戦場にかける八ツ橋さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q: 最近レコードプレーヤーを購入しました。まだレコードが3枚くらいしかないのですが、「コレは持っとけ!!」というレコードがあったら教えてください。
レコード、いいですよね。物心ついたときにはすでにカセットテープが主流だったから、僕もレコード世代では全然ないんだけど、そういうわりと新しい価値観で触れているせいもあってか、よいなあとしみじみおもいます。音の奥行きや心地よさといった耳に対するよろこびはもちろん、音楽と正面から向き合うちょっとした形式美みたいなものも、そこにはありそうです。豆をごりごり挽いて飲むコーヒーにも似ているかもしれません。
僕の場合はソウルミュージック一辺倒なので、そういう偏った嗜好を踏まえた上で挙げるなら、いわゆる「ニューソウル」と呼ばれる時代のレコードはいま聴いても違和感がないばかりか、むしろ時代やジャンルを問わず受け入れられる普遍性があるようにおもわれます。未だにソウルの入り口としてはいちばんよく取り上げられる時代です。
Stevie Wonder なら "Innervisions"を中心とした三部作、
Curtis Mayfield なら "There's No Place Like Amerika Today"(これは異論ありそう)、
Donny Hathaway なら "Live"、
…あたりは押さえておいてまずまちがいはない、というかまあ、ソウル好きの誰にたずねても「持っとけ」という話になりますよね、これはおそらく。あ、あとニューソウルとは呼ばない気がするけど、James Brown の "Revolution Of The Mind" も足しておこう。
ただこれらはどれもYouTubeにアルバムの全曲がアップされていてもおかしくないくらいの名盤なので、当然これまでにも何度となくCD化されています。iTunesにもあるでしょう。だからといってレコードで持っていていけない理由はないし、むしろだからこそレコードで持ちたいという考え方もあるとおもうけど、どうせならレコードでしか得られないよろこびに焦点を当てたいというか、そういうのに触れたいですよね。
その視点で言うと、ぜったいに1枚は持っていてほしいのが、7インチのシングル盤です。LPとちがって、7インチはまず音圧がまるっきりちがいます。大げさでも何でもなく、針を置いたらドカンとぶっ放される大砲みたいな音の迫力に圧倒されるはずです。この衝撃のためだけでも7インチは持っておく価値があると言っても言い過ぎではありません。33回転のLPとちがって7インチは45回転仕様なので、同じ曲でも針の進む距離が1.5倍くらい長くなります。つまり、それだけ情報量が多いわけですね。MP3や、音質という概念がほとんどなきに等しいYouTubeに慣れているとピンとこないかもしれないけれど、レコードで聴き比べればその差は歴然です。「こんなにちがうの!?」と僕もひっくり返った記憶があります。ライブパフォーマンスに準ずるくらい、ここには体験としてのよろこびがあるとおもう。
また、7インチのシングル盤というのはもともとLPがなかった時代のメディアなので、そもそも1枚1枚が入魂の勝負曲であり、くらくらと目眩がするような素晴らしい曲が驚くほどたくさん存在します。よほど知られているアーティストや曲ならコンピレーションの一部としてCDに収録されることもあるけれど、シングルを1枚しかリリースしていないシンガーも多くあって、この場合はネットをのぞけばそれこそ7インチでしか聴くことができないのです。
音がめちゃ良くて、レコードでしか聴けなくて、しかもめちゃ良い曲って、考えただけでもどきどきするでしょ!
何しろ全盛期が50年前という古めかしいメディアでもあるから、入手の難易度もピンキリ(ebayを見てるとときどき7インチ1枚に1000ドルを超える入札があったりする)なんだけど、うまく巡り会えれば数百円で手に入る、しかも針を落とすことでしか聴けないすてきな1枚というのは、たとえばこれです。
Ebony Rhythm Funk Campaign "How's Your Wife (And My Child)"
LPも2枚リリースしているグループですが、そのどちらにも収録されていない上に、おそらくこれが彼らのベストです。単に僕が好きなだけという可能性もある。しかもこれ、ダブルサイダー(=両面良い)なんだよ!タイトルというか、曲の内容はちょっとディープな気もしますけど。
あとそうそう、シングル盤のラベルには、他ではちょっと得にくいような情報がいろいろと含まれてたりするんですよね。たとえばDonny Hathawayはアルバムで言うと数枚しかリリースしていないけれど、シングルではライターとかアレンジャーといった裏方の役回りでそれこそ数えきれないくらい多くの曲に参加しているのです。知らずに手にしたら「あっこれアレンジ、ダニーだ!」ということがホントよくあるし、「June & Donny」とかそれだけ見たらスルーしてしまいそうなデュオ名義でぽろっと1枚リリースしていたりするから、まったく油断なりません。このあたりまで気にするようになったら、もはや塩化ビニルの泥沼に腰まで浸かっていると考えていいでしょう。
他にもたとえばこんな1枚があります。
どうやらお蔵入りになったアルバムからの1曲らしいのだけど、真偽のほどはわかりません。たぶんそのためにシングルのみのリリース。曲だけ聴くとマーヴィンというよりカーティスみたいです。しかしなぜカラーヴァイナルなんだ?
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とまあ、あれこれ好き勝手に書いてきたけれど、重箱の隅をつつくようなこれまでのこまかな話はぜんぶ押し入れにぶちこんで、何はさておき手にしてほしいレコードがじつは別にあります。「これは持っとけ」と差し出す1枚があるとすればこれです。7インチで、しかもYouTubeにもその音源はありません。でももうこれはホントかっこいいし(かっこいいんです)、涙ちょちょ切れる逸品中の逸品であるとわたくしは声を大にして言いたい。
大野進 "ニャロメのうた"
収録時間が2分22秒(ニャンニャンニャン)という芸のこまかさも見逃せません。
そしてこれもまた、裏の「ケムンパスでやんす」と合わせてまごうかたなきダブルサイダーだと僕はおもいます。レコードプレイヤーを導入した以上は、何としてでもこの1枚を手に入れてください。その価値はあります。ぜったいに。
A: 大野進 "ニャロメのうた"
なんとなくもう1枚くらいとおもって今むりやり棚から引っぱり出した1枚
Cliff Nobles & Co. の "The Horse" 。これもすっごい好き!
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質問はいまも24時間無責任に受け付けています。
dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その152につづく!
返答ありがとうございます!!
返信削除今回お答えいただいたレコードを集めることを目標に、また日々生きていこうと思います☆
とりあえずいち早くニャロメのうたを探しに走ります。
> 匿名さん
返信削除そうおもってもらえてよかった!
ニャロメのうた、ぜひ手に入れてください。
元気でます。まじで。