渡る世間はウニばかりさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q: 紅白歌合戦を観ながら応募をしているのですが、NHKのアナウンサーでも『きゃりーぱみゅぱみゅ』は言いづらそうでした。大吾さんはいつも淀みなくポエトリーリーディングをなさっていますが、どうやったら『きゃりーぱみゅぱみゅ』をすんなりと言えるようになりますか?
まだ始まっていない紅白歌合戦がなぜここに出てくるのかはさておき、大まじめにお答えするとじつはこれ、コツがあります。かつて小一時間みゅーみゅー言いながらひとり部屋で練習してみたこの僕が言うのだから間違いありません。いやまったく、人生どこで何が役に立つかわからないものです。他にも「覚えてやがれ!」とか「このあばずれ!」みたいな生きてる間に一度は言ってみたいせりふの練習を陰でしてたりするんだけど、役に立つ日はくるだろうか?
言うまでもなくポイントとなるのは「みゅ」です。その前にある「ぱ」が音の連なりとして若干ハードルを高めていることは否めませんが、「みゅ」自体を攻略できればそれほど気になりません。人に見られたらその場で首をくくりたくなるほどハードかつナイーブかつ下手すると黒歴史になりかねない秘密の特訓を経た今しみじみとおもうのは、これが「みゃ」や「みょ」でなくて本当によかった、ということです。いったん乗り越えてしまえば「みゅ」がこの2つよりもはるかに組み伏せやすい発音であることがきっとおわかりになるでしょう。
鍵は「くちびるの形」にあります。言いづらいのは、くちびるが音の求める形になっていないからです。嫌がる人にむりやりキスをせがむような格好で、くちびるを思い切り前に突き出してみましょう。その上で「みゅ」と発音してみてください。きれいな音が意外なほどつるっと出てきませんか?逆にくちびるを引っこめたままでは、ひとつの音として溶け合わずに「み」と「ゆ」をむりやりくっつけたような発音になるはずです。
「みゅ」それ自体がクリアできたら、次はその応用、つまり「他の音との連結」です。「ぱ」という破裂音のために口をまるく開いた状態から、強引にキスをせがむくちびるへとすばやく移行できるよう訓練を重ねましょう。ここでもうひとつちょっとしたポイントを申し添えておくなら、「ぱ」ではなく「みゅ」、というのはつまり「ここまでしてるんだから、恥かかせないでよね」的なくちびるの形を優先することです。むしろ「ぱ」はパセリのようなかるい付け合わせの意識でちょうどいいかもしれません。どうせ誰も見ていないのだからうっかり「ジュテーム」と口走ってしまうくらい熱烈な求愛モードで望むのが早道です。じっさいにこの姿勢で臨んだ僕が言うのだから間違いありません。不惑を間近に控えた大人のありようとしては間違っている可能性がなきにしもあらずですが、それについては誰もが「ぱみゅぱみゅ」と淀みなく発音できるようになったのち、またあらためて審問の機会を設けるということでここはひとつ矛をお収めいただきたい。
ここまでくれば、ゴールはもう目の前です。訓練次第では何かに驚いたようなときでも「わっ」より先に「ぱみゅ」が口を突いて出るでしょう。あきらめずにつづけさえすれば、突き出したくちびるの先で意中の相手とちゅっとなることもあり得ます。さっきからそっちの方面ばかり気にしているように見えますが、あってもなくてもいいようなモチベーションを維持するためにはなりふりかまわない捨て身のスタンスも必要です。臆せずトライしてください。
A: 発音できます、もちろん、あなたにも。
僕としてはこれをお読みくださったみなさまが列島のあちこちで人目を忍びながら、同時多発的に口をとがらせる光景を夢想するだけで、おなかいっぱいです。ひとりでも多くの人が「ぱみゅぱみゅ」とスマートに発音できますように。
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その195につづく!
読みながら思わず口をとがらせてしまいました。
返信削除なぜだか悔しいきもちです。
> はなちゃん
返信削除うむ、そうでしょうとも。
しめしめという他ないですな。