2015年2月11日水曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その202


なんて素敵にハバロフスクさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q: 「昔好きだったんだよ」って言う話をした女性に、まだ未練があるんですが、どうすればいいですか。 追伸:12/30のクラス会でその娘にあったんですが、何事も無く終わったので、何とも言えなくなりました、そんなきもちです


切ないですね。コタツに入って放心しながらゆく年くる年を見るともなく見る、なんて素敵にハバロフスクさんの様子が目に浮かびます。年なんか明けなけりゃいいのにとため息をつきたくもなりましょう。ため息といっしょに霊魂までがよれよれと煙のように口から漏れ出てしまうのもむべなるかなです。

しかし現実問題としてどうしたらいいかというと、ここはやはりコタツに入って放心しながらゆく年くる年を見るともなく見るほかない、と言わねばなりますまい。そんなヌルっとした了見で事態が好転すると考えるのは大間違いというものです。

僕の従兄弟の伯母の義弟の奥さんの連れ子の友だちであるジョニやす君は、同じように同窓会で好きな女の子の隣に座り、拭いがたい未練からじぶんの財布を彼女の足下にポトリと落とし、会の解散後に彼女が足早に駈けてきて

「ジョニやす君、お財布!」
「おや!なぜ君が僕の財布を?」
「わたしの足下に落ちてたの」
「やあ、それはどうもありがとう」
「どういたしまして」
「ひとつ借りができちゃったな」
「大げさね」
「大げさなんかじゃないさ!」
「大金でも入れてた?」
「そんなものよりずっと大事なものを入れてたんだ」
「大事なもの?」
「僕にとってはね。知りたい?」
「そうね……聞いてあげてもいいけど」
「どうしてもっていうなら教えるよ」
「そっちこそ、どうしてもっていうなら聞いてあげる」
「しかたないな……じつは写真なんだ」
「写真?……ははあ、なるほどね」
「何?」
「わかっちゃった」
「何が?」
「カノジョのでしょ」
「カノジョか。そうだったらいいんだけど」
「ちがうの?」
「でも世界でいちばん好きのはたしかだね」
「猫とか?」
「ちがうよ」
「ハムスター?」
「なんでハムスター?」
「わたしが好きなの」
「それならハムスターの写真も入れときゃよかったな。でもちがう」
「まさかお母さんとかじゃないでしょうね?」
「まさか!そんなわけないだろ」
「どうだか」
「本当だって」
「恥ずかしがることないのに」
「わかった、そこまで言うなら見せるよ」
「ごめんごめん、冗談だってば」
「見せるけど、でも笑うなよ」
「いいよいいよ、しまっておいて」
「ほら」
「えっ……」
「笑うなよ」
「これって……」
「どうかした?」
「わたしが写ってる」
「たしかに。写ってるのは君だ」
「なんで?」
「なんでってそりゃ……」
「…………」
「話すと長くなるから、お茶でもどう?」
「え?」
「拾ってくれたお礼もかねて。君さえよければ、だけど」
「ははあ……」
「何?」
「計画通りってわけ?」
「ちがうよ、まさか!」
「顔赤いよ」
「勘弁してくれ」
「ま、いいけど。奢られる理由はたしかにありそう」

とまあそんなかんじのシナリオを脳内に描き、淡い期待に胸をふくらませていたものの、気がついたら彼女は別の友だちと連れ立ってどこかへ消えており、そのまま財布もどこかへ消え失せて踏んだり蹴ったりのたいへん気の毒な男ですが、財布の使い方がどう考えても間違っている点はさておき、不用なワンクッションをはさめばどうしたってこうなるのは目に見えています。お茶に誘いたければ初めからそう言えばいいし、未練があるなら過去の話として水を向けたりせずに今もそうだとはっきり申し出ればよいのです。

もちろん、それができれば苦労はありません。ですよね?正直に言えば、僕もたぶんできないとおもう。でもだからといって相手の出方をうかがうようなやりかたが誠実かと言えば、それはやはりちがうと僕はおもいます。できれば傷を負わずに済みたいのはよくわかるし、あわよくばというきもちもよくわかるけれども、だとすれば二の足を踏むことによって得た結果は甘んじて受けなければならないし、もっと言えばしょんぼりする資格もないのです。

ただし、朗報もあります。つかもうとさえしていないのだから、実のところまだ何も失っていない、というか失いようがありません。失ったように感じるとしたらそれは単なるシミュレーションの結果です。必要にして十分なこの事実を踏まえた上で、あらためて自らの胸の内と向き合いましょう。伝えるもよし、伝えぬもよしです。僕としても夜更けの屋台で肩を並べておでんをつつきながらしょんぼり一献傾ける準備はできています。振られる前提じゃねえかとお思いかもしれませんが、振られずにすむ人生ほどいけすかないものはありません。存分に砕け散ってきてください。両手を広げてお待ちしています。


A: 顔を洗って出直しましょう。




質問はいまも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その203につづく!

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