります。盛り上げるために実況を買って出る霊がいてもおかしくありません。刻一刻と変動するオッズに片時も目が離せない、それが天上におけるお盆のありかたであってほしい

そんなことを考えながら糠漬けにしたきゅうりをポリポリ食べるのが僕のお盆です。他のどの季節よりもおいしいとおもいます。

0 件のコメント:

コメントを投稿