2010年12月29日水曜日

幻の処女作「ジビエとしてのバニー・ガール」



なんだかずいぶんひさしぶりに甘鯛のポワレ教授が訪ねてきてこう言うのです。

「ダイゴくん、アレまちがってるよ」
「アレって何のことですか」
「あのーアレ、本、ピンキーの」
「ピンキー?」
「書いてたろ、説明書に」
「ちょっと待ってくださいよ、ピンキーって誰?」
「誰って…ピンクだよ」
「ピンカートン先生?」
「そうそう、他に誰がいるんだ」
「そんな呼び方されてるなんて知らないもの!」

※特装版をお持ちの方ならご存知かもしれませんが、甘鯛のポワレ教授は「象を一撃でたおす文章の書き方」の表紙に短い推薦文を寄稿しています。


「そうか、そりゃわるかったね」
「ピンカートン先生の本がどうかしましたか?」
「説明書に書いてある説明がまちがってるんだよ」
「ピンカートン先生のプロフィールってことですか?」
「あれ、3冊って書いてあったろ」
「『象を一撃でたおす文章の書き方』が3冊目ですよね?」
「いや、4冊目なんだよ」
「え、そうなの?」
「登場が1950年代ってあったけど、処女作はそれよりずっと前だよ」
「前ってどれくらいですか」
「1914年」
「大正時代じゃないですか!」
「ああ…そうかな?そうだね」
「いくら何でもそれはないですよ」
「いや、ホントなんだって」
「フーン」
「邦訳も出たんだよ、当時」
「邦訳!?」
「ふつうは考えられないよ、誰が読むかねあんな本を!」
「実物があるなら見てみたいですけど」
「だから持ってきたんだよ。うちの蔵からデッドストックが出てきた」
「わっホントだ、何コレ!」




いうわけで、ぶじアルバムをリリースすることができた今年もみなさまにはたいへんお世話になりましたの気持ちをこめて、ピンカートン先生による幻の処女作「ジビエとしてのバニー・ガール」を年賀状として抽選で15名の方に贈ります。

1. 氏名
2. 住所
3. アルバム「オーディオビジュアル」についての雑感

こんなんでもほしいと手を挙げてくれる物好きなかたは、上記の3点をもれなくお書き添えの上、dr.moule*gmail.com(*を@に替えてね)までメールをお送りください。

応募の締切は12月31日いっぱいまでです。あいかわらず、たた短期間ですみません。


 *


大袈裟でも何でもなく今年は、じぶんにできることのすべてをやり尽くした感があります。アルバムを手にしてくれて本当にありがとう!

個人的には、「オーディオビジュアル取扱説明書」(公式サイトからのダイレクト通販でおまけとして付いてきます)を作れたことが感慨深いし、詞を確認するためではなく、あくまで読むことに重点を置いたブックレットの書籍的アプローチにも満足しています。音さえあればという人には何の興味も持ってもらえないかもしれないけれど、実際にはあれこそ、僕が声を使って発信する以前からこつこつと培ってきた特質の最たるものだし、にもかかわらずそれを正面から自然に受け止めてもらえたことが心底うれしい。

それでなくとも僕のもつスキルは、ひとつひとつ個別に取り上げればどれもせいぜい二流どまりです。誰もやっていなかったことでは全然ないし、真似のできないことでもない。でもそれらをぜんぶ組み合わせたらそれなりになる、とは言っていいとおもう。「オーディオビジュアル」(とりわけ特装版)はその証明であり、そういう作品です。詩人と名のる人種のなかで、ここまで複合的におもしろいものをつくれるヤツがそうそういるものか!

 *

天狗になれるほどの規模では全然ないけれど、それでも地図に載らないちいさな無人島を地図に載せたというささやかな自負が、これまでやってきたことに対するいちばんの報酬です。

すくなくともフラインスピンレコーズ、ひいてはそのボス山路和広の株をちょっぴり上げることができたと胸を張って言えるし、充実度においては微塵もかなわない彼の人生に少しばかりの彩りを添えることができたというのは、僕にとって他とは比較にならない大きな自慢のひとつです。彼に「ダイゴ」と気安く呼ばれることの誇らしさ!

古川さんについては…どうかな、誰よりも僕のつくるものを理解して、期待もしてくれるぶん、株を上げるまでにはいたっていないような気もするけれど、でも心からよろこんでもらえたとおもうし、たのしんでくれました。大人になるということについて書いた「いまはまだねむるこどもに」は彼なくしては生まれなかった作品です。僕よりもずっと年配の人に「わかるよ」と頷いてもらえたときは僕が泣きそうになりました。

 *

そうしてもちろんこれらはすべて、あなたのおかげなのです。待っていてくれてありがとう。たのしんでくれてありがとう。

明日への活力がすこしでも満たされますように!

2010年12月25日土曜日

安田タイル工業のホワイトクリスマス2010




世界に向けて遠吠えを!

あるかなきかの零細企業、あの安田タイル工業の慰安旅行が数年ぶりに帰ってきた!

2008年5月以来となる今回は、ひとり1万円でなるべく遠くまで行き、かつ宿泊して帰ってくるというたいへん羽振りのよい旅行に専務と社員、総勢2名の大所帯でくりだします。

ローカル線の終点に行きたい、というタカツキ専務の意向によって白羽の矢が立てられたのは、群馬県は信越本線の端っこにある横川駅です。厳密に言うと終点ではないのだけれど、線路がそこで途切れているのはたしかだし、何より横川といえば駅弁「峠の釜めし」発祥の地として全国的に名の知れた駅でもあるので、期せずして目的ができたと満場一致で可決されたのです。よし、峠の釜めしを食べにいこう!


ただし、他に選択肢がなかったという絶望的な理由で、出発は12月24日の朝です。365日のうち、男ふたりで1泊するならこの日だけはなんとしても避けたいと誰もがおそれ、ことによると心がポキンと折れかねない危険な日取りだけれども、こればっかりはどうにもできません。この日しかないとなったらそれはもう、矢が降ろうと火の粉が舞おうとこの日しかないのです。メリークリスマス!


待ち合わせ場所に向かう途中の新宿駅構内



これからそれを食べにいこうというのに、集合する前からいきなり旅の目的を失う安田タイル工業


今しがた目にした重大な事実からは目をそらし、何ごともなかったかのように出発です。旅の予算としてひとり1万円の入った封筒が手わたされます。費用はすべて、ここからまかなわなくてはいけません。


新宿駅→横川駅 2,210円×2 残金15,580円(2人分)


乗りました。


着きました。


食べました。

峠の釜めし 900円 + 玄米弁当 500円 残金14,180円(2人分)


目的を果たしたあとはこれといってすることもないので、道すがら目にした柚子や金柑や柘榴を電光石火で口の中へと放りこみ、河原に降り立つカワセミを愛で、猛ダッシュで逃げるサルを追い、コウモリの変な鳴き声に驚きながら、地図もないままてくてくとあたりをうろついて回ります。


「む、あのカッコいい山は何だ」
「あれは妙義山です、専務」
「なんてカッコいいんだ。近くまでいこう」

道中見かけた看板(宿泊するのはここではありません)



(何の関係もないニューヨークを持ち出してきたばかりか、わざわざ和訳してあることに立腹して罵倒し始める安田タイル工業の面々)


山の中腹にある妙義神社



「おや、登山道入り口がある」
「いま15時半ですから、これから登ると下山は不可能です」
「うむ…」
「その証拠に僕ら以外誰も見当たりません」
「誰もいないな」
「夜は氷点下になるので野宿は死を意味します」
「うむ、死だ」
「でも登りましょう」
「登ろう」

装備と呼べる装備はほぼ皆無にかかわらず、何のためらいもなく上級者コースを行こうとする安田タイル工業(専務にいたっては家からここまでパーフェクトに手ぶらで来ています)


上級者コースは傾斜が急すぎるため、あちこちに鉄の鎖が打ちつけられているのです。

「専務」
「何だ」
「ちらほら降ってくるこの白いものは何ですか」
ケセランパサランだろう」
「専務は物知りだなあ」


この鎖を登ると




この状況からするとあんまり信じたくないので必死に現実から目を背けていたのだけれど、残念ながらここまで来てとうとう、さっきからちらほらしていた白いものが雪であると認めざるを得なくなりました。しかもみるみるうちに吹雪いてきて人生のカラータイマーがピコンピコンと点滅を始めています。果たしてぶじ下山できるのか、頼んでもいないホワイトクリスマスに文字どおり凍りつく安田タイル工業の面々。

(お忘れかもしれませんが、この日はクリスマスイブです)

それではここで、ふりしきる雪のなかタカツキ専務が世界に向けて放つ渾身の遠吠えをご覧ください。



このあと逃げるようにして山を降りたらいつの間にか雪もやんでいたので、ホッとして神社近くの道の駅に立ち寄り、おいしいおやつを買いました。

おやき(3個入) 130円 残金14,050円(2人分)

とは言うものの、この時点ですでに日はとっぷりと暮れており、道の駅の従業員にも「この時間になるとバスはありません」と気の毒そうに言われてしまったため、しかたなく街灯すらない真っ暗な山奥の国道を麓の駅に向かって約5キロ、ひたすらてくてく歩きつづけることになります。

松井田駅→北高崎駅(宿の最寄り駅) 400円×2
寒すぎて飲んだ缶コーヒーと缶スープ 120×2 残金13,010円

北高崎から宿に向かうとちゅうのマクドナルドでビッグマック 200円×2 残金12,610円(2人分)


 *


ようやくたどり着いたこの日の宿もまた、驚異的なコストパフォーマンスを誇るハイライトのひとつと言えましょう。何しろコーヒー飲み放題、天然温泉付き、朝食付きでひとり2,400円です。なぜそんなに安いのかというと


シングルベッドがひとつしかない、いかにもクリスマスのために設定されたカップル専用直球プランだからです


宿泊代 2,400円×2 残金7,810円(2人分)


しかし安田タイル工業の社員はみな恋人同士のように仲が良いので、そんなことは気にしません。温泉までついてそれ以上何を望むというのだ。

さっそくフロントに赴いて温泉のことを聞くと、地図を指で指しながら「こちらの国道を南にまっすぐですね、お車で10分ほど…」



車で10分?



隣接しているとばかり思いこんでいた温泉は2駅先、およそ5キロ南にあることが判明、徒歩なんですとは言えずに平静を装いながら「ありがとう」と礼を述べてホテルを後にする安田タイル工業の面々。15キロ以上歩いてヘトヘトにも関わらず、風呂のためにさらに5キロの道のりを歩く羽目になるとは誰に予想できたでしょう。(節約のため、おいそれと電車にのることもできないのです)


でもさすがに帰りは電車にのりました。

夕食(屋台のラーメン) 900円+870円
電車賃 140円×2
缶ビール2本、ワイン、肴3種 950円 残金4,810円(2人分)


このあとのことはあんまりおぼえていないのです。


クリスマス当日の朝、ホテルの部屋からみた景色


この日はとくにハイライトもないので、電車にのって下車せずにひたすら遠回りをして帰りました。(もうこのへんで書くのがいいかげんめんどくさくなっています)

群馬に行ったはずなのに、帰りの車窓から千葉にあるディズニーランドを眺めているのはなぜなのか…


立ち食いそば(昼食) 480円×2 
菓子パン(おやつ) 70円 残金3,780円(2人分)

高崎駅→新宿駅 1,890円×2 残金0円(2人分)

歩いた距離 約25km


そして新宿着


♪パ〜パラララ〜(エンディングテーマ)


飽くなき探究心と情熱を胸に、安田タイル工業は今後も逆風に向かって力強く邁進してまいります。ご期待ください。


安田タイル工業プレゼンツ「聖夜の正しい過ごしかた」 終わり

2010年12月20日月曜日

真心をこめて、とりとめのないことを



何にも書くことがないけれど、自分のことだしそう邪険にするものでもないと思い直してとりあえずキーを叩き始めています。

と書いた途端にきもちが散ってなんとなくベランダに出たら鉄柵の陰が足元にくっきりと浮かんで月がとても明るい。


そういえばカメラの中をのぞいたらこんな写真がありました。


なりふりかまわぬ善意に目頭が熱くなります。


 *


ダイゴくん最近なにしてるの?と聞かれて顔を紅潮させながら「何もしてないよ!バカ!」と激昂する12月です。それは僕だってワイングラスを片手に「そうだね…最近は事業の立ち上げに追われててんてこまいさ」とか、「そろそろ新しいボムをドロップするつもりだ…ヤバいのができたと確信している。期待してくれ!」とかそれっぽいことを言えたらおもしろいとおもうけど、残念ながら僕の人生は大多数の人がそうであるように、とくべつ劇的なわけではない。

その代わりというかなんというか、僕の周りにいる人は僕の100倍劇的な生き方をしていて、そういう意味ではあんまり飽きることがありません。先日も僕より一回り年上の人妻が抱えるじつにハードな悩みを思いがけず聞かされる羽目になって、答えの出ない問題をいっしょになってあーでもないこーでもないとひねくり回していたくらいです。

そんなの僕に話したってどうにもならないとおもうんだけど、どういうわけか昔から一夫多妻的感覚とか性的つまみ食いの極端な事例をちょくせつ耳にする機会が多くて、そのたびに「ふーむ」と腕を組みながら絶句しています。

大人になればなるほど愛情とは理性から切り離された独立機関だということが実感としてよくわかってくるので、どのみち打てる手なんてそんなに多くないのです。大抵の場合は当の本人がそのことをいちばんよくわかっているし、話すだけ話して、聞くだけ聞いたらあとはお互いチャーリーブラウンみたいに「sigh!」と弱々しくつぶやくほかない。

ちなみにそういう話の着地点として「ダイゴくんを好きになればよかった…」的なことを昔はよく言われたりしたんだけど、実際好きになられたことはかつて一度もありません。けしからん上にまったく人をバカにしている。ちょっとくらい好きになったってバチは当たらないってのに!

しかしなんだって僕はこんな話をしているのだ?


 *


ひとつお詫びをしなくてはいけません。というのもこのブログ、スパムを自動検出してくれる機能がついてるんだけど、ときどき善意のコメントまでポイとそっちに放り込まれてしまうようなのです。こないだ何気なく見てみたら一件まぎれこんでいるのがあってビックリしてしまった。タカヤさん、せっかく書いてくれていたのに、気がつかなくてごめんなさい。意図した操作では決してありません。いつもありがとう!


 *


ついこの間オープンしたタカツキのタカツキによるみんなのためのデジタル商店がなんだか知らないうちに充実しています。100円玉1枚と引き換えにmp3をダウンロードできるたいへん先進的なシステムです。僕も参加した古めかしい音源まで引っぱりだされていて、鼻血が吹き出ました。2枚目のアルバムを出すよりもずっと前の話ですよ!リンクしようとおもったけど、なんとなく気が削がれてしまった。困ったことです。

でもzoeくんが自身のボンヤリした父親っぷりをいつものように淡々とラップする「KanKanKan」は胸を打つ良い曲なので、ぜひ聴いてください。等身大の父親とはこういうものだとつくづくおもう。わかっているはずなのに、何度聴いても涙腺がゆるみます。こどもの手を引いて歩く男の背中は、どのパンチラインよりもはるかに説得力がある。


 *


それから、いいかげんほとぼりも冷めたダイゴくんのDJですけれども、結論から言うと彼はまたしてもプレイ中にレコードを止めました。そんな経験が今までに2回あるというのはこうなるとむしろ一周して自慢になるような気がしないでもありません。もしここをお読みでかつあの瞬間に居合わせた人がいらしたら、逆にいいものを見たと気持ちを切り替えてください。よもやあの悲劇がくり返されることになろうとはまったく、思うようにはいかないものです。


えーと、そういうわけで僕からは以上です。近況報告でもないばかりか、どこを切り取ってもあまりにとりとめがなくて我ながら憮然としてしまうな。

2010年12月7日火曜日

彼女は本当に今コスタリカにいるんだろうか



エドガー橋でひとり暮らしをしている僕の伯母は歯切れがいいというか遠慮がないというか、先日もケータイに電話してきてこう話すのです。

「あのね、あんた絵すきでしょ。カンディンスキー展の招待券あるんだけどね、もってく?」
「あ、じゃもらいにいくよ」
「そう。じゃわるいんだけどあたしもいろいろと忙しいからさ、あんたと話してるヒマないの。週明けコスタリカ行くから
「コスタリカ?」
「だから券だけ取りにきて、そんでさっさと帰ってくれる?

伯母はそろそろ70に手が届こうとしているはずだけれど、日常会話においてこれほど身もふたもない人を僕は他に知りません。コスタリカってなんだ。

そうしてじっさい訪ねてみたらさすがに玄関先で追い払われるようなことはなかったけれど、その代わり「そろそろ帰ってくれる?」と2回言われました

彼女は本当に今コスタリカにいるんだろうか?


 *


ジリリリン
ガチャ
「もしもし」
「ああ、ダイゴくん。24時間ヒマなダイゴくんですか。ピンカートンだけど」
「なんて感じのわるい電話だ」
「いま真珠貝亭にいるんだけど、来ない?」
「行きません」
ガチャン

ジリリリリン
「うるさいな、もう。もしもし」
「あー、もしもし?」
「あ、カズタケさんだった」
「なに?」
「何でもないです」
「あのさ、8日のイベントなんやけど」
「SUIKAが出るやつでしょ」
「そうそう、ダイゴくんDJやらへん?」
「ははははは」
「ははははは」
何言ってるんですか?
「いやいやちゃうねん、じつは…」

というわけで、SUIKAではなくなぜかイベントスタッフ直々の無謀なご指名によって、SUIKA出演のイベントで好きなレコードを回していいことになりました。はて…

さすがにちょっと不安になり、「僕かつてプレイ中にうっかりレコードを止めちゃって、いいかんじに揺れていたフロアを沈黙で凍りつかせたことがあるんですけどそれでもいいですか」という旨のメールを送ったら「たのしみにしています」というたいへん肝の座ったメールが返ってきたので、どうやらまちがいではないらしい。

そんな冗談みたいな話はさておき、12月8日のSUIKAライブは凄まじいまでのゲスト陣にみな目を丸くすること必至です。そのへんのこと僕ぜんぜん聞いてなかったので、背中にいやな汗をかきはじめています。こんな豪勢な人たちの前でゆるゆるレコード回すなんてやだ!


12月8日(水)
PLAY GROUND@代官山 晴れたら空に豆まいて
      開 18:00演 19:00 
      前 2,800当 3,300 それぞれ+1D 500
           
=出演者= SUIKA with Special Guest
      otouta
      ALOHA
      小林大吾 (DJ)

=Special Guest=
      サイプレス上野
      KEN THE 390
      TARO SOUL
      抹 from Pentaphonic
      らっぷびと
      ILL SGIMOTO from COCKROACHEEE'z



とりあえずこの日のDJについては忘れてください。僕がフロアで聴きたいレコードを持ってくるくる回しに行くだけです。空気の読みかたも知りません。

それにしてもライブアクトではなくレコード回転係として参加するあたりがじつにダイゴくんらしい。

2010年12月1日水曜日

6粒の豆がどうしたというんだ



キッチンに立つ足元のちょうど指先あたりに、コーヒー豆が6粒ころがっているのです。まるで誰かがそこに並べて置いたかのように、2cmから3cmくらいの間隔を空けて、豆がつぶつぶと点線を描いている。

いちおう言い添えておくと、じぶんで並べたわけではありません。いくら僕でもコーヒー豆を足元につぶつぶ並べて愛でるほど酔狂ではない。気づいたらそこにあったのです。



なんだか妙なことではあるけれど、それはいい。豆だってつぶつぶころがることはある。人間だっておいしいお店にはすすんで行列をつくるんだから、床におちた豆がまっすぐ列をなしたからといって何を意に介することがあるだろう?空から見れば人も豆も区別なんてつかないし、そう考えるとまァそんなこともあるかな、という気がしてくる。おかしくはない。じっさい、現実は時として空想をひょいと飛び越えることがあるものです。

問題は、数日前までこれが4粒しかなかった、という点にあります。なぜ気づいた時点で拾わずにころがったままにしておいたのかという問題もあるにはあるけれど、ずぼらの一言で片がつく話でもあるし、然るべきときには一掃されるとわかっているのだから、とりあえずここでは棚に上げておきましょう。床に豆が4粒ころがっていても、日々の営みには何の影響もない。豆には豆の事情もある。

ところがそれから2日ほどたってふと足元に目をやると、4粒が5粒に増えているのです。何度見てもたしかに、4粒目の右隣に同じような間隔を空けて、ちょこんと1粒が仲間に加わっている。アッハッハ!ふえてる!

とはいえさいしょの時点で数えまちがえていた可能性も否定できないので、ここでもやっぱりそのままにしておきました。隔たりのある別の世界に憶断で口をはさんではいけない、というのは大人としてたしなむべきマナーのひとつです。うたがいなく、豆には豆の事情がある。

しかし冒頭にも記したように、いまここには6粒の豆が並んでいます。豆には豆の事情があるといっても限度があるし、これはいささか奇妙な事態です。一度は気のせいにできても二度目はさすがにできません。いくら科学に疎いといってもウナギが泥から自然発生すると真剣に考えたアリストテレスの時代から、二千年以上の月日が経っているのです。無から有は生まれないということくらい、僕にもわかる。どうして床におちた豆がひと粒ずつ増えていくのか?それもきれいに直列をなして?

古代の人ならここに何がしかの吉兆を読み取ることもできるんだろうけれど、いかんせん現代人はそのへんの感受性が鈍くていけません。これがある種のメッセージなのだとしたら、僕はこの直線につらなって増えゆく数粒の豆から何を読み取ったらいいのだろう?

とりあえず、左端の豆からひと粒ずつ名前をつけることからはじめました。
1粒目:傲慢
2粒目:嫉妬
3粒目:憤怒
4粒目:怠惰
5粒目:強欲
6粒目:暴食

7粒目がころがり出たら、「色欲」と名付けるつもりです。