先日ちょっと怖い話を書きましたが、あれはどちらかというと僕がお化けの役回りだったので、今度は僕自身がじっさいに叫び声を上げた怖い話をいたしましょう。
ある日の夜ふけ、近所のコンビニまで井村屋のゆずあずきバー(60円)を買いにぷらぷらと出かけたのです。空は漆黒、星も明るく、肌に吸いつくような湿気があってべつに涼しくもないけれど、代わりにゆるゆると風がそよぎます。どこを切っても夏らしいような、しずかな晩です。
コンビニは住まいからすぐの路地を折れて、しばらく行ったところにあります。同じような距離に3つも4つもあるから、言ってしまえばどれでもよろしい。それでもなんとなく足の向いてしまう一軒があって、この夜はそこに向かっておりました。ぺたぺたとアスファルトをはたくビーチサンダルの規則的な響きも、虫の音にまじればそれなりに風情です。仕事帰りとおもわしき人とすれちがったくらいで、あたりは他に誰もいません。人の気配が消えた道には、それだけでかるい非日常の感があります。
てくてく歩いているうちにふと、頭になにかふれました。ふれたといってもごくかすかで、往来にはみ出た庭木の葉にかするような印象です。歩けば知らず小石を蹴飛ばしもするだろうし、もちろんふだんならいちいち気に留めません。ただあとで思い返してみればこれが先鞭だったのでしょう。
と、いきなりうなじのあたりに得体の知れない多数の刺激が襲いかかりました。得体の知れない、というのはつまり僕からは見えない位置だからで、刺激というのはちくちくするようなざわざわするような、それでいてひとときたりともじっとしていない忙しなさがあるからで、だからえーとつまり、得体の知れない多数の刺激です。そうとしか言いようがありません。小型のエイリアンみたいなイメージが電光石火で脳内のスクリーンにでかでかと映し出されます。
何しろ、うなじです。それでなくとも敏感な部位に、視認できない小さなエイリアンがいると一瞬でも考えてしまったときの恐怖を的確に表すことが果たして誰にできましょう。十中八九虫だろうとは推測できても、セミじゃない、蛾でもない、カナブンでもない、だとしたら何!?ひょっとして虫じゃない?がぶりと噛み付かれて肉片をちぎられたりしたらどうする?噛みちぎられないにしても、毒物を注入されたらどうする?あっちょっと卵とか産みつけてないでしょうね!想像だけが目まぐるしく連鎖して完全にパニックです。やだ、ちくちくする!超動いてる!ぞわぞわする!ギャー!
とまでは叫ばないにしても、「うわわわわ!」とかなり大きな声をだして道ばたにしゃがみこんだのは本当です。もうちょっと理性を失っていたら無意味にごろごろ転げ回っていたかもしれません。客観的に考えても夜中に路上でとつぜん高い声を上げてしゃがみこみ、あちこち体をまさぐっている男がいればそりゃ誰がどう見たって胡乱です。通報されて当然な気もするし、僕だってそんな人をみたらさすがにおののきます。全面的に被害者なのにまた人に不安を与える役回りとはなんだか釈然としない気もしますが、それはまあ言いますまい。過呼吸寸前でうずくまり脂汗をたらしながら悪戦苦闘の末ようやく捕えたその正体は
カマキリでした。
そうわかったときの安堵感と言ったらありません。どこからか来てはっしと髪をつかみ、うなじに降りてくるまでの間、黄緑色をしたスレンダーな生き物が頭のてっぺんでかさこそ動いていたのかとおもうと、そばに誰もいなかったことが却って惜しくもおもわれます。あんがい可愛かったんじゃないかとおもう。
でもすごい怖かったの!まじで!
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それでふと、かれこれだいぶ前のことだけれど、とある仕事で屋外の現場にいたら、同行していた市役所のクボデラさんが突然、先に書いた僕のとまったく同じ反応を示してパニックに陥ったことをおもいだしました。このときの震源地はクボデラさんの作業ズボンです。「うわわわわ!何かいる!左足のとこに何か…痛い痛い痛い!何!何なの!」とそれはもうたいへんな大立ち回りを演じておりました。
「ちょ、うわッ、あの、すみません脱いでもいいですか!」と民家の並ぶ往来でおもむろにズボンを脱ぎ出すクボデラさんを前にしながら、僕らはただ呆気にとられるばかりです。見守ることしかできません。かつてない災難が彼を襲っているらしいのに、そのシュールな光景が本来共有すべき危機感を初詣の甘酒みたいにうすめてしまいます。なんとも形容しがたい空気のなか、柄物のパンツ姿で喘ぎながら彼がズボンの裾から取り出したのは
1本の小枝でした。
そりゃちくちくしますわなあとおもうけど、いまだにあのときどういうリアクションをとるのが正解だったのかわからない。
クボデラさん、お元気ですか。何が何だかわからない刺激に襲われる恐怖、今なら僕にもすごくよくわかります。
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ネコバスマジックリンさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. 好きなドライフルーツはなんですか。(わたしはキウイが好きなんです。)
A. マンゴーですかねえ。
おいおい定番中の定番かよ、つまらねえ野郎だな!と罵られないことを祈ります。キウイも好きです。おいしいのかおいしくないのか判然としなくて、食べると無表情になるのはナツメヤシです。
*
質問はいまも24時間無責任に受け付けています。
dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その174につづく!
半年ぶりにブログを拝読させて頂いております。以前は無職でしたがこのブログのお陰で無事飯の種にありつく事ができました。あずきバーは無事に購入出来ましたでしょうか。私はガツンとみかん派です。
返信削除あずきバーでは何味が好きですか。
わたしは蝶ネクタイの如く、襟元に大きめの蛾をつけて登場した人を見たことがあります。
返信削除虫が苦手なわたしはそれだけで絶叫でしたので、頭部にカマキリなんてついた日には失神するかと。。
つい最近、胸に巨大なかぶと虫(♀)のタックルをくらい、そのまま首元からシャツの中に侵入されたのは、このうえない恐怖でした。
返信削除ぼくの場合、こちらに突っ込んでくるかぶと虫を視認していたのですが、これはこれでものすごい怖い。
> 社会の公僕さん
返信削除おめでとうございます!
このブログが職探しに役立つとはおもいませんでした。
僕もさっそく探しにいこうとおもいます。
あずきバーはそうですね、あずき味が好きです。
> よいよい。さん
蛾ネクタイ!それは怖い!
それでおもいだしたけど、
昔しょくぱんまんのぬいぐるみがウチにあって
なんか鼻が黒いとおもったらゴキブリだったことがありました。
うまくごまかしたつもりだったらしい。
いま考えるとしょくぱんまんのぬいぐるみが
なぜウチにあったのか、そっちのほうが解せないです。
> 赤舌さん
これも怖いですねえ。
オーバーオールだったらそれこそパニックになりそうです。
とくに虫嫌いでなくても抑えられない、あの恐怖はなんでしょうね。
何より服の中はかんべんしてほしいです。僕も。