2022年7月1日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その381


すこしずつ、御大タケウチカズタケとの音源プロジェクトが形になってきています。第1弾は夏!近ごろはどこから夏なのかわからない気もしますが、カレンダーを見ながら「このへんが夏だったよね」と概ねみんなの意見が一致するはずの、昔ながらの夏です。

どこに着地するのかまったくわからない暗中模索アプローチが本当におもしろくて、できれば細くでも気長に続けられたらいいな、と個人的には感じているほどなので、全部いっぺんにまとめてではなく、不定期に数曲ずつぽろりと放流される…とおもいます。たぶん。

シリーズタイトルとロゴは決定しているので、刮目してお待ちあそばせ。

シリーズロゴ、のシルエット


はぐれメタル純情派さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 子供におすすめの絵本を教えてください。


意外に思われるかもしれませんが、実は質問箱に寄せられる、というか毎年あの手この手で半ば強制的に徴収されるなかでも、これはかなり頻度の高い質問のひとつです。

僕も絵本は大好きなので、取り上げてみたいものはそれなりにあるのだけれど、おすすめを訊かれるといつも口籠もってしまいます。なんとなれば心のどこかで「子どもに薦められる絵本て結局どういうことなんだろう」と引っかかっているところがあるからです。

例えば僕はレオ・レオニの「スイミー」を小学校の教科書で読んだ記憶がわりと鮮明に残っているのだけれど、絵も話も覚えていながらそれ以上の印象は特にありませんでした。うむ、知っている、というだけです。

一方で10代の後半になってから改めて手に取り、これが絵本として本当に掛け値なしの傑作であることに気づいてひっくり返ったこともまた、はっきりと覚えています。えっウソでしょこんなに美しい本だった…?とのけぞったその印象は、今も変わりません。歴史に残るモンスター級の一冊だとおもう。

でも「フーン」というだけのことでしかなかった小学1年当時の僕の印象もまた、本当です。あのころの僕に今の僕の印象をどれだけ力説したところでおそらくろくすっぽ伝わりはしますまい。

つまり僕の心のどこかには今も、あの頃のピンとこなかった僕が指標のひとつとして居座っているのです。大人になった僕の感覚はあのころの僕に対してどれほどの意味があるんだろうか?ということですね。

結果として多くの子どもに好かれる絵本は厳然と存在するし、それはまちがいなく良い絵本です。ただそもそも大人が子ども向けにつくって大人が良いと薦めるものをあんまり鵜呑みにはできんなと思うところもあります。

すべての大人に無条件で薦められる書物などないとみんな当たり前に知っているはずなのに、すべての子どもに無条件で薦められる絵本は存在すると思いこみがちなのも、考えてみればちょっと不思議なことです。

そんなわけでもし単純に楽しんでほしいなら、何を好むかは当の本人にしかわからない以上、人の意見を気にせず、片っ端から試してみることです。数打ちゃ当たるし、何ならこの数打ちゃ当たるがすべてなんじゃないかとすら思う。

そしてもし、あわよくば何らかのプラスの影響を与えたいという気持ちがあるのなら、ご自身もまたかつて同じように子どもであったことを思い出すのが一番です。何しろ僕ら自身がその実例なので、参考にならないはずがありません。大昔から今に至るまでその有無によってどれほどの効果と結果の違いをもたらしたのか、未だ誰も知らない上に証明もできないのが難といえば難ですが、どうあれみんなだいたい健やかに育っているので深く考えなくてもよいでしょう。

ちなみにここ数年で群を抜いて胸を射抜かれた絵本は、ツイッターでも書いたけどイランの絵本「ボクサー」です。子どもに薦められるかどうかはわかりません。でも子ども向けとか大人向けとかわずらわしい線引きを取り払ってしまえば、ダイナミズム溢れまくる表現と圧倒的な筆致、シンプルでありながら詩情に満ちたストーリーに一発でノックアウトされるはずです。おすすめ!




A. ハサン・ムーサヴィーの「ボクサー」です。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その382につづく! 

2 件のコメント:

  1. なんと、音源プロジェクトがついに始動ですか!
    楽しみに待ってます^^

    絵本「ボクサー」も気になりますが、そう言われて「スイミー」を久しぶりに思い出しました。
    思わず、スイミーの
    「ぼくが目になろう!」
    の台詞が幼い私の声で脳内再生されました。(音読の宿題です)

    内容も絵ももう知ってるつもりで何十年も改めて読むことなく生きてきましたが、今度改めて読んでみます。

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  2. > 黄色い花さん

    内容も絵ももう知ってるつもりで何十年も、
    というのはまさに僕と同じ状態ですね。
    今こそ手にとってみてください、ぜひぜひ!

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