「マン・オブ・スティール」くらい日本語にしたらいいのにとおもったのだけれど、たとえば「その男、鋼鉄につき」と訳したらたしかに客なんか来ないだろうと考え直しました。大事なのは意味ではなく雰囲気なのかもしれない。
「父ちゃん、スティールって何?」
「盗むってことだよ」
「泥棒の話?」
「まあそうだろう」
「でもヒーローなんでしょ」
「パッと見はな」
「ヒーローは盗んだりしないよ」
「そんなことはない」
「そんなことあるよ」
「いや、とんでもないものを盗むこともある」
「なに?」
「あなたの心です」
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電池にラブソングを2さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)ロウデン・ヒルが一躍その名を知られることになった大ヒット映画のことですね。
Q. 叶わない片想いに対する妙薬があると聞いたのですが、御存知ですか?
片想いだけならともかく、「叶わない」と断定的な但し書きまでついているのだから、たとえば相手に惚れ薬をのませて都合よく事を運んでしまおうとかそんな段階はとうにすぎたお話とみてよいのでしょう。じっさい恋い慕う相手が石灰岩だったり、ブルドーザーだったり、二次元だったり、自分だったりしたら、たしかに添い遂げるのは至難の業と言わねばなりません。当事者同士がよくても役所が受け付けてくれないこと必定です。今や「そうだ、火星いこう」のキャッチコピーがあながち冗談でもないところまで来ているとはいえ、婚姻に対する固定概念が覆されるまでには残念ながらまだ至っていないのです。ゼロではないかもしれないけれど、その成功率はいちじるしく低い。
そうかといって、じゃあ身を引くことができるかといえば、全然、まったく、決して、ちっともできない上に頑としてする気もないのが恋です。それが何かしらの道にそむくものであればあるほど、却ってバックドラフトのごとく火を噴くのもまた恋です。こうなると手に負えません。うかつに鎮火しようとすると文字通り煙に巻かれます。
そんな苦痛をいくらかでも和らげることのできる薬があるとすれば、ゴルゴン印の超即効性スーパー劇薬「きよ姫」を置いて他にはありません。世界にその名をあまねく知られた毒物の最高にして比類なき権威、ゴルゴン姉妹についてはここかここを参照してもらえればわかるとおもいますが、何しろ効果は覿面です。この世に生を受けたことなど初めから夢であったかのように、すやすやと安らかな境地へ誘われるでしょう。もう何も心配はいりません。あとは三途の川を渡りながら来世の恋に胸をふくらませていればよいのです。今なら夏のキャンペーン中につき20%OFF!とたいへんお買い得ですので、お申し込みはお早めに!
A. これで大抵イチコロです(墓的な意味で)。
でも僕はおもうんだけれど、恋とはそもそも、片想いが基本です。こっちは名指しでも向こうの選択肢は極端な話70億(同性含む)近くあるのだから、うまくいくほうが奇跡であると考えなくてはいけません。逆に言うと70億もいるからにはタイプの相手だって相当な数いるはずです。とするとそのうち30人くらいから熱烈に求愛されたって全然おかしくないし、そのなかから好きに選べるとしたらちょっと王様気分じゃないですか?しかもそれだってパーセンテージにしたらせいぜい、えーと0.000000……いや、もっといてもいい!30人じゃ控えめすぎた!ああもう、体が3つあっても足りないよ!
というようなことを僕なんかけっこういい年になった今でもときどき考えます。夢があるとおもう。
薬にたよってたらキリないですよ。うんこして寝るのが得策です。
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dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その173につづく!