2023年3月10日金曜日

鮮やかな色彩と共に命を吹きこまれた化石のような


よくぞはるばるここに辿り着きなさった、と時々は言わねばなりますまい。

ところ狭しと生い茂る背の高い雑草をかき分け、山と積まれた古タイヤとか洗濯機、座椅子なんかの粗大ゴミを乗り越えた先にある朽ちかけた扉はペンキが剥がれ、蝶番も外れて立てかけた板も同然の有様、これを蹴り破るも薄暗くて蜘蛛の巣を払いながらでは足を踏み入れるのにも勇気がいるけれども、そうでもしなければ辿り着くはずもない一部屋が、つまりここです。

よくぞはるばる……と目頭を抑えながらやはり言わねばなりますまい。

浜辺に打ち上げられた栄螺の貝殻のようにポツンと異彩を放ち、たまたま散歩あそばしていた貴族の令嬢の目に留まり、その白魚のような指で拾われたのちは末永く愛でられたと今もまことしやかに語り継がれるアグロー案内 VOL.4についてはおおむね語り尽くした気もしますが、最後に異彩中の異彩ともいうべき「すきまから滴る夜に/underground astrologia」についてすこし触れておきましょう。



なぜ異彩かと言えばまずその由来が書いた当人にもよくわかっていないからです。いつ、そしてなぜこれが書かれたのか、今もってさっぱり思い出せません。ただテキストだけがハードディスクにぽつねんと残されており、おそらくこう読まれたに違いないという推測のもとに再現しています。化石から復元された恐竜みたいな一遍です。

ざっくり復元図を描いたのが僕だとしたら、化石からDNAを抽出し、鮮やかな色彩と共に新たな生命として蘇らせた、ジュラシックパークさながらのマッドサイエンティストがタケウチカズタケです。ここには御大の卓越したセンスとその超絶技巧が惜しみなくぶちこまれています。

何しろこれ、トラックが後なのです。トラックに合わせてリーディングをしたわけではない。というか何ならリーディングをどこにどう当てるかを決めたのも僕ではないのです。かなりハードな音韻がこう乗るとは正直思ってもみなかったし、それでいてこの乗せ方こそが全体のファンク度をより高めているあたり、おそるべしと感嘆するほかありません。

肝心のテキストとリーディングがそのクオリティに見合っているのかすこし心もとない気もするけれど、じつはとんでもない音楽的スキルに基づいて完成した作品であることを念頭において、ぜひ聴き返してみてください。

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