2017年4月17日月曜日

桜っぽくないけどたしかに桜な桜の話

雨がふったりやんだりしながら、噴き出すように激しく咲いた染井吉野も葉桜におちついて、とおもったらまた薮から棒に初夏がきましたな。春の余韻もへったくれもない。今年の花見はみなさま抜かりなく済ませましたろうか。

染井吉野は葉桜でも、まだ八重桜があります。くっきりとして艶なその色は青い空にも映えて目を射るようです。桜にかぎらず色とりどりの花がほころぶこの季節なら、沈鬱な胸もすこしは軽くなりましょう。花が草や茎や葉と同じ緑色でなくてほんとうによかったとおもう。

花が緑色でないのはもちろん、植物ことごとくを緑色たらしめる葉緑体が、細胞の分化前に分解されているからです。ただ例外なくすべてというわけでもなくて、なかには葉緑体を保持したまま咲く花もあります。

惑星の地表を覆い尽くすほど多種にして多様な植物があるのだから例外の100や200に別段ふしぎもないけれど、じつは桜のなかにも花弁に葉緑体をもつ珍しい品種がふたつばかりあると聞いたら、それはさすがにちょっと意外で、新鮮な印象を持たれるのではありますまいか。

そのうちのひとつが「鬱金」と呼ばれる八重桜です。いわゆるサトザクラですね。



葉緑素まじりなので、ごくごく淡い黄色の花を咲かせます。かぎりなく白に近いとはいえ黄色い花をもつ桜は、数百種あると言われる桜の品種のなかで唯一、この鬱金だけです。

ググると日本に数十本しかないというような記述が出てきますが、どういうわけか近所のちいさな児童公園に1本あります。というか、僕が初めて鬱金を見たのはこの公園です。

もっと言うと、年がら年中クルマがばんばん往来する新宿あたりの都道(山手通り)沿いにも2本あります。バイクでブーンとしばらく行き過ぎてから「あれ?いまの鬱金じゃなかったか?」と気づいて前転しそうな急ブレーキをかけ、わざわざ確かめに戻ったのでまちがいありません。街路樹じゃねえか!

ただ、数十本しかないという話が本当かどうかはさておくとしても、あまりみかけないのはたしかだし、淡い黄色がすこしずつ薄紅色へと変化していくところとかもう、とにかくかわいいの一言に尽きます。

明治神宮のお隣、代々木公園にも2本あって今が満開です。どこにあると書いてあるわけではないので、お近くのかたはてくてく歩き回りながら探してみてね。

多くの桜が散るころほころびはじめる、八重にも粋があるよというお話。

これは代々木公園


なんだかすごく一般的なブログっぽいことを書いた気がするな。

いや、一般的なブログなんだけど。

2017年4月9日日曜日

ポンカンのポンとポン酢のポンとポンジュースのポンについての釈然としない話

これはデコポン

ひょんなことから、というかまあこの場合はポンなことからと申すのが妥当だとおもいますが、ポンとは何かという話になったのです。すっぽんのぽんやすっぽんぽんのぽん、お腹を表すぽんぽんのぽんではありません。ポンはポンでもポンカンとかポン酢とかポンジュースのポンのほうです。

ポンカンは柑橘の一種だし、ポン酢は柑橘をつかった調味料だし、ポンジュースはみかんのジュースなのだから、このポンが柑橘に関係していることはまず疑いありません。しかしなぜポンなのか?

ひと昔前であれば図書館で厖大な資料を調べたり愛媛の農家を訪ねたりえひめ飲料に問い合わせたりしなければならず、首をひねるだけひねった挙げ句その面倒くささにさじを投げて放ったらかすところですが、今はググれば世の中のたいていのことが誰か匿名の親切な人によって説明されています。インターネットは虚実の境目がきわめて曖昧である点をふまえても、やはりググらない手はありません。というか、こういうどうでもいい疑問はそっけない事実より虚実ないまぜのほうがよっぽど好ましいので、むしろおあつらえ向きと申せましょう。

まずはポンカンです。わりと自明の語源までこと細かに記されているので、ずっと読んでいると「だいじなのは語源であって単語ではない」とすらおもえてくる語源由来辞典というサイトには、この爽やかな果実についてこうあります。


のっけからいきなりこじつけみたいなことが書かれていておもわず眉間にしわが寄るようです。インドのプーナが中国にきてピェンになり、それが日本にくるとポンになる、ははあなるほど、と素直に頷ける気がまったくしないけれども、しかし話としてはこれくらいねじくれていたほうがぶつくさ言いやすいので、これはこれでなるほどと受け止めることにしておきましょう。ポンカンのポンはインド西部の地名、プーナの訛です。外国の土地と野菜が合わさる点ではジャガイモみたいなものですね。

次はポン酢です。ポンカンのポンがプーナならポン酢のポンもプーナであるほうが自然な気がしないでもないですが、早合点はいけません。何から何まで書いてあるので鵜呑みにはできないけれども薄めて飲むにはちょうどいい現代のジャイアント百科事典ウィキペディアには、ポン酢についてこう書いてあります。


驚いたことに、ここには先とは別のポンが持ち出されています。数えきれないほどの言葉が氾濫するなかで、おなじ柑橘系の単語にまったく関係のない別のポンが割り当てられる確率の低さを考えると、やはり眉間にしわが寄るようです。しかし古オランダ語の「pons」に、酸味があるから酢の字を当てるというのは、プーナよりもはるかに自然でスマートな気もします。説得力で言ったらこっちのほうが上です。個人的にはポンカンのぽんもこっちでいいとおもう。というか、告白すると僕はポン酢だとおもっていたものがじつは「ポン酢醤油」であったことにショックを受けています。

立ちくらみをこらえて先に進みましょう。最後はポンジュースのポンです。ここまでくると先に言及したポン酢のポン、すなわち古いオランダ語が元になっていると考えるのが順当におもえますが、やはり早合点はいけません。ポンジュースの製造元であるえひめ飲料のホームページにはその歴史が当時の写真とともに記されています。


茫然自失とはこのことです。匿名性が低いぶん情報の信頼度としてはもっとも高いだけに、なおのこと言葉を失わずにはいられません。

この理屈で言うと、仮にリンゴであってもポンジュースだったことになります。むしろリンゴとかブドウとかのほうがよっぽど素直に「へえーそうだったのか」と感心していたはずです。なぜ柑橘に奇妙な縁をもつポンの2文字をよりによってみかんジュースにつけてしまうんだ!

したがってにわかには信じ難いことですが、結論としては同じ柑橘系である3つの単語についた「ポン」はどれも互いに一切の関係がない、ということになります。

でも、そんなことってあるだろうか……?もしこれが本当に偶然なのだとしたら、それは別々に無人島へと流れ着いた3人の男の名がたまたま全員「よしお」だったというくらいの確率になるはずです。ぜんぜん違うような気もしますが、要は「そんな馬鹿な」と言いたいだけなので細かいことはあまり気にしないでよろしい。

こうなるとポンの2音には何か窺い知れない大きなひみつ、もしくは呪詛にも似た言霊のような意味が隠されているような気がしてなりません。切っても切っても縁の切れない柑橘類とポンの2音を、いったい何がこれほどまで強固に結びつけているのか?時空を超えた因縁、もしくは怨念がそこには秘められているのではないか?ええい、そうだったらいいのに!

と夢見る春の日曜日です。

なぜそろいもそろってポンなのか、すっきりしたいとおもって向き合ったのに根本的な謎が却って深まるとはまったく、異なことであると申さねばなりますまい。

2017年4月4日火曜日

帰ってきたのに出遅れたTRINCHセールのお知らせ

あまりに時間がないので去年のエントリをぬけぬけと丸ごとコピーしますけれども、ともあれ今年も帰ってまいりました。TRINCHの商品が月曜の正午(昨日じゃないか)から1週間、全品500円OFFになります。


TRINCH

対象期間:4月3日(月)12:00 〜 4月10日(月)23:59
割引額:1点につき500円OFF

いま気づきましたが、期間が去年の倍です。太っ腹!

また、近所で建築中だったよその人の一戸建てがぶじ完成したらしいことを記念して、去年期間限定のTRINCH別館でお目見えしたデザインとその他数点を追加しています。


うむ、そいつァお得で耳寄りだ、しかしTRINCHって何だっけ?と眉間にしわをお寄せになるのもムリはありません。小林大吾は周囲に人が見当たらないというたいへん切実な理由からグラフィックまで手がけざるを得なくなった詩人ですが、このグラフィックの側面のみをまるごと切り抜いて独立させたのがつまり、TRINCHです。基本的にはKBDGのことなどご存じなくとも楽しめるように配慮しつつ、アルバムをお持ちの方ならそのスピンオフとしてより一層お楽しみいただけます。せっかくなのでとりあえずズッキュン(商品画像の右上にあるハートマーク)だけでも100回くらい押しておいてください。