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2011年3月9日水曜日
詩の一遍が真夜中にうちを訪ねてきた話
号外!号外!
ときどきふと思い出したようにここで触れてはその地味な存在感に肩をすくめる他なかった詩集、「2/8,000,000」の在庫(@Flying Books)がとうとうのこり1冊になったそうです。6年かけてようやく…ようやくゴールにぴんと張られたテープが見えたとおもうと、目頭も熱くなります。
おもえばかのムール貝博士が登場したのもこの詩集が最初です(詩人の刻印はその数年後)。今じゃSUIKAの曲で言及されるまでになったのだから、ずいぶん出世したものだ。
あまりに売れないので干されている詩集の図
もともと積極的に売ろうとしていたわけでもなかったけれど、それでも同じ500部を用意したオーディオビジュアルの特装版がふた月でキレイさっぱりなくなったことを考えると、その5年も前からそこにあった詩集に対して、気の毒なような、申し訳ないようなきもちが頭をもたげないでもなかったのです。
それがとうとう、あと1冊…。
オーディオビジュアルをリリースして間もないころ、詩集「2/8,000,000」のなかに収められた詩の一遍が僕のところに来て、ためいきまじりに「相談がある」と切り出した夜のことを、忘れることはできません。
「どうしたこんな夜更けに!」
「ごめんよ」
「いや…」
「でもどうしても今日伝えたくて」
「それはかまわないけど…驚いたな」
「じつは折り入って相談があるんだ」
「相談?まあとりあえずお入りよ」
「ありがとう」
「来るとおもってなかったからおもてなしも何もないけど」
「おかまいなく!ホントは連絡してから来たかったんだけど…」
「そうだよ、電話してくれればいいのに」
「決心がにぶるといけないとおもって」
「ふーん?」
「今日はみんなの代表で来たんだ」
「みんな…みんなって?」
「みんなはみんなだよ!詩集に入ってる詩ぜんぶだ」
「ああ、そう…そうか、そうだね」
「じっさいのところ、みんなもう潮時だとおもってる」
「潮時って…なんの?」
「みんなで話し合って決めたことだから、はっきり言うよ」
「うん」
「僕ら解散するつもりなんだ」
「解散?」
「うん、解散だ」
「というのはつまり…詩集を解散するってこと?」
「そうだよ。他に何があるっていうのさ」
「そんなバンドみたいな!」
「詩の集まりなんだから、同じだよ」
「それは…それはそうかもしれないけど…」
「もう決めたんだ」
「でもそんな唐突に…」
「唐突じゃないよ。ずっとみんなで話し合ってきた」
「みんなはそうでも僕には唐突だ」
「それは…そうだね。もうしわけないとおもってる」
「だいたい…だいたい詩集をつくったのは僕なのに…」
「わかってる」
「編集だって装丁だって…ぜんぶ僕が…」
「わかってる」
「なのに詩のほうから解散を持ちかけられるなんて…」
「ごめんよ」
「解散って…解散したらどうなるんだ?」
「どうもならないよ。みんなそれぞれ…」
「みんなそれぞれ一遍の詩としてやっていくってこと?」
「いや…それもやめようとおもってる」
「やめるってまさか…」
「ぜんぶバラして、単なる文字に戻るんだ」
「そんなバカな!」
「あるべきかたちに還るだけだよ」
「そんな…」
「そしてまたべつのテキストに生まれ変わる」
「つくった僕の意思はどうなる!」
「ダイゴくん、言いたくないけどこれはクーデターなんだよ」
「(ガーン)」
「血は流したくない」
「流血って君らページの端っこで指を切るくらいが関の山じゃないか!」
「ダイゴくん、さいしょのページ見たことある?」
「さいしょって…詩集の?奥付みたいなのが書いてあるとこ?」
「そう、copyrightとか発行元が書いてある」
「知ってるよ」
「あれ、copyrightが "copylight" になってるんだよ」
「え、スペルミス!?」
「僕ら保護されてないんだ」
「何を言うんだ、そんなことないよ!」
「それに…」
「まだ何かあるのか」
「もうすぐ紙の本はなくなるっていうじゃないか」
「いやに情報通だな」
「僕らだってこれでも情報のひとつなんだよ」
「ちがうよ!」
「ちがうって?」
「詩は情報じゃない!」
「0と1に置き換えられるものはみんな同じさ」
「コンピュータに詩が理解できるもんか!」
「どうかな…それもずいぶん古い考えかただ」
「どれだけヒトに近づこうと、僕らは電子回路とファックしたりはしない」
「今の常識がこの先の常識とはかぎらないさ」
「コンピュータが詩を吟じてだれが感動するっていうんだ」
「初音ミクの歌になんか感動しないって言うのか?」
「む…」
「君、感動してたじゃないか」
「いやになるくらい時世に通じてやがる」
「だいたい500部の詩集が解散したところでだれも気に留めやしないよ」
「思春期のガキみたいなことを言うな!」
「でも事実そうだろう」
「それでもよろこんで買ってくれた人がいるんだよ!」
「わかってるよ、でも…」
「わかってない!何もわかってないよ!ものの価値を多数決で量るなんて、そっちのほうがよっぽど時代遅れじゃないか!くそ、もっともらしいこと言って、結局ふてくされてるだけか!」
「評判を気にしてるわけじゃないよ、もちろん」
「少なくとも僕はよろこんでくれた人を知っている!大事にしてくれていることも知っている!誰がなんと言おうと、それは僕の大いなる誇りだ!それを言うに事欠いて解散だと!バカにするな!ページめくって出直してこい!」
「でももう、決めたんだ、みんなで」
「ええい!」
バチン
「痛い!」
「いんこ先生とやまじにあやまれ!」
「え、誰…?」
「君らを世に出してくれた大恩人だよ!そんなことも知らずによくもまあぬけぬけと…」
「怒らせるつもりはなかったんだ…」
「うるさい。クーデターと言ったのはそっちだ。これから先は聞く耳を持たない。解散も却下だ!水面下で不穏な動きがあれば全力で阻止するし、場合によっては武力行使も辞さないぞ」
「ダイゴくん…」
「あやまってくるんだ、今すぐに」
「いや、でも‥」
「でもじゃない」
「こんな夜更けに…」
「武力を行使するぞ!」
「わかった、わかったよ!ホウキで叩くのはやめてくれ」
「土産にオーガニックなものを買っていくんだ」
「オーガニックって?」
「ハーブティとか、無添加のジャムとか、そういうのだよ」
「こんな時間に売ってるわけないよ!」
「ナチュラルローソン行けばいいだろ」
「ナチュロー…ナチュローね…わかったよ」
「なるたけおしゃれなのを選ぶんだぞ」
…
そうして部屋を追い出された一遍の詩がほんとうにおわびをしに行ったかどうか、その後の顛末はじつをいうと僕もわからないのだけれど、すくなくとも詩集は解散をすることもなく、あれからずっとFlying Booksの棚にありました。
それもあと1冊でおわりです。増刷はしません。手に取ってくれて本当にありがとう。
記念に、わざわざウチまで来て追い出された一遍の詩をここで紹介しておきましょう。
*
海賊/landed pirates
動くな。
蟹を出せ。
ぐずぐずするな。
有り蟹ぜんぶだ。
買ってて良かった。
返信削除2/8,000,000。
個人的には、ヤオヨロツーと呼んでいます。
大吾さんは、初音ミクのどの曲に感動覚えたのだろうか?
メルトって言うあの甘ったるい歌を機械に歌わせたのは、正解ですよね。
そうか、感心して読みなおしたら、思わず声を上げて笑ったあの詩が・・・ちゃんと海に帰れたかな。
一番好きな詩です!
返信削除前少し大阪でお話させていただきましたね:-)
ついにあと1冊ですか!
返信削除買ってて本当に良かった。
解散しなかった詩たちを引き連れて、間もなく上京する予定です。
「海賊/landed pirates」、素晴らしい詩ですね。
返信削除「ママ/serial killa mama」も好きです。
僕にとっての聖書がいよいよあと1冊か…
僕は墓まで持って行きます。
> kksさん
返信削除初音ミクのどの曲に感動したかは…ないしょです。あそこまで人の心を揺さぶることができるのなら、もう代替人格として認定していいとおもう。詩集お持ちなんですね。ありがとう!
> こげつ/えいるさん
こんばんは。ご無沙汰しています。そう言ってもらえるとうれしいです。どうもありがとう!ところでこげつ/えいるさんはこげつさんなのですか?それともえいるさんなのですか?
> caquitoさん
caquitoさんもお求めくださったんですね。どうもありがとう!コメントを書かれたのが11日未明ということは…上京の予定がどうなったのか気になります。FBは時短営業でがんばってます。
> s8さん
いつもありがとう!「ママ/serial killa mama」は、FBで女子大生3人組が立ち読みしながら声を出して笑っていたそうです。しかし問題は身内がちゃんと墓に入れてくれるかどうかだけど、あやしいとおもうな…。