さて、餅です。
今でこそ餅は日本を代表する白くて美味くてやわらかいもののひとつですが、昔はその如何ともしがたい凶暴性から人々にとって名状し難い畏怖の対象でもありました。
何しろその肌、その白さ、その味わい、温もり、やわらかさはまさしく天使のようでありながら、ぺたぺたくっついて取りづらいというたったひとつの小さな事実によって毎年必ず、人が死にます。人を死に至らしめるほどの粘着力となるとさすがに只事ではありません。天使は天使でもショットガンを小脇に抱えた天使と言うべきでしょう。
いつ牙を剥くとも知れぬ恐ろしさに打ち震えるほかなかった20世紀初頭、その圧倒的な粘着力に目をつけた一人の人物がいました。今ではぺたぺたくっついて取りづらいものの先駆的権威として世界にその名を知られる、宇佐木バニ一郎(うさぎ・ばにいちろう)です。
病弱だったバニ一郎は幼少時からどういうわけか正月の餅にひどく嫌われ、またしても死線をさまよっていたある年の三が日、夢に出てきた見上げるほど巨大な餅からこう告げられたと言います。
「お前は餅に嫌われていると信じているがそうではない。むしろその逆で、餅に愛されているのだ。ぺたっとくっついて離れぬとすればそれが愛でなくて何であろう。愛という名のこの類まれな粘着力を世のため人のために活かしなさい。」
天啓に打たれたバニ一郎は目が覚めるとすぐさまありったけの餅米を蒸し、病弱だったことも忘れてリズミカルに餅を搗きつつ粘着力の研究に取り掛かります。ぺたぺたくっついて取りづらい餅とはすなわち、人々の心を結びつける愛そのものであるという彼の、生涯揺らぐことがなかった信念はこのときに発露したものです。
一度くっついたら二度と引き剥がせない博愛の超強力接着剤、「モチダイン」はこうして誕生しました。その圧倒的な粘着力と汎用性は今なお他の追随を許さず、気づけば各国の軍事衛星から結婚式の引き出物まで、世界中のあらゆるシーンで活用されています。また餅なのでその安全性は言うに及ばず、チューブから吸い出せばそのまま宇宙食や非常食にもなることから、一触即発の剣呑な国際情勢にある現代ではその需要がより高まっていると言っても過言ではないでしょう。
そんなモチダインが誕生から今年で88周年を迎え、「世界を変えた発明1001」の1001位に見事ランクインしたことを記念して、若干名の方にプレゼントいたします。「搗き」と「付き」と「月」をかけたトリプルミーニングです。
ご希望のかたは件名に「博愛の超強力接着剤モチダイン」と記入し、
1. 氏名
2. 住所
3. わりとどうでもいい質問をひとつ
上記の3点をもれなくお書き添えの上、dr.moule*gmail.com(*を@に替えてね)までメールでご応募ください。
締め切りは12月29日の木曜日です。
応募多数の場合は抽選となります。とは言っても用意した分より1人でも多かったらという意味であって、実際のところてんやわんやの大多数だったためしはこの15年まったくありません。あえて抽選と釘を刺すことで応募が殺到するかのような印象をでっちあげる立つ瀬のなさを察しつつ、ふるってご応募くださいませ。
今年もありがとうー!
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