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2007年12月31日月曜日
ザ・フラワーズのシュークリーム問題
新宿の横断歩道をてくてくと歩いていたら、目の前で自転車に乗った出前のお兄さんが天ぷらうどんをどんぶりごとガチャンと道に落とすのです。
その数十分後、雑司ヶ谷のあたりをてくてくと歩いていたら目の前でおばちゃんが豆腐を一丁ぺちゃりと道に落とし…とおもったらまたその数時間後には遊びに行った先で姉さんが植木を床に落として、水びたしときたものだ。
どれも僕から3メートルくらいはなれたところで起きたできごとなので、関係ないといえばそれはもうまったく関係ないのだけれど、じぶんがちいさな不運をポケットからポロポロまきちらしながら歩いているみたいでどうも気になる。
そのあと「ガン」と地面に叩きつけられたドラム缶みたいな音が遠くから響いてきてもう、どこのどなたか存じませんがなんだかすみません。
*
パンケーキやナン、今川焼やベビーカステラといった粉モノを愛する荒くれ集団、ザ・フラワーズ(the Flours)ですが、年の瀬も押し迫るいまごろになって代表をつとめるムール貝博士からメンバーに緊急召集がかかり、非常にあわただしい動きを見せています。
議題:シュークリームは粉モノや否や
「粉モノでいんじゃないすか」
「でもこれたしかに考えたことなかった」
「クッション性が足らんのだ」
「クッション性?」
「ふかふかじゃないということですね」
「博士」
「議長と呼べ」
「すみません。まだ朋子ちゃんきてないですけど」
「誰だ?」
「博士こないだパンケーキもらったじゃないですか」
「知らん」
「シロップで笑顔が描いてあったやつですよ」
「おもいだした!朋子ちゃんはどうした」
「こっちが訊きたい」
「呼びなさい」
「大晦日ですよ」
「だから何だ?」
「来るわけないでしょう」
「君ら来てるじゃないか」
「そんなこと言うなら帰りますよ」
「馬鹿を言うな。フラワーズの存続にかかわる大問題だぞ!」
「あっピス田さんビアードパパ食ってる」
「好きなんだよね」
「よこせ!」
「博士も好きなんだ」
「じゃもういいじゃないすか粉モノで」
「それとこれとは話が別だ」
「いやほぼいっしょですよ」
「パンケーキとシュークリームを同じ俎上に並べるのか?」
「そうですよ」
「シュークリームをほおばりながら小麦粉を感じることがあるか?」
「あんまりないですね」
「ホラみろ!」
「でも博士、クリームも小麦粉ですよ」
「なんだと?」
「カスタードクリームも小麦粉です」
「あ、そしたらグラタンはどうなの」
「ピス田さん口のまわりクリームだらけですよ」
「グラタンは甘くない」
「そんなこと言い出したらうどんもパスタも粉モノだよ」
「それフラワーズ決議5で妥協したでしょう」
「つまり甘くなくちゃダメなんだ」
「パイはケーキに準ずるんだよね?」
「フラワーズ決議37だ」
「しかしカスタードクリームも小麦粉というのは盲点だな」
「ほとんど丸ごと小麦粉ってことだ」
「それでいてとろけるような甘さをもち…」
「ケーキひとつよりもはるかにお値打ち」
「よろしい。ではこのへんで採択をとろう」
「シュークリームは粉モノや否や」
「賛成3、反対0、棄権1で粉モノに認定する」
「棄権1?」
「だれ?棄権したの」
*
さて、紳士淑女の皆様方にはお名残惜しゅうございますが、今年はこれにて閉幕です。ぶりんとして艶のある、よい月が出ておりますね。ここ2日で乾いては濡れ、乾いては濡れをくりかえしたみじめな洗濯物も、明日にはからりと乾くことでしょう。
間に合ってよかったと、しみじみおもいます。思いもかけないよろこびを手にして、あたらしい世界の広がりをちょっとだけ目にすることができたのも、みんなあなたのおかげです。格別の愛顧とはまさにこれをさすのだと、今さらながら胸の奥深くに染み入るものがありました。
ありがとう。
ふつつか極まりない男ではあるけれど、明日からもよろしくおねがいします。
ときどきここを訪れては息災を確認してくれるすべてのあなたに、表面張力ぎりぎりの愛をこめて。
*
あとごくごく個人的な私信をひとつ。
ふくいしさん(ずっとそう呼んでいたので結婚された今もそう呼んでしまうのです)、いつでも会える距離にいながら、ちっとも会えない不思議な距離感のために今まで言いそびれてしまっていたけれど、いつもさりげなく支えてくれてどうもありがとう。古川さんでさえためらいを感じた「詩人の刻印」というタイトルを通すことができたのも、ふくいしさんがうなずいてくれたからこそです(彼女はまた、プロデューサーである古川耕がもっとも信頼する書き手のひとりでもあります)。
今の僕にとって、あんころもちみたいな闇のうしろにタフな知性を隠し持つふくいしさんの太鼓判ほど、心強いものは他にありません。ありがとう。ありがとう。
*
よいお年を!
あと来年は駐禁を切られませんように!
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