【前回までのあらすじ】水路橋を真正面から見るべく、川から攻めるという野趣あふれる思いつきを実行するところです。
前編はこちら。
意気揚々と河川敷に降り立ったのはいいものの、先に水路橋を見た位置からは200メートル以上下ってきているうえに目印も何もないので、川沿いをどこまで行けばいいのか皆目見当がつきません。
ひとまず上流へ、とおもったらはやくも河原が途切れています。岩にしがみつけばどうにかなりそうですが、足をすべらせればそのまま川にドボンです。というか手でつかめそうな出っ張りが思ったほど見当たらず、実際落ちかけてこの日一番の冷や汗をかきました。おまけにこのあたりだけ川底が見えない。
ぶじ突破
まだ100メートルも移動していない気もしますが、すでに岩場でものすごい汗をかいたためダウンとセーターを脱ぎ捨てます。まさか1月に河原でTシャツ1枚になるとはおもいませなんだ。
どれくらい歩いたのか、ひょっとしてもう通り過ぎてしまったのではないか、Tシャツ1枚のへっぴり腰できょろきょろしながら石を飛び越えて進むわたくし。挙動不審なのは誰より本人がいちばんよくわかっています。
どちらかというと確信よりも不安に傾きかけたころ、前方に茂みの切れ目らしきものが目に入ってハッとします。沢が流れているかどうか遠目では確認できないけれど、すごくあやしい。
ここのような気がする……
水量がささやかすぎる気はするものの、たしかに沢です。ふたたび希望の火が灯るのを感じながら、鬱蒼と生い茂る草木をかき分けてがしがしと踏み込みます。もともと猿がメガネをかけたような男なので、これくらいなら躊躇はありません。脇目も振らずに突き進み、ふとひらけた空間に顔を上げると
あった……
二号水路橋です。なんとなく想像していたよりもはるかに威風堂々たるその立ち姿に圧倒されて、おもわず感嘆のため息がもれます。発電施設の一部とはおもえないほど、凛々しくて美しい。失われた古代都市を発見したような気分です。まるで宮殿のようじゃないか……。
決して人には勧められない軽薄な思いつきをみごとクリアし、へっぴり腰でかき分けてきた茂みをまたへっぴり腰でかき分けて河原に戻ります。
すべてが手探りで心許なかった行きとはちがい、鼻歌まじりで花をパチリと撮るくらいにはきもちに余裕が生まれていたようです。
そしてもちろんこの勢いのまま、次は三号水路橋を目指します。しかしまさかこれ以上の驚きが待ち受けていようとは……の後編につづく。
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