2015年12月17日木曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その237


野ざらしのアザラシさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q: 就職活動を間近に控えた大学三年生です。半月ほど前に、音楽を聴くのに飽き足らずついついMPCを買ってしまいました。説明書を読みながら日々使い方を楽しく学んでいるのですが、音楽的素養が皆無だったために曲を完成する頃には就職活動もけりがついていそうです。そこでMPC使用者の一人であるダイゴさんに質問があります。現在の曲を作れる段階に至るまでに、どのような苦労がありましたか。


MPC、いいですね。僕もこのマシンがウチに来るまでは単なる音楽好きで素養もへったくれもなかったし(というか率直に言ってそういうのは今もないです)、制作のためというよりは「それっぽいことをしてみたい」くらいのきもちだったので、パッドを叩いて「わっ音が出る!」というただそれだけのことに小躍りしたものです。もともとは完全に玩具として手に入れたものだったのですね。

だから当時はホントに、キックとスネアを入れてドンタカ叩いて「うふふ、ドラムっぽい!」と遊んでいただけでした。いっちょやるか!と腕まくりをしたわけでもない。そのうちなんだかよくわからないままビートっぽいループができたので、まだプロデューサーではなかった現プロデューサーにドキドキしながら聴いてもらったことを今もよくおぼえています。そうそう、ループ!2小節くらい組んでループさせるのがとにかく楽しかった。じっさい今も僕はワンループ一辺倒だし、そんな状態からまさか「じゃあアルバムつくろうか」という話になって最終的に4枚もこしらえるなんて、いまだに冗談のような印象が拭えずにいるくらいです。

苦労と言えそうな苦労はとくにありません。というのも、僕の場合は初めから「最優先は言葉である」「したがってムリに背伸びをしないということがひとつのルールとして決まっていたからです。だからMPCの機能の7割くらいは15年ちかくたつ今もよくわかってないし、何に使うのか知らないボタンがいっぱいあります。僕はもともと多くの短所を補うよりも少ない長所を伸ばそうとする一点突破型なので、何はなくともとにかくじぶんが「これは向いてる」と感じる部分を磨きつづけることにしたのですね。例を挙げるなら、サンプルを切り刻んで組み替えることや音の鳴り、そして先のワンループがそれです。そしてこのスタンスが、あくまで僕と僕の言葉にとってですけれども、結果としてよい方向に作用したとおもいます。ビートメイクそれ自体が目的だったら、また違ったスタンスをとっていたはずです。

だから今でもビートは雑だし、適当です。変わったことは何ひとつしてません。むしろこんなのでリリースしちゃっていいの……?と4枚目になってもハラハラしてました。でも、だからこそいいんだよ!と胸を張れるくらいには少ない長所をキュッキュと磨いてきた甲斐のあるものになっているとおもいます。立派なお屋敷じゃないけど、住まいとしての居心地はそんなにわるくないよね、というかんじ。

というかこれ、「肩書きどうされます?」と訊かれて「えーと、じゃああの、詩人でと答える僕に訊くのはまちがってないですか?


A: しいて言うなら詩人を名乗りながらひとりで全部ビートをつくらなくちゃいけないことそれ自体が最大の苦労です。


就職活動がんばってください。



質問はいまも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その238につづく!

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