2022年6月3日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その377


人生万事最高な歌さんからの質問です。(ペンネームはご本人によるものです、というか本来それが普通ですが)


Q.私も物事には様々な側面があると常々思っていて、アインシュタインの「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションにすぎない」という格言を愛してやまないのですが、大吾さんにとって、これだけは確かな事だ。といったものはありますでしょうか。


アインシュタインのこれはもう、本当にぐうの音も出ないほど、いい言葉ですね。僕もたとえば新婚家庭の食卓で味噌汁に入れる玉子について「かき玉って珍しいね、普通は落とし玉子でしょ」「は?落とし玉子の方が珍しくない?普通はかき玉だよ」みたいなやりとりがあって云々と聞いたときなんかにこの格言を思い出します。人が常識と思い込んでいるものの正体を端的に教えてくれる例のひとつです。

僕の胸に刻まれているキングオブ格言というか座右の銘は昔から、なのでたぶんこのブログでもちょいちょい言及している気がしますが、不朽のコミック「Peanuts」における、スヌーピーの一言ですね。

“You play with the cards you’re dealt..”(配られた手札で勝負するんだ)

僕がこの一言を心底から最高だと考えるのは、ある限られた局面において力になるからでは全然なく、生涯を通じてこれがすべてと言い切れるほどの揺るぎない真理をこれ以上ないほど簡潔に表しているように見えるからです。世間的にもいい言葉として認識されてはいるけれど、僕に言わせれば過小評価もいいところであって、エレガントという意味ではそれこそアインシュタインのE = mc2に匹敵するレベルだと個人的には思います。

そして何と言っても重要なのは、これが誰かに対するアドバイスではなく、スヌーピー自身への問いかけに対する返答もしくは見解である、という点です。スヌーピーはルーシーにこう言われます。

“Sometimes I wonder how you can stand being just a dog..”(ときどき思うの、よく犬なんかでいられるなって)

ルーシーだからまだ無邪気と受け止めることもできるけど、人が人に対してだったらまず絶対にありえない暴言中の暴言と言ってよいでしょう。何しろその存在からして全否定です。

にもかかわらずスヌーピーは腹を立てることもなく、「ふむ…そう言われてもね」とでも言いたげにふわりと受け流してしまいます。その優雅な受け流し方たるや、合気道の達人もびっくりと言うほかありません。

相手を責めるでもなく、自身を守るでもなく、ただ世界がそうあるがままにあるということを知っていて微塵も揺るがない立ち位置、これが完璧でなくて何だろう?

また、これが肯定ではないことに注意してください。「君は君のままでいい」といった、根拠のない単純な肯定とははっきり言って次元が違います。

引き合いに出しているのがトランプであることも大きなポイントのひとつです。たとえばポーカーなら、たとえ手札が最低のワンペアであっても、向き合い方次第で勝てる可能性があります。したがってここには「そりゃそうでなければよかったけど」というような、妥協のニュアンスも含まれていません(ここ重要)。ただフラットかつニュートラルに「手札はこれだ、その上でどう出る?」と言っているだけなのです。自分で書いててしみじみ感じ入ってしまう……ほんとにこれが完璧でなくて何だろう?

薄っぺらい処世訓みたいに扱われることも多いけど、他人に対するアドバイスとして持ち出した時点ですでにその本質を損ねているし、そもそもスヌーピーが人を羨んでいるわけでは全然ない点を完全に見落としている、といちいち腹を立ててしまうくらいには僕にとって大きな意味を持つ一言です。ほんとに。


A. スヌーピーの在りようこそ、この世界で信じられる確かなことのひとつです。




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dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その378につづく! 

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