2021年8月20日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その339


コンデンス弥勒さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. コロナの流行により不要不急の行動は控えろとのお上からのお達しにより観光に限らず様々な職種の方が苦労された一年でしたが、仕事においては出張がなくなった程度で私生活においてもあまり変化がありませんでした。何か自分自身がそもそも不要不急に対し不要不急の気がしてきて今年を振り返ったとき悲しくなりました。何か良いアドバイスを下さい。


お気づきかとはおもいますが、これは最近いただいた質問ではありません。去年の年末の話です。

パンドラ的質問箱では待てど暮らせど誰からも質問がこないという、ほっとけば確実にそうなる事態を避けるため、年賀状と引き換えに質問を徴収する非常に画期的なシステムを採用しています。したがって満を持してお答えするころにはすでに数年が経過していたり、なんなら質問をくださった方がすでに遠く離れて戻らないことも往々にしてあるわけですが、かれこれ8ヶ月が過ぎてもなお禍中、もとい渦中にあり、近未来からまだマシだった過去へのメッセージみたいなことになるケースはおそらくこれが初めてです。

去年の12月といえば、「かつてない大きさの第3波がきていてとにかくヤバい」という状況です。東京では新規感染者数が初めて1000人を超えた月であり、月単位では約2万人と前月の倍近い増加でした。1000人を超えるとさすがにそれまでとは一線を画すような印象があったので、僕も身が引きしまるような思いだったことを覚えています。

さてその8ヶ月後はどうなっているかというと、「せめて1000人くらいまで減ったら少しは息がつけるのになあ」とたぶんみんな思っています。第4波どころか、これまでとは比較にならない第5波です。東京は一日の感染者数が5000人くらいなので、去年の12月分は今の4日分くらいになります。去年の危機感を基準にするなら今ごろみんな発狂していてもおかしくないですが、ワクチンの接種が進んだこともあってか、実際のところそうでもありません。

近未来人として過去の僕らに語りかけるなら、かつてない危機を訴える緊急事態宣言の真っ只中に東京五輪が安心と安全を掲げて晴々しく開催され、日本は史上最多のメダル数を獲得し、無観客ではあるもののたいへんな盛り上がりで「感動をありがとう!」と多くの国民が涙したことも特筆しておくべきでしょう。

ただ残念ながら「緊急事態(超ネガティブ)」「安心・安全(超ポジティブ)」を同時に展開するアンビバレントな状況に陥ったため、緊急事態って何がどう緊急なんだっけ?という空気になってしまったことは否めず、気がついたらかつてない規模の感染爆発が起きて今に至ります。因果関係はまったくないらしいので、パラリンピックも数日後に滞りなく開催される予定です。

言うまでもなく、収束の見通しは立っていません。8ヶ月後の未来から送るアドバイスとしては「いずれ不要不急どころじゃなくなるし、まだ大丈夫!」ということになるでしょう。

率直に言って、8ヶ月後の僕らは疲れ果てています。もちろん危機感はずっと抱いているけれど、去年の12月とたぶん同じではありません。医療は逼迫どころか崩壊し始めているので、とにかく体調を崩してはいけないとじぶんに言い聞かせる日々です。ただ風邪が悪化するだけでも、診てもらえそうな病院はありません。何しろ原付でちょっと走ればかなりの確率で救急車とすれ違うのです。

ワクチンの効果はまちがいなくあって今では不可欠だけれど、ウィルスの変異と猛威はそれを凌駕するほど激しくて厳しい、ということですね。

質問に戻りましょう。もし去年の12月の時点で、今の僕らが経験している8ヶ月後とはちがう未来に分岐するなら、まだ間に合うしどうにでもなると今の僕は請け合います。なんとなれば不要不急とはまだそれほどではないからこそ出てくる考え方だからです。

自分自身が不要不急なのではないかと苛まれてしまうのもすごくよくわかるし、実際のところ僕もそうだったとおもいますが、そもそも地球にとって人類の存在が不可欠なわけでもありません。ありとあらゆる生物に意志があって多数決をとれるなら真っ先に排除されそうなのはどう考えても人類だし、彼らからしたら今この状況はむしろ「人類との戦い」という構図なのかもしれないのです。

だとすれば個人どころか種としての僕らすべてが不要です。地球レベルで見れば人類みな等しく不要なのだから、気に病むことはありません。

地球に生息しているのは僕らだけではないこと、そして今アリの巣を突ついたような騒ぎになっているのはあくまで僕らホモサピエンスだけであることを改めて思い返しましょう。

自身が生み出す内的ブラックホールに落ち込みそうなときは夜空を見上げて広大無辺な外的宇宙に思いを馳せ、じぶんを砂ひと粒以下まで縮小するのがいちばんです。僕は今でもこういうとき、チャールズ&レイ・イームズ夫妻による1968年の映画「Powers of Ten」を思い出します。シンプルかつ壮大でめちゃオススメですよ!




A. 「Powers of Ten」を観ましょう。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その340につづく! 

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