2022年9月9日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その382


アグロー案内 VOL.2の配信からぶじ2週間がすぎ、ふと、そういえば小数点花手鑑のリリース直後はどんなだったかなあとブログを遡ってみたら、CDショップ行脚であちこちに大きなPOPが設置されてたとか、ラジオでインストアライブに臨んだとか、インストアライブでフロアが埋まってえらいことになったとか、サイン会(!)をしましたとかまるでいっぱしのミュージシャンのようでひっくり返りました。

そうだったっけ……?

しかしまあ、今となっては特にそんなこともなく、これ以上お話しできそうなことも思い当たらないし、と困り果てていたところにちょうどタイミング良く質問をいただいたので、またいつもの調子に戻りましょう。アグロー案内 VOL.3も今年中にはやってくるはずなので気長にお待ちあそばせ!


ドリームズ・パス・スルーさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 最近たまに見る表現で「あらためて驚嘆」という表現がありますが、この言葉が使われるであろう場面が想像できず、すごく居心地が悪いです。もし「あらためて驚嘆」を使うとすればどのような場面で使いますか?


かれこれふた月ぶりの質問箱としては、なかなか向き合い甲斐のある質問です。実際に目にしているのだからそもそも絵に描いたような例文がそこにあるわけだし、それも複数回見ている以上もはや疑問の余地などなさそうに思われるところをあえて真剣に考えてみる、これこそパンドラ的質問箱のレゾンデートルであり、面目躍如と申せましょう。

僕自身はまったく見かけた記憶がなかったのでググってみたところ、たしかにギョッとするほどの検索結果が表示されたことから、今ではある種の定型、慣用句として定着しつつあるのかもしれません。半世紀くらい前にはほとんど誰も使っていなかったかもしれないことを考えると、ちょっとワクワクさせられるものがあります。誰かが最初に用いて、使い勝手の良さから広まっていったのなら、日本における言語的ミームのひとつと言ってよさそうです。

とはいえ個人的にはそれほどの不思議はありません。おもうにこれがミームとして広まるのは、「やっぱりすごい」よりも「知っているはずなのに驚いてしまう」のほうが対象への賛辞として上位に感じられるからです。料理において本来これだけで事足りる賛辞であったはずの「うまい」「おいしい」があまりに使い古されてピンと来なくなった結果、さらに上位の表現として「箸が止まらない」とか「無限に食べられる」が生み出されたのと似たようなことですね。

となるとこれは結局のところ「すごい」とか「やばい」をそれっぽく言い換えたにすぎません。多くの人が共有しているような事柄であれば、何にでも適用できます。最終的には「だよね」とか「わかる」に着地すればいいわけだから、「カップヌードルやっぱ美味い」も「カップヌードルの美味さにあらためて驚嘆した」に置き換えられるし、そもそも既知とされる事実を刺激する分、より多くの同意を得られるはずです。

僕自身が「あらためて驚嘆」した例を挙げるなら、大人になってから全速力で走ったときですね。それまで長いことぜんぜんまともに走っていなかったから、歩くより走るほうが速いとわかっていても、その速さに本気で驚いた記憶があります。とっくに知っているつもりでいたわけだから、それこそあらためて驚嘆というほかありません。

したがってこれをそれっぽくまとめると、こうなります。


A. 「人が全力で走るときの速さにあらためて驚嘆した」




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その383につづく! 

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