2015年6月5日金曜日

なぜそのタイトルはこれほどまでにはびこっているのか


「なぜ○○は△△なのか」というタイトルの乱発ぶりにいいかげん食傷気味なのです。その走りはおそらく2005年の「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」だとおもいますが、もう10年もたつと言うのに今もこうしたタイトルの勢いが衰えないのには驚かされます。今年に入ってからも「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」が話題になったばかりです。

お断りするまでもないことですが、書籍の内容について云々したいわけではありません。本それ自体の良し悪しはひとまず脇に置いてよろしい。そうではなくて、仮にも出版のプロフェッショナルが臆面もなく猿真似で横並びにタイトルをつけるなんて恥を知れこのすっとこどっこいと身もふたもなく言ってしまいたいのです。

ほんの一部をピックアップして並べてみましょう。

・なぜ人はショッピングモールが大好きなのか
・なぜ世界でいま、「ハゲ」がクールなのか
・なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?
・なぜ酔った女性を口説くのは「非常に危険」なのか?
・なぜ、東大生はカレーが好きなのか
・バカボンのママはなぜ美人なのか
・冥途の旅はなぜ四十九日なのか
・なぜ、健康な人は「運動」をしないのか?
・時計の針はなぜ右回りなのか
・怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか
・映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?
・なぜ、A型がいちばん美人なのか?
・なぜルパン三世は泥棒なのにヒーローなのか?
・なぜ仏像はハスの花の上に座っているのか
・なぜ皇居ランナーの大半が年収700万以上なのか
・なぜ感染症が人類最大の敵なのか?
・なぜ他人の不幸は蜜の味なのか
・稼ぐ人はなぜ、長財布を使うのか?
・頭がいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか?
・なぜ、あなたの話はつまらないのか?
・天皇はなぜ万世一系なのか
・なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?
・なぜ日本車は世界最強なのか
・なぜ一流の経営者は即興コメディを学ぶのか?
・なぜ、マーガリンは体に悪いのか?
・なぜ20円のチョコでビルが建つのか?
・悪口を言う人は、なぜ、悪口を言うのか
・なぜ、あの人が話すと意見が通るのか
・なぜ『三四郎』は悲恋に終わるのか
・なぜ貯金好きはお金持ちになれないのか?
・なぜ、ラーメン屋の8割が3年で消えるのか?
・あの夏、サバ缶はなぜ売れたのか?
・一流の人は、なぜA3ノートを使うのか?
・なぜ、「白雪姫」は毒リンゴを食べたのか
・携帯電話はなぜつながるのか
・なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか
・武士はなぜ腹を切るのか
・どうせ死ぬのになぜ生きるのか
・子どもはなぜ「跳び箱」を跳ばなければならないのか?
・なぜ7割のエントリーシートは、読まずに捨てられるのか?
・筋トレをする人は、なぜ、仕事で結果を出せるのか?
・男は、なぜ缶コーヒーが好きなのか?
・なぜ、カフェのコーヒーは「高い」と思わないのか?
・なぜ電車の席は両端が人気なのか
・なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか
・日本一サービスにうるさい街で、なぜ日本一古くさいキャバレーが愛され続けるのか
・NHKはなぜ金持ちなのか?
・なぜ、腐女子は男尊女卑なのか?
・飛行機事故はなぜなくならないのか
・なぜ彼女たちはカープに萌えるのか
・なぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのか
・なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか
・なぜ、男は「女はバカ」と思ってしまうのか
・江戸っ子はなぜ蕎麦なのか?
・検索エンジンはなぜ見つけるのか
タコは、なぜ元気なのか

※最後の一冊だけは根本からして何かが決定的にちがうような気もするのですが、個人的にたいへん好感が持てるのでリンクを貼ってあります。


僕がここまで腹を立てているのは、そもそもこうしたタイトルのつけかたがまったくもって論理的ではないからです。

もちろんコストをかけて本をつくる以上、いっぱい売れてくれなくては困ります。そのためにできることは何でもする、という姿勢も当然です。僕だって売れることが「本当に確か」なら、こうしたタイトルを推奨するにやぶさかではありません。あざとかろうが、二番煎じだろうが、それこそ「だって売れるんだもの」の一言で済みます。

問題は、まったく同内容の本を異なるタイトルで発売しないかぎり、その売れ行きがタイトルのおかげなのかどうかを判別する手立てはない、という点です。ですよね?ひょっとしたら本の内容が単純にすごく良かったからだけなのかもしれない。あるいは挿絵作家の人気にあやかったものかもしれない。でも実際に売れた要因というのはそもそもそれが何であれ、購入者全員に動機を訊いて回らないことには絶対にわかりっこないのです。にもかかわらずタイトルひとつで売れ行きが変わると考えるならこれが非論理的でなくてなんだろう?

タイトルによって売れ行きが爆発的に伸びた書籍もあります。リチャード・ドーキンスの世界的名著「利己的な遺伝子」もそのひとつです。もともとは「生物= 生存機械論」というしかつめらしい邦題で発行されていましたが、重版時に直訳へと改題したことで一躍日本でもベストセラーになり、今では古典として定着しています。前述のように変更したタイトルそのものがどれだけ売れ行きに寄与したかについては確かめようがありませんが、少なくとも使用前と使用後では明らかに認知度が大きく異なること、プラスそれまでの常識をひっくり返す挑発的な単語から、影響の大部分をタイトル自体に求めることができるとみていいでしょう。原題にしてもその直訳にしても、実際すごく、いいタイトルだとおもう。

しかしそれも改題したからわかることであって、これが仮に最初から「利己的な遺伝子」だったら、ベストセラーの要因をタイトルに求めることはできません。目を引くいいタイトルであることにはちがいないし、きっとそのためもあるだろうと考えることはできても、確証は得られないのです。

では百歩譲って、たとえば「さおだけ屋はなぜ〜」が売れた理由のひとつにそのタイトルがあったと仮定してみましょう。仮にそうだとするとそれは、「多くの人が共有できる疑問」だったからだと僕はおもいます。「あー!それ前から知りたいとおもってた!」とシンパシーを感じるからこそ、手に取るのです。単に疑問形だから気を引くわけではありません。当たり前と言えば当たり前という気がするけど、その上で先に挙げたタイトル群を眺めてみてください。その大半が「知りたい?」と聞かれたら「別にどっちでもいいけど」としか答えようのない無用な疑問であることに気がつくはずです。それどころか「なぜ今日は空が曇っているのか」と同じくらい不毛な疑問も散見されます。

先例にあやかるというのなら、「なぜ」という疑問符をぺたっとただ無批判にくっつけるのではなく、せめて「多くの人がシンプルに知りたいとおもえる疑問」を持ち出すことが最低条件だと僕は考えます。「おれの秘密知りたい?」みたいな独りよがりな疑問を一方的に突きつけられていったい誰が興味を示すというのか、もういちどよく考えてみていただきたい。この手のタイトルのほとんどが雰囲気ばかりでまったく論理的ではない、というのはそういう意味です。それでもなお押し通すだけの甲斐が果たして本当にあるだろうか?

とまあこれが本日の前置きだったのですが、いつものごとくパンパンに膨れ上がってしまったので、これよりはるかにどうでもいいこのつづきはまた次回に先送りです。ごきげんよう!


4 件のコメント:

  1. こんにちは。
    図書館で働いている者ですが日々感じていることだったのでうんうん頷きながら読ませていただきました。
    なぜ○○は○○なのかの本は絶対入れないぞ!と思っています。タイトル逆効果ですね。
    でも、タイトルだけ見て「ふーん」となるのは好きです。

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  2. なぜタコがリンク先で一時的に在庫切れなのは博士の仕業でしょうか?^^

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  3. こんにちは。
    図書館で働いている者ですがうんうん頷きながら読ませていただきました。
    なぜ○○なのかの本は絶対買わないぞ!と決めています。タイトルが逆効果ですね。

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  4. > ちゃりこさん

    入荷するんだろうか……?
    僕もちょっとほしいです。
    でも、中古でいいような気もします。

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