2020年5月11日月曜日

化野/ADASHINO of the dead



1
はじまりは古い

ある日ぽとりとひとつそこに落ちて
しずかに降り積もり、ひとつまたひとつ
それが山になった

飴細工みたいにきれいで、骨みたいに軽い
踏みしめるとざりざりと苦い音を立てる
放り入れる籠を背負ってざりざりと歩く

飴細工みたいにきれいで、骨みたいに軽い
それはかつて人が耳を貸したり傾けたりしたもの

昼も陽は当たらず、ただ荒涼として広い
ここはでかい声にかき消された志の半ば
砕け散ってばらまかれた形なきものの墓場


2
墓場ではゾンビがしけもくを吹かしている
その足元で三つ足の猫がまるくなって眠る

魂をもつと昔きかされた文字と音が
フェイクや美辞麗句として捨てられていく
行き着く先がここなら、そのなれの果てがゾンビだ

飴細工みたいにきれいで、骨みたいに軽い
それはかつて人が耳を貸したり傾けたりしたもの

凹んでるとゾンビはポンと肩を叩いて
「生きてりゃいいことがある」と慰めてくる
お前が言うのかよって返すのがお約束
世界はこんなにもグロテスクでやさしい


3
そのうちまた甦る日がくるだろう
歌をうたい、詩をよむときがくるだろう
それは絶やさずにきた埋み火のように
冷えきった朝を温めるだろう

飴細工みたいにきれいで、骨みたいに軽い
それはかつて人が耳を貸したり傾けたりしたもの

スコップで掬い、平らにならし
そこへまた今日もぱらぱらと降る
砕け散ってばらまかれた形なきものの墓場で
その日を待っている

ひどく前向きなあのゾンビが笑いすぎてむせる

その足元で三つ足の猫が、大きく伸びをする


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