星のカビさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. 僕はよく靴ひもがほどけるのですが、一回結んだら一週間くらいほどけない紐の結び方ってありますか?
足るを知るにも似た、穏やかなお人柄がしみじみと偲ばれる質問です。
靴紐が一般にどれくらいの頻度でほどけるものなのか、言われてみれば僕もまだ統計をとったことがないので誰もがそうとは断言できませんが、ここではひとまず「そんなにしょっちゅうほどけるものではない」という前提で考えてみましょう。
まず、いただいた短い質問から得られる事実が2つあります。
1. ほどけても良いとお考えであること。
2. 靴紐をほどかなくても履ける靴であること。
ちょいちょいほどけてお困りなのに、一週間くらいほどけなければ御の字なのだとすれば、そのご希望はいかにも控えめです。僕なら苔のむすまでほどけないでほしい。
どんな結び方であれ、ほどけないために肝心なのは最後に靴紐を左右にキュッと引っ張る瞬間です。僕なんかは相手が靴紐なのをいいことに、息の根を止めるつもりでくたばれとばかりに引っ張りまくります。それでもスルリと嘲笑うかのようにほどけるなら、靴紐を口汚く罵ったあげく接着剤で結び目をガチガチに固めます。ほどかなくても履ける靴ならなおさらです。
しかるに星のカビさんはそのどちらでもありません。いっそ一思いにやってしまえばよさそうなところをそうはなさらないとすれば、そこにはやはり、慈愛に近いものが感じられます。靴紐への態度が暴君そのものでいずれ紐に寝首を掻かれそうな僕が言うのもなんですが、靴の結び方よりもよほど大切にしたい心のありようです。してみれば靴紐がよくほどけるのも多くを求めぬその優しさあってこそであり、むしろ他の人にない長所と受け止めることができましょう。なんなら靴紐がほどけるたびに、神さまからほんのすこし、褒められているのです。
もうちょっとだけ長持ちしてくれたらな、というお気持ちはすごくよくわかります。しかし人生とはそんな気持ちを宥めすかしながらやり過ごす日々の連続です。そして神さまに褒められていると感じられる機会など滅多にありません。
それでもなお、ええいもう勘弁ならぬというときは、接着剤で結び目をガチガチに固めてやりましょう。
ぶっちゃけ僕は靴紐の結び方より接着剤の方が詳しいです。
A. ほどけやすい靴紐にもまた意味があるのです。
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その372につづく!
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