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2019年12月31日火曜日
ゼロまでの距離と無限小のきわめて前向きな話
振り返るとわたくしも今年はいろいろございました。
KBDG総選挙における圧倒的得票数での1位獲得、いちばんいい写真を詰め合わせたベストアルバムのミリオン達成、ヨーロッパからアトランティスまで20数カ国を股にかけるワールドツアー、ローマで出会った某国王妃との駆け落ち、長年の悲願だったダーウィン賞の受賞、宿敵サノスに対する大逆転劇、心やさしい反社会的勢力として桜をのんびり眺めたり、大型シュレッダーの予約がとれなかったり、台所のパイプが詰まって水があふれたり、その他もろもろ数え上げたらきりがありません。
しかし何と言っても僕自身にとって最大の驚きだったのは、このブログが1年を通して都合9回しか更新されなかったことでしょう。しかもそのうち2回は12月末という体たらくです。さて今年は何があったかな……とブログを遡ったら早々に去年の12月31日に辿り着いて呆気にとられます。ここでわざわざ改まって1年の総括をするよりブログを遡るほうがどう考えても早い。僕が当の僕でなければ「やる気あんのか」と締め上げてやりたい気持ちでいっぱいです。
そうなると1年前の今日にいったい何を書いていたのか気になるのでおそるおそる読み進めてみたらこれがあなた、今しがたぶつくさ述べたこととほぼ同じことしか書いてありません。今年の倍以上更新されていたはずなのに、これ以上の下はもうないとでも言いたげに胸を張って絶望しています。飲んでいたお茶を吹き出して「まったく同じじゃねえか」と叫ばざるを得ない。
下には下がある。それが去年の絶望を踏まえた今年の結論です。去年はこのままだとブログの更新がマイナスになるとか可愛らしい危惧を抱いていましたが、1年たってみればそう簡単にマイナスにはならないとはっきりわかります。ゼロ地点すら遥かに遠い。
来年はゼロまでの距離がさらに半分に縮まったとしましょう。当然再来年はその半分です。その次の年はさらに半分になります。これを繰り返してご覧なさい、年々確実にゼロへと近づきはしますが、しかし決してゼロにはならないのです。
打って変わって楽観的なその事実に辿り着いただけでも今年1年、歩んだ甲斐はあったと申せましょう。来年もゼロではない。きわめて前向きじゃないですか?
とはいえ、人生の節目ともなりそうな大きな出来事もありました。ミス・スパンコールの古書店アルスクモノイの開店と、最後の最後で至近距離にいるはずの僕ものけぞった安田タイル工業京都本社の上棟式です。
とりわけアルスクモノイはオープンにこぎつけるまで本当にいろいろあったので、こうしてぶじ年を越せるありがたさをしみじみと噛みしめています。ついでに落成した安田タイル工業東京支社を訪ねてくれたみなさま本当にありがとう。その中には今年も相伴に与ったカズタケさん、純平さんとのSoloSoloSoloTOUR@南船場グッシンに来てくれた方もいて、感無量です。ライブもやるとなるといつも体がこわばって最後まで抵抗を試みるけれど、終わってみるといつもやってよかったとおもいます。一見遠く離れたちいさな点と点が、こうして結ばれることもあるならなおさらです。開演せずに終演だけがあればいいのにといつもおもう。
そういえば名古屋のときは小林大吾をLINEスタンプから知り、巡り巡ってとうとうライブにまで足を運んでくれて、「今日はCDぜんぶ買いにきました!」と最大級の好意と賛辞をいただいたのに、僕が1枚も持っていかなかったのでどうにもならなかった甘く苦い一幕もありました。まことに面目ありません。僕が当の僕でなければ「やる気あんのか」と締め上げてやりたい気持ちでいっぱいです。
来年はようやくすこしずつ温まってきたアルスクモノイで、何かできたらいいなとおもいます。周りを気にせずドカンと音を出せるような環境でもないので、できそうなことはおそらく限られていますが、でもよい空間なのはたしかだし、何かこう、共有できる時間を設けたい。というのが当面の目標です(と店主も申しております)。あとふつうにカウンターでみんなの話をききたいので、よかったら日々のつれづれをお話しにいらしてね。僕の店じゃないですけど。
年賀状キャンペーンへのご応募もありがとう。今年はいつになくいっぱい書きました。何をしても「いや、それじゃない」と言われそうなことばかりでそれを改める気配もないけれど、できれば来年もこんなかんじでひとつグラグラと、心細い綱渡りにお付き合いくださいませ。
よいお年を!
2019年12月25日水曜日
安田タイル工業史上最大の衝撃で閉じる2019
2019年は安田タイル工業にとってまさしく躍進の1年であったと申せましょう。
長年温めていたら火が消えたことにも気づかず冷めるにまかせていたタイル月報の発行、京都市営地下鉄駅構内におけるその大々的な掲示、
そして7月号のまま強引に年の瀬まで押し切ったかとおもいきや、つい最近になって専務が交通局方面とのやりとりを水面下で継続していたことが発覚、「次はいつ頃になりますでしょうか」「1月初頭です」と主任そっちのけで確約していて「おい」としか口のはさみようがないのですが、何と言っても最大のニュースは東京支社の落成です。
本社の所在地も定かではないのに支社が先に落成してしまうあたり、とらえどころのないタイル精神をみごとに体現した成果であったと社員一同じーんと感極まるものがありました。会社見学に訪れた人々が支社ビルを手のひらに乗せてぱちりと写真に収める夢のような光景を、生きているうちに拝めるなんてまったく冥利の一言に尽きます。
もう言うことはありません。あとはかつてないほど活発な動きを見せたこの1年を、ゆっくり温泉にでも浸かってしみじみ振り返るだけです。そうおもっていたのに、まさか最後の最後で過去最大級の衝撃が待ち受けていようとは……
世界に向けて遠吠えを!
あるかなきかの顕微鏡的零細企業、もしくは世界のミスリーディングカンパニー、安田タイル工業の年末に何かパーッとやるやつが今年も帰ってきた!2018年12月以来となる今回も、専務と社員、総勢2名の大所帯でくりだします。
※これまでの年末興行については以下をご参照ください。
→2010年
→2011年
→2013年
→2014年
→2015年
→2016年
→2017年
→2018年 前編
→2018年 後編
朝5時
いきなり京都
大所帯でくりだすと言いながら、この時点でくりだしたのは主任だけです。安田タイル工業の本社所在地ということになっている京都になぜ主任が赴いたのか……じつは専務に「なるべく小汚い格好で来い」と言われただけでなんだかよくわからないまま来たのです。旅に出るのではないのか……?
「到着時刻に合わせて出迎えてやるから大船に乗ったつもりでいろ」と前夜に頼もしいことを言っていた専務を待つこと30分……
専務登場
しかし朝5時半から行列する後方のマクドナルドのほうが気になって専務のいい笑顔が目に入りません。小汚い格好で来いと言った本人がそこそこ小綺麗なのも忌々しい。
「大船に乗るどころかいかだで漂流ってかんじでしたけど」
「だから言っただろう」
「こっちのせりふだよ!」
「大船に乗ったつもりでと言ったはずだぞ」
「あっ夢想しろってことですか」
「そうだ」
「はっはっは」
「はっはっは」
後頭部にできた大きなコブをさする専務共々、夜明け前の京都を歩き出す安田タイル工業の面々。
……とおもうそばからまた行列に出くわします。
「これは……」
「ラーメン屋だな」
「ラーメン屋に朝の夜明け前から行列!?」
「開店が6時なんだ」
なぜ6時なのか、なぜ並ぶのか、そしてなぜ朝っぱらからラーメンなのか、一から十までさっぱりわからず、到着早々にカルチャーショックを受けて困惑する主任。この時点で主任の京都に対する認識は「夜明け前からマックとかラーメン屋に行列する土地である」に上書きされています。
さらにてくてくと歩みを進め
着いたのは
京都の名物銭湯です。
「ここで汗を流していこう」
「わーい気が利く!」
長旅の疲れを、と言ってもそれは主任ひとりの話ですがともあれ癒してふたたび出発する安田タイル工業の面々。
「次は朝食だ」
「なんかめっちゃアテンドされてる」
「招いたんだから当然だ」
「そういえばなんで今回は」
「ついたぞ」
戸惑いを隠せない主任
「インスタ映えするだろ」
「僕インスタやってないですけど」
とはいえせっかくなのでとてもおいしいおしゃれな朝食を心ゆくまで堪能する主任。なんとなく釈然としない一抹の何かがないわけではないのですが、あんまり考えすぎるのもよくありません。
きりりと澄んだ空気と穏やかな青空の下、てくてく歩いて鴨川をわたります。
着いたのは趣きある1軒の、それはそれは古いアパートです。
「なんかいいかんじですね」
「ここですこし休んでいこう」
「部屋もすてきだ!」
「最悪ここが宿になる」
「え?宿?」
「宿だ」
「最悪って?」
「ギブアップしたらということだ」
陽光さしこむ古い一室のやわらかな空気につつまれて、明らかに穏やかでない一言が主任の脳にぷすりと刺さります。口ぶりからして専務の住居でないことも確かです。しかしあんまり考えすぎるのもよくありません。
さっそく寝る専務
「おい起きろ」
「ムニャリ」
「昼飯にいくぞ」
「あっもうお昼ですか」
「さわやかより美味いハンバーグをみつけたんだ」
さわやかというのはもちろん、静岡県民の心のふるさとと言っても過言ではないハンバーグレストランのことです。安田タイル工業においてハンバーグは常にこのさわやかが基準になっています。ただし基準と言っても最高峰はつねにさわやかであり、「さわやかより美味い」というのはあくまで「そう言ってしまいたくなるくらい美味い」という意味であって、本当にさわやかを超えるわけではありません。どれだけ美味かろうと頂点には永久欠番的な立ち位置でさわやかが鎮座しています。そんなわれわれが静岡県民であったことなどかつて一度もないのだから、考えてみると不思議なことです。
思い出したように「あっ」となる安田タイル工業の面々
気がつくと日も暮れて、というか撮ってあった写真がいきなり日暮れになっていたので日も暮れて、また移動を始めます。今日はたのしい思いしかしていないので、最後の晩餐を終えた死刑囚みたいなきもちがふと頭をもたげますが、あんまり考えすぎるのもよくありません。
「そうだ食料を買っていこう」
「食料?」
「自販機もないからな」
「自販機もない?」
「おい心配するな、これから行くのは楽園だ」
「いま自販機もないって言ったばかりですよ」
「なくても別にいいだろう」
「食料も自販機もない楽園……」
「この日のためにずっと準備してたんだぞ」
そう言われて初めて、主任の心にやさしい火が灯ります。「この日のために準備していた」というのは相手が不倶戴天の敵でないかぎり、100%善意の表れです。なんならサプライズと言い換えてもいいでしょう。ミニスカートのサンタさんがいっぱいいて盛大なクラッカー音とともに「メリークリスマス!」とかまず絶対になさそうにおもわれるけれども、そこはそれ、常に人の裏の裏の裏をかいてどっちが表だかわからなくなる人生を脇目も振らずにのしのしと歩んできた専務のことです。「うおおおおおまじで楽園きた!!!」も決してあり得ない話ではないと考えられなくはないと言い切れないこともないような気がしてきます。
そうして着いたのは……
山に囲まれて深閑とした物音ひとつない無人駅です。
言葉もない主任
バーン!
「何も見えやしねえ」
「そうキレるな」
「ここ以外のどこでキレろというんですか」
「電気がないんだ」
「あっなんかある」
「ふふふふ」
「怖い!」
「怖くない!」
「だって廃屋が」
「どこが廃屋だ」
「どっからどう見たって廃屋ですよ!」
「安田タイル工業の本社、その社屋だぞ!」
……え?
「いま何て言いました?」
「安田タイル工業の本社ビルだ」
「専務が建てたんですか?」
「当然だ、よくみろ!」
「どっからどう見たって廃屋ですよ!」
「よくみろ、木材が新品だろうが!」
「あっ」
「メルカリでただでもらった家具を柱にしてるんだぞ!」
「ホントだ……」
「そんな廃屋があってたまるか」
「そんな新築も困りますよ!」
「屋根をみてみろ」
「?……ガラス戸?」
「星空がきれいにみえるとおもってガラス戸を屋根にしたんだ」
「でもトタンでふさがれてますよ」
「うむ……戸と戸の間から雨が滝のように漏れて諦めた」
生々しすぎる証言の数々から、これが廃屋でなく、本当に弊社の専務がゼロから建築したものらしいことが戦慄とともにいよいよはっきりしてきます。
ここで改めて釘を刺しておきましょう。弊社の支社ビルがある古書店アルスクモノイは、安田タイル工業が関わっているというただ一点のみのためにその実在を疑われている、というか実際お店で「ホラだとおもってました」と言われたこともあるくらいですが、もちろん新宿区西五軒町に実在します。
同じように、今している、そしてこれからする話も、すべて本当です。別に本当じゃなくてもたのしければいいじゃないかと言いたいきもちもあるのですが、残念ながら本当です。
話を戻しましょう。
「あれ?ちょっと待ってください」
「なんだ」
「これひょっとして不法侵入じゃないですか?」
「バカなこと言うな」
「だってこの土地、誰のですか」
「うちのに決まってるだろう」
「持ってたんですか?」
「いや、買った」
「え?」
「買ったんだ、安かったからな」
専務が
土地を
買いました
「ええええええええ」
「いい買い物をした」
「えっだって安いったって……いくらしたんですか」
「××××××××」
「めちゃめちゃ安い!」
「うむ、しかしそれにはわけがあってだな」
「そりゃそうですよ」
「うしろをみろ」
「まっくらで何もみえません」
「フラッシュを焚くんだ」
「あっ」
「撮れたか」
「なんか心霊写真みたいのが撮れました」
「なんだと」
「ほら、もう一枚には写ってないでしょ」
「まあいい、下をよくみろ」
「伐採されたっぽい木の山が……」
「これが本当に山のようにある」
「そういえば足下が土じゃなくて木だなとはおもってました」
「これを自力で処理するという条件で安くしてもらった」
「これを」
「うむ」
「自力で」
「うむ」
「処理」
「うむ」
バッカじゃねえの、と誰もが心に浮かべる一言をすんでのところで飲みこみ、「よっ大統領!」と返す主任。返しとしてはなんとなく場違いな気もしますが、こういう場合どう返すのが適切だったのか今もってわからないので仕方ありません。
「そんなわけでだな」
「そんなもこんなもないですけど」
「今夜は夜通しこの木々を燃やす」
「一晩や二晩で燃やし尽くせる量じゃないですよ!」
「燃やせるだけ燃やすんだ」
すべての疑問が氷解した今、どのみち明かりもなければ暖もないので、あとは火を焚くほかありません。そういえばずいぶん前に「焚き火は得意だったな?」「はあ、まあ好きですけど」みたいなやりとりを交わしたかすかな記憶が今ごろぼんやり思い返されます。そうかあのときから布石を打たれていたのか……
あきらめて火を熾し始める主任
18:00
19:00
20:00
21:00
それではここで、安田タイル工業が世界に向けてふと思い出したように放つ渾身のささやきをフルボリュームでお聴きください。
22:00
23:00
24:00
01:00
このあたりで専務が不意に「せっかくだから山尾三省の『火を焚きなさい』を朗読しよう」と言い出します。たしかにそんな機会があるとすればこの時をおいて他にありません。せっかくなのでヘッドフォンを装着し、フルボリュームでお聴きください。
02:00
03:00
04:00
気づけば焚き火というより火災の様相を呈していますが、これは火をキープしつづける主任とちがって特にすることのない専務があちこちから拾ってきた不燃ゴミとしての鏡を暇つぶしに並べたからです。
05:00
ここまで休みなくひたすら木々を火にくべてきたものの、5:30をすぎたあたりで主任がいびきをかき始めたと後に専務が語ります。正直まだ全体の1/30も燃やせていませんが、どうやら限界がきたようです。
♪パ〜パラララ〜(エンディングテーマ)
飽くなき探究心と情熱を胸に、安田タイル工業は今後も逆風に向かって力強く邁進してまいります。ご期待ください。
安田タイル工業プレゼンツ「安田タイル工業本社ビル上棟式」 終わり
おまけ:昼間みた安田タイル工業京都本社所在地
本社ビル近影
焚き火のあと
よく見ると写真右上、屋根の上に座卓のようなものが見えます。
「あれ、なんか乗ってますよ」
「おっよく気づいたな」
「座卓みたいですけど」
「座卓だからな」
「なんで?」
「あそこがわが社の応接室だ」
安田タイル工業本社の応接室
何かを嬉しそうに説明する専務
安田タイル工業ではみなさまからの温かいおたより、工具、重機をお待ちしております。