うるめいわしのサブリナさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. 私事ながら、人生には三度のモテ期があると言いますが、3x年生きてきてはじめてそれっぽいものが訪れました!(といっても薄っすらとした小さな出来事たちなんですけど)わかったことは、一度に来ても意味がないということです。難しいですね。そんなわけで、大吾さんのモテ☆エピソードを伺いたいです。
こういう話、大好きです。気がつくとよく目が合うとか、旅行のおみやげがじぶんだけちょっとオシャレだったとか、わりとどうでもいいメールがぽつぽつ届くとか、「僕うるめいわし好きなんですよね…」という何気ないつぶやきとか、想像するだけでゴハンがすすみます。一度に来てもとおっしゃいますが、選択肢が与えられているという時点で十分たのしそうです。できればそのうっすらとしたちいさな出来事たちについて、事細かに根掘り葉掘り聞き出したい。何であれうれしそうに話してくれる話は僕も聞いていてうれしい。
そも、モテとは何ぞや、というのは僕がいまだに1年に1回くらい考えこむ問題のひとつです。今のところ「恋愛感情が見え隠れする好意を贈られること」、もしくは「あわよくば的な期待をほんのり抱かせる何か」、もしくはもっと単純に「ちやほやされること」、という印象でひとまず受け止めてるんだけれど、いまいち判然としません。モテたいと何となくおもうことは今もときどきあるものの、じゃあどうなったらいちばんうれしいかということを具体的に考え始めるといっこうにまとまらないのです。おしりをさわっても怒られないとか、想像以上にどうしようもないところに着地したりして、じぶんでじぶんがイヤになります。べつにおしりがさわりたいわけじゃなくて、いえ許されるものならばそりゃあえて遠慮する理由は何ひとつないですけれども、何というか、心の合鍵をもらうようなイメージですね。
あ、これだこれだ!「1人以上の人から鍵をもらったような気がして、しかもそれが心の合鍵かもしれない状態」だ!そこにあるのはただ確信がもてないまま可能性だけがふわふわと漂っているたよりない心持ちであって、あくまでも想像の余地が残されていることが肝心です。なかには酒池肉林まっしぐらの人もいそうだけれど、みんながみんなそうではないことを踏まえると、これくらいの受け止めかたがモテの塩梅として程好いのではありますまいか。ていうか、単純にうれしくてときめかないですか。こういうの。すくなくとも僕個人がのぞむモテとはこんなかんじだとおもう。
では実際にそういう経験があったかと自身を振り返ってみれば、ちっとも記憶にありません。なぜないんだ。
ガシャーン
(ちゃぶだいをひっくりかえしています)
カチャカチャ
(ちらかった食器を片しています)
関係があるかどうかわからないけれど、「ダイゴくんみたいな人を好きになればよかった」と言われたことなら何度もあります。この一言から何となく察せられるとおり、この状況における僕の立ち位置は「ただの相談相手」です。ふんふん、なるほど、うーむ…的な相づちを打ちながら切ない心情の吐露に耳をかたむけているわけですね。そしてこれはもう経験上イヤというくらいはっきりしていますが、この人がダイゴくんを好きになる可能性はまずありません。なぜと言われても困るけど、ないことだけははっきりしています。僕としてもパターンのひとつなのでしまいには「それよく言われる」とひんやり返すようになりました。好意ではあるだろうけれどむしろ信用にちかいこの距離感がモテに準ずるものなのだとすれば、もう十分なので金輪際いりませんとそっぽを向きたいくらいです。いろいろおもいだしてたらチャーリーブラウンみたいなため息が出た。
しかしモテたことありませんの一言で済ませてしまうのは僕としてもおもしろくないし、なんとかそれっぽいものを記憶から引きずり出すか、でなければどうせわかりっこないしいっそ捏造したいですよね。うーむ。忘れてるだけで何かしらあるのではないか。あってほしい。いや、あるはずだ!人生に3度あるというモテ期が、ぜんぶ晩年に集中しても困るじゃないか!
(30分経過)
ふと、大昔にあったある出来事をおもいだしました。ある夜、女の子から電話がかかってきたのです。
リンリン
カチャ
「はいこばやしです」
「……」
「もしもし」
「……」
「もしもし?」
「……」
「もしもーし」
「……」
「……?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……………い…」(小声)
「い?」
「……言えない…」(小声)
プツリ
ツー
ツー
ツー
とまあこんなことが実際にあって、当時はすごい悶々とさせられました。けっきょく電話をかけてきた相手が誰なのかわからないまま、後日談もべつにありません。ただこれだけの話です。ひょっとして告白でもするつもりで、でもいざとなったら勇気が出なくて!みたいなことかと今日まで都合よく(じつに都合よく)解釈したりしてましたが、こうして冷静に書き出してみると、告白までは合っているにしても、恋ではなくて僕の出生にまつわる重大な秘密の暴露とか、暗殺計画が水面下で進行しているとか、身に覚えのない罪をなすりつけたことへの謝罪とか、いちおう名乗りはしたつもりだけどふつうに間違い電話だったとか、可能性だけ考えたらいくらでもあって、むしろ怖い話に近いことがよくわかりました。なんだよもう!てっきり恋にちなんだできごとだとおもってたよ!
そして思い出したらまた気になってくるじゃないですか。あれはいったい誰だったのか?そしてけっきょく何が言いたかったのか?そもそも相手は僕でまちがってなかったのか?
A. でも恋だとおもえばそうおもえなくもないでしょう?
そういえばほんの一時期だけ茶髪とコンタクトにスーツ着用で「場末のホストみたい」と身もふたもない言われようだったことならありますけど。ホストって場末にもいるの?
*
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その164につづく!
「心の合い鍵」という表現、とてもしっくりきました。
返信削除ちょっと前に絶対に合ってない鍵でムリヤリ押し入られそうになったことがありまして(ストーカーじゃないかと真剣に気を揉んだのですが)
そういうのを私は「悪性のモテ期」と呼ぶことにしています。
うれしくなくちゃモテ期じゃないもん!
> グリチルリチンさん
返信削除「うれしくなくちゃモテ期じゃない」というのは
これもひとつの真理ですね、たしかに!
そういえば子どものころ、
ちがうドアの鍵をむりやり差し込んだ上に
馬鹿力で鍵をねじ曲げたことがあります。
心とかそういう、比喩じゃなくて、まじで。