2015年12月2日水曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その235


ハッスル望遠鏡さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士が適当につけています)


Q: 「時代は変わった」と感じるのはどんなときですか?


他の人ならどんな回答をするのか、アンケートをとりたくなるいい質問ですね。

考え始めたらキリがない気もするけど、しいてひとつ挙げるなら僕の場合は「素焼き(無塩)のアーモンドをぽりぽりかじるとき」になるとおもいます。というのもひと昔前はこれがまったくといっていいほど手に入らなかったからです。

まだ十代のころ、たしか福島かどこかの農産物直売所で、殻がついた生のアーモンドを買ったことがあります。生はもちろん、殻もそれまで見たことがなかったから、言ってみれば物珍しさですね。そのころすでに僕はコーヒー豆をじぶんで焙煎していたから、同じように煎ればいいとあまり深く考えずに手に取りました。これが発端です。

家に帰ってペンチでぱきんと殻を割り、コーヒーと同じ要領でからからと煎って冷まし、口にポイと放りこんだときの驚きは忘れられません。とにかくむちゃくちゃ美味くて、それまで口にしてきたアーモンドの印象がまるごと塗り替えられるくらい、まったく次元がちがいました。そして僕にとってはこれがいちばん大事なことですが、コーヒーとの相性がずば抜けて良かったのです。コーヒーにいちばん合うおやつは何ですかと訊かれたら、僕は今でも真っ先に「殻を割ってローストして冷ましてすぐのアーモンド」と答えます。

何しろ当時はアーモンドと言ったら例外なく塩が振られていて、ただ煎っただけのアーモンドなんか口にしたことがありません。さんざん探し歩いた経験から挙げられそうな唯一の例外は、スライスされた製菓材料としてのアーモンドだけだったはずです。

実際このときから折にふれては殻付きの生か、せめて塩味のついていないアーモンドをとおもって探すようになったんだけど、これがまた本当に、どこにも見当たりませんでした。インターネットもまだ当たり前ではなかったから、探求のためにわざわざ都心まで足を伸ばしたくらいです。でもどれもこれも、いろんな会社がいろんなパッケージで出しているのに、みんな判で押したように塩が振ってある。たまにちょっと気を利かせたような顔をしたやつでも、せいぜい「減塩」でしかない。減らすくらいならなくしてくれよ!そうまでして否が応でも塩まみれにしなくてはならない理由がいったいどこにあるのか、しまいには何の罪もない店員の胸ぐらをつかんで問いつめたくなったものです。

ネットが普及するようになっても、依然としてアーモンドは見つかりません。ダイヤルアップでジーコロジーコロ気長に接続しながらググりましたが、といっても当時はまだグーグルなんて知る由もなかったし、ひょっとしたらダイヤルアップの意味もわからないかもしれませんが、とにかく見つからなくて、最終的には個人輸入まで考えました。アメリカにキロ単位で売っているサイトを見つけたのです。でもたしか隅っこに「食用ではありません」と注意書きがあって、食用でないなら何なんだ!と週末の夜中にひとり吠えたことが懐かしく思い出されます。(それでも「火を通すんだし……」としばらく悩みました)

殻に入った生のアーモンドは今もあまり見かけませんが、塩が振られていない素焼きのアーモンドなら今やコンビニでも置いてあったりするのだから、「時代は変わった」とやはりしみじみ、言わねばなりますまい。と同時に今までを思い返して「あの盲目的なソルト信仰はいったい何だったんだ」と若干業腹な気がしないでもないですけど。ポリポリ。


A: 素焼きのアーモンドをぽりぽりかじるときです。




質問はいまも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その236につづく!

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