2015年4月21日火曜日

地球が宇宙に誇る人類史上最大のジョークを探して 後編


何の気兼ねもなくひとりでぽつねんと好き勝手にリーディングするナノスケールなライブイベント@渋谷Flying Booksを計画しております。正式なアナウンスは来週あたりになるとおもいますが、日取りは5月末と6月中旬の予定です(計2回)。他では聴けないものをいくつか披露できるはずなので、続報をお待ちあそばせ。お呼びでない、なんて言わないで!


【前回までのあらすじ】地球が宇宙に誇る人類史上最大のジョークを探しています。

→前編はこちら

車輪刑
世に拷問と刑罰は数あれど、いまだにその意味が判然としない刑罰がこれです。重罪人の体を車輪に縛りつけ、ポカスカ殴って全身の骨を砕く、もしくは車輪自体でポカスカ殴って全身の(以下同文)という汚辱にまみれた刑罰らしいのですが、「なぜ車輪なのか」という不可解すぎる肝心の部分については諸説あってブラックボックスのままうっちゃられています。太陽に対する信仰の象徴うんぬんという理屈もわからないではないんだけど、そんなこと言ったら車輪の上に荷台と荷物をのせて地面をコロコロ転がすことのほうがよほど憚られるはずじゃないかと思わずにはいられません。
名著「図説 拷問全書

しかしこれが中世ヨーロッパにおけるある種の常識であった証拠に、車輪に括り付けられてぐったりしている罪人の様子が図版として数多く残されています。ブリューゲルの代表作のひとつ「死の勝利(The triumph of death)」にも刑罰具としての車輪がはっきりと描かれているくらいです。車輪刑のことを知らなかったらなぜこんなものが描かれているのかさっぱりわからないとおもう。


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思えば日本におけるセルフ拷問と言うべき「切腹」もまた、奇天烈かつアメイジングな死のひとつに数えられましょう。その苦しみから解放するための、それでいて高度な技巧を要する「介錯」をセットにするくらいなら初めから斬首でいいじゃないのとおもいますが、名誉の保持と様式美というふたつの要素によって世間的にはいちおう疑念なく受け止められています。しかし「なぜ腹なのか」という点は今もって謎のままです。というかほとんど問題になりません。そこが解せない。


ジンバブエドル
かつてジンバブエではあまりに破滅的なインフレ率のため(年間65000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000%)、最終的に驚愕の100兆ドル紙幣が発行されました。当時の闇レートだとビッグマック1個が1兆4000億ドルになる計算です。

注:以前ここでふれた一文をまるっとサンプリングしています。

付け足すことはとくにありません。これくらいシンプルでみごとに針が振り切れた史実もそうないはずです。



サッカー戦争
エルサルバドルとホンジュラスの間で1969年に起きた戦争のことです。ウィキペディアには「1970 FIFAワールドカップ・予選において両国が対戦した際の国民感情のもつれから国交断絶に至った」とあります。この一文だけでも目を疑うに十分な破壊力だとおもいますが、これくらいはまだご愛嬌です。何しろここから両国空軍による爆撃、陸軍による銃撃戦が始まり、これを前哨戦としてさらに領土の侵攻、占領と考えうるかぎり最悪の事態に発展しています。火星人あたりがこの様子をTVで観ていたらみな例外なく絶句していたにちがいありません。

もちろんここまでに至るには多くの社会的な要因があります。単純にサッカーの勝った負けたで片付けられる問題ではありません。とはいえワールドカップがなければこの戦争は起きなかった可能性がある、とは申せましょう。「人はなぜ争うのか」という永遠の問いに対して人だからですと答えるほかない生物としての業がここから垣間見えるようです。



イスラエルの建国
個人的にはちょっと前までこれが「人類史上最大のジョーク」でした。周囲とは信仰や文化の異なる国家をあるとき好きな土地にいきなり建立して世界に認められるなんてことがなぜ可能なのか、いくら考えても腑に落ちません。もちろんそうしたいと願うきもちにはそれだけの理由があります。それが他のどの民族よりも大きいのもよくわかる。でもだからといってそのために土地の住人を力で追い払えるかと言ったらそれはまた別の話だし、その正当性と今も問題解決の兆しがない理由については子どもに説明できません。経緯を事実として受け止めることはできても、説明できない。「大人の世界では許されないことなんて何ひとつないんだね」ともし子どもに言われたら僕らはどう答えるべきなんだろうか?



九段線(Nine-dotted Line)
しかし現在、それに替わって「人類史上最大のジョーク」の筆頭候補に躍り出たのが中国の引いた領海、九段線です。もう何度も見ているはずなのに、線の引かれた地図を見るたび目玉がポンと飛び出ます。かつてこれほどまっすぐにズドンとジャイアニズムを発揮した主張が他にあっただろうか?


念のためにつよくお断りしておくと、領海についての私見を持ち出したいわけではありません。それは然るべき立場の人と人が互いに受け入れられるようなかたちで然るべく取りまとめる話です。すくなくとも僕がこのすちゃらかブログでいそいそと取り上げるようなトピックではない。ですよね?ここで大事なのはこれがたとえ火星とか架空の領土であっても「ちょっと待て」と吹き出さずにはおれないほど雑で度肝を抜かれる線引きであること、そのクレイジーな範囲もさることながら細心の注意を払うべき領海を表すのにたった9本の短い線しか用いられていないということ、何よりこれが国家によるいたって大真面目な主張だということです。エイプリルフールにどんなホラを吹こうと、九段線の前では綿毛のようにあっさり吹き返されます。

今のところこれを超えるビッグなジョークには出会えていません。他にもあると想像するのが困難なくらい、群を抜いています。世界の終わりに「おもえばあれが人類史上最大だったな」としみじみ振り返る至高のジョークが何になるのか、果たして九段線を凌駕する強烈な一発の到来はあるのか、こればかりを楽しみにせっせと糊口を凌ぐ日々です。


「人類史上最大のジョーク」へのノミネートもお待ちしています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


7 件のコメント:

  1. 独演がジョークでないことを信じて、絶対行きます!
    大阪からまた車で(日帰り)。必ずや。仕事休めないなら辞めてでも。
    わくわくして夜も眠れないので、これから寝ます。

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  2. > s8さん

    もちろんジョークではありません。
    結果によっては定期的にポツポツやっていくかもなので
    どうかあまりムリをなさいませんように!

    しかし7時って……夜勤明けかな?
    おつかれさまです。そしていつもありがとう!

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  3. ハツカネズミは小麦粉から、蜂は草の露から、ウナギやエビは海底の泥から生まれるという自然発生説が、長い間科学的に証明されずに否定されていなかった事、なんて候補にいかがでしょうか。
    門外漢なので、wikiにある「19世紀まで支持されていた」がどの程度の支持なのかはわかりませんが。

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  4. 匿名の工場作業員も、一作目から最新作にいたるまで聴き込んでいますよ。

    しかし、ファンレターを書いて送信ボタンを押そうとすると指がプルプル震えるので送れずにいるそうです。だから、コメントを残すという決断をと。

    独演会、行きたいです。楽しみです!!
    あ、そんでもって結婚しました。

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  5. > 匿名さん

    19世紀くらいだと日本でも幽霊がふつうに信じられていたそうだし
    たぶん、大抵のことがミステリーだったんじゃないかな……
    でも、小麦粉からハツカネズミはいいですね。
    誰だ最初に言い出したやつは。


    > 匿名さん

    いつもありがとう!ぜひいらして!
    というかそんな人生の一大事を
    ついでみたいにポロッと仰るなんて
    まったく、おめでとうございます。
    花咲く小道を歩むおふたりに幸あれ!

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  6. 無粋かつ今から少しせっかち過ぎる話で申し訳ないのですが「他では聴けない」というのは今後CDで販売予定なんかは無い…のでしょうか?「パン屋の1ダース」みたいに逃した魚が致命的な後悔に繋がりそうで今からハラハラソワソワしているのですが、ライブに行くのが中々難しそうで・・・。まだ答え難かったらスルーしてくださって構いません><大吾さんの詩集も持っているので幽霊の話…気になってます。

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  7. > 匿名さん

    そうですね、可能性はもちろんあるけれど、
    音源化の予定はひとまず全然ありません。
    というかむしろイベント用にこしらえたものなのです。

    ただ、このオントローロに関しては
    定期的に開催していくことも考えているので
    「これを逃すと……」みたいなことには
    ならないとおもいます。(たぶん)

    詩集、お持ちなんですね。いつもありがとう!
    だとしたらたしかになおのこと、
    例のアレはお聴かせしたいです、僕も。

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