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2011年12月8日木曜日
巨大なトロール網でごっそり浚う電気的な財宝
ほとぼりが冷めたというか、気づけば以前と同じ日々が戻ってきていたので思い出したように書くけれど、11月のある日、何の前ぶれもなくPCが黙り込んでしまったのです。なだめようが賺そうが、ウンともスンともプーとも言わない。もうすこし正確に言うと、何度揺さぶっても布団の中で「うーん」と唸りながらいつまでもグズグズしていっこうに起きないかんじです。「起きないんなら朝ゴハン先に食べちゃうからね!」と捨て台詞を吐きつつ去り際にちらりと横目で様子をうかがっても、まだ布団のなかでもぞもぞしてやっぱり「うーん」と唸っている。 しかたがないから2日くらい放っておいて、頃合いを見計らいながらあらためて起こしにいくと、相変わらずぐずぐずしていて、ちっとも快方に向かう気配がありません。要は電源を入れてもぜんぜん起動してくれないのです。(←Twitterならこの一文で話が終わります)
窮地を脱した今となってはまた、遠い思い出をゆっくりと辿るようにして、こう振り返ることもできましょう。わたしのちいさなアトランティスは、突如として無口なる大海の底にぶくぶく沈んでしまったのだと。「ギャー!この島、沈みかけてる!」と火急を要する事態になすすべなく狂乱した一幕については、あえてここに記すまでもありますまい。
沈んだ島を嘆いたところでせいぜいプラトンみたいに思い出を書きのこすことくらいしかできないし詮無いことですが、もんだいはそこにあった財宝(と言えなくもないもろもろの何か)です。バックアップはどうしたと至極もっともな、そしてひどく耳の痛い指摘をなさる御仁もおられましょう。しかしそもそもそんな要領の良いことなら、僕だってこんな明日の行方も定かでないような侘しい暮らしに身を置いたりなんかしていないのです。電気のお通じがわるくなっただけで無に帰すような果敢ないものを、後生大事に生きていかなくてはならないなんて、ナイーブな時代だとおもう。
ともあれ、1/8,000,000のデータを丸ごと失った200X年の大難につづき、こつこつとたくわえた電気的な財宝(と言えなくもないもろもろの何か)はまたもやすべて、海の藻くずと消えました。日々におけるこうした危機感の致命的な欠如を、ここでは「大陸的」と長所にすり替えておきたい。
とはいえ、海に沈んだのなら、見当たらないというだけで依然海中にあることは疑いありません。元寇の船が700年以上たった今になって海底からみつかったりするのだから、数日前に沈んだものならまだそのへんでプカプカ浮いていてもおかしくはないし、釣り糸を垂らせばかつてサーフィン中に拾い上げたエロ画像の1枚や2枚、釣り上げたってふしぎはないのです。
事態は火急を要します。沈んだ財宝をひとつひとつ釣り上げていたら100ギガに到達するまで何年かかるかわかったものではないし、やるとなったら乱獲上等で盛大に、かつ一息にやらねばなりません。そう考えて環境破壊まっしぐらの巨大なトロール網を使い、海底という海底を徹底的に浚ったところ、思いのほかごっそり掬い上げることに成功し、最終的にはほぼすべての財宝(と言えなくもないもろもろの何か)をこの手に取り戻すことができました。いやまったく、文明の利器とはこれを言うのだと、つくづく感じ入ったことです。
ハードディスク自体はもはや手の打ちようがありません。モノリスのように諦観の態ですっかり沈黙しています。となれば換装です。またそこまで済ませてしまえば、心理的に折り合いのつくところまでは以前の日々を取り戻せたことにもなりましょう。ディスプレイと一体型なものだからひどく重たいのをえっちらおっちら担ぎながら、秋葉原という名のエルサレムに向かいます。そのへんをぶらぶらしているメイドをよけたり(よく考えたらメイドなのになぜ外をぶらぶらしているのか?)、ついでにAKBカフェの様子を遠目からうかがったりしつつ、年季の入った雑居ビルのエレベーターから目的のお店によたよたとたどり着き、1日入院させることでようやくことなきをえました。
それでおもいだしたけど、 入院手続きを終える前に店員さんが「ハードディスクを交換するとファンが回りっぱなしになるかもしれませんが、よろしいですか?」と聞くのです。
「ファンというのは…」
「冷却ファンです」
「なるほど。回りっぱなしというのは?」
「HDに同期したファンは、回転数を自動的に調整するんです」
「使ってないときはそよそよ回り、使うときはブンブン回る?」
「そうです」
「はー、だからふだんは静かなんですね」
「そうなんです。でも交換でその連動を解除してしまうと…」
「回りっぱなしになる?」
「そういうことです」
「それはえーと、直すべき状態なんですか?」
「そういうわけではないですね」
「ふむふむ、じゃ使用自体に問題はない?」
「ないです、ただ…」
「ただ?」
「うるさいかもしれません」
「ふむ、そりゃ回りっぱなしですものね」
「でもそれが気にならなければ別段…」
「不具合ではない?」
「そうですね、むしろよく冷えるというか…」
うちはそもそも振り子時計で年がら年中カチコチ鳴っているばかりか、1時間おきにキンコンキンコン響くような住まいだから物音にはそう頓着しません。「うるさいけどむしろよく冷える」というスサノオ並みの粗っぽさも考えようによっては好ましくおもわれます。そうおもって懇ろにお願いし、翌日ぶじに退院してきたんだけれど、いざ起動してみたらこれがまたあなた、
思わず笑ってしまうくらいブオーンと意気軒昂な音を立てるのです。元気いっぱいというか、実際うるさい。
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