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2009年5月28日木曜日
ブログの所有者を探して回るブログについて (4)
<前回までのあらすじ>
失踪したダイゴくんを探しにマンションをおとずれたムール貝博士とピス田助手。いろいろあってまだ見つかってません。
「こういうのを…」
「なんですか」
「茶番と言うんだ」
「茶番の権化が何をおっしゃる」
「いったいいつまでひっぱる気なんだ?」
「大風呂敷をひろげることはできても縛ることはできない男ですからね」
「だれの話だ」
「ダイゴくんですよ」
「ああ…」
「どうでもよさそうですね」
「そんなヤツもいたな…」
「まだブログを読んでくれている人はいるんですかね」
「知ったこっちゃないよ」
「そう突き放すもんじゃないですよ」
「もともとムリがあったんだよ」
「何がです?」
「存在じたい」
「だれの?」
「ダイゴくんのだよ」
「いくらなんでも飛躍しすぎじゃないですか」
「空を飛ぶのはいいものだ」
「ふつうの人は飛べないですけどね」
「何の話だ?」
「飛躍する結論の話ですよ」
「結論が空を飛ぶものか」
「博士が飛ばしたんです」
「人の意見を風船みたいに言うな」
「博士が言い出したんですよ」
「そうだったかな」
「そうですよ」
「ところであいつは何をしてるんだ」
「宝くじ売り場の彼ですか」
「長い名前だな」
「聞いとけばよかったですね」
「黒板を持ち出して何か講義してるぞ」
「生徒はあの美女です」
「キノコだろう」
「それを言うと彼が怒るんですよ」
「地面に生えてるんだからしかたないだろう」
「もう引っこ抜いちゃいましたよ」
「たしかに引っこ抜くとキノコというより小娘にみえる」
「すっぱだかなのが玉にキズですけどね」
「だからアンジェリカに頼んだんだ」
「何を?」
「服だよ」
「あの娘の?」
「そうだよ」
「博士がそんな慈善を施すなんて!」
「おまえはわたしを何だとおもっとるんだ」
「さっき電話してたのはそれだったんですね」
「苦労した」
「そうでしょうとも」
「ちっとも話が通じんのだ」
「何て話したんです?」
「キノコの服が必要だと話した」
「そりゃ頭にくるでしょうね」
「見たままを話したまでだ!」
「適切なコミュニケーションにはオブラートってものが必要なんですよ」
「とりあえず大事な話があると言っておいた」
「だいじな話?」
「ダイゴくん捜索の全権を委任する」
「承知したんですか?アンジェリカがそれを?」
「まだ話してないからな」
「なるほど…それで合点がいきました」
「なんの合点だ?」
「こっちの話です」
「で、あいつは小娘に何を講義しとるんだ」
「彼が彼女の身柄を保護することに関しては合意したみたいです」
「ほう」
「ただ…」
「なんだ」
「彼が具体的に何を望んでいるのかそれを知りたいみたいで」
「キノコがか?」
「あの娘がです」
「キノコじゃないか」
「いいですけどね、べつに」
「宝くじは何を望んでるんだ?」
「ふつうに考えれば異性間交遊でしょうね」
「そう言えばいいじゃないか」
「その異性間交遊について説明してるんですよ」
「黒板を持ち出して?」
「そうです」
「あいつはバカか?」
「さいしょに『キス』って言ったのがまずかったみたいですね」
「中学生か!」
「で、『キスって何?』というもっともな疑問を」
「ぶつけられたわけだな」
「そのようです」
「あいつはバカか?」
「で、その説明をするわけですよ」
「ほう」
「くちびるとくちびるをかさねるのがキスだと」
「哀れな男だな」
「だいたいにおいてそういう生きものですからね」
「それで?」
「で、『それのどこが楽しいの?』というもっともな疑問を」
「なるほど。そりゃもっともだ」
「くちびるをかさねることがなぜ楽しいのか?」
「だれも考えたことがないだろうな」
「そうなんですよ」
「宝くじは何て答えたんだ?」
「『みんなやってるから』って」
「にくめない男だ」
「そこから話が入り組んでいくんですよ」
「ほう」
「『みんなって誰?誰がはじめたの?』」
「それで黒板が出てくるわけか」
「いまネアンデルタール人の花葬を説明してるところです」
「ずいぶん遡ったな」
「霊長類としての習性が愛情表現にシフトしていく過程を紐解いてるんですよ」
「気の長いことだ」
「お似合いですよ、なんだか」
「ちょっと何これどういうこと?」
「アンジェリカ!」
「いいタイミングだ」
「なんなのこの熱帯雨林」
「それはこっちが聞きたい」
「前来たときはこんなのなかったけど」
「そりゃ何だっていつも同じとは限らんさ」
「とりあえず服もってきたけど」
「助かるよ」
「キノコがどうとかってちっとも意味が」
「それは気にしないで」
「キノコはキノコだ」
「何なのキノコって」
「シイタケとかマイタケとかタケウチカズタケとかそういうのだよ」
「博士、タケウチカズタケは人ですよ」
「で、だれに着せればいいわけ、これは?」
「あっちにいるよ」
「ほら、女の子がいるだろ」
「キノコだよ」
「博士はだまっててください」
「なんかふたりいるけど」
「もう片方は気にしなくていい。あれは宝くじだ」
「宝くじ?」
「博士はだまっててください」
「何してるのアレ?」
「交渉というか講義というか」
「よくわかんないけどあの娘に着せればいいのね?」
「イエス」
「ていうか何ですっぱだかなの?」
「それを話すと長くなるんだよ」
「キノコだからだよ」
「博士はだまっててください!」
「あー!!!」
「なんだなんだ」
「どうしたアンジェリカ」
「スナーク!」
「おや」
「なんだ?」
「知り合いだったみたいですよ」
「あの宝くじとか?」
「あ、気づいた」
「逃げたな」
「待ちなさい!」
「あ、ちゃんとあの娘も連れてった」
「抜け目がないな」
「いいんですか?」
「何がだ」
「追っかけてっちゃいましたよ、アンジェリカ」
「知ったことか。どうしろっていうんだ?」
「そうじゃなくて、交代してもらうんでしょ?」
「そうだった!」
つづく
2009年5月25日月曜日
ブログの所有者を探して回るブログについて (3)
<前回までのあらすじ>
失踪したダイゴくんを探しにマンションをおとずれたムール貝博士とピス田助手。ドアをあけるとそこには鬱蒼と生い茂る熱帯雨林が広がっていた。暑苦しいジャングルをひたすらかきわけ、地面から生える美女やローカルな自販機、伝書鳩による奇妙な告知に翻弄されながら進む2人の前に、果たしてダイゴくんは姿を現すのか?
「博士ー」
「…」
「博士ー」
「…」
「あ、いた!」
「…」
「探しましたよ!急にいなくなるんだから」
「徐々にいなくなっても結果は同じだろうが」
「何してるんです?」
「スクラッチだ」
「レコードですか」
「銀はがしだよ」
「宝くじじゃないですか。あっこんなところに売り場が」
「今なら当たりそうな気がする」
「ということは…」
「こんにちは」
「人が居る!」
「売り場なんだから当たり前だろう」
「部屋のなかに宝くじ売り場があるのは当たり前じゃないですよ」
「部屋のなかに熱帯雨林があるのはどうなんだ」
「しかし何もこんなときに…」
「こんなときだから当たる気がするんだよ」
コリコリコリ
「1000円当たった」
「あの…」
「こっちははずれだ」
「博士っておっしゃいました?」
「…」
「博士!売り場の彼が呼んでますよ」
「なんだ」
「博士ですかって」
「あ、これ1000円当たりました」
「1000円ですね。ひょっとしてムール貝博士ですか?」
「はて。どこかでお会いしましたか」
ゴソゴソ
ポチリ
「わたしはダイゴくんです」
「くそ、7枚目もはずれだ」
「博士、博士」
「なんだうるさいな」
「売り場の彼がとつぜん別人格を主張し始めましたよ」
「わたしはダイゴくんです」
「いいじゃないか。誰にだって主張する権利はある」
「わたしはダイゴくんです」
「わかったわかった!あとにしてくれ」
「わたしは…」
「うるさい!」
「こういうとき博士はたのもしく見えるな」
「いいからあんたは1000円を払え!」
「いきなりみみっちくなった」
「ピス田」
「はい」
「M79をよこせ」
ガチャコン
「待ってください!」
「なんだ喋れるんじゃないか」
「喋れます、もちろん」
「さっきの声はなんだ」
「ムール貝博士がきたらこのボタンを押せと言われたんです」
「どれ?」
「これです」
「この赤いほう?」
「そうです」
ポチリ
「わたしはダイゴくんです」
「なるほど。こっちの青いのは?」
「これは押さないほうがいいとおもいます」
「なんで?」
「どうしても納得してもらえないときに押せと言われました」
「押してみよう」
「あ、やめたほうが」
ポチリ
「このいんきんたむし!」
「ぐわぁ」
「博士!」
「だから言ったのに…」
「博士!」
「…」
「ぜんぜん起きない。ものすごい破壊力だ」
「押すほうだってつらいんです」
「あれ?ちょっと待てよ」
「…」
「ひょっとしてさっきの立て札からこの売り場までが」
「500メートルです」
「ここのことを言ってたのか!」
「立て札が案内してた場所ってことなら、そうです」
「じゃダイゴくんはもうここにはいない?」
「よく知りません」
「知らないわけないでしょう?」
「知らないんです」
「でも…」
「僕はただここにいてムール貝博士を追い払いさえすれば」
「…」
「あの美女を好きにしていいって」
「そう言われたの?」
「そうです」
「あの美女って…あの美女?」
「向こうに生えてた彼女です」
「だってキノコでしょう?」
「ちがいますよ!」
「でも生えてたよ」
「生えてるからってそれが即キノコを意味するわけじゃないですよ」
「そりゃそうだけど…まあいいか」
「そういうわけなので…」
「?」
「そろそろお帰りください」
「何言ってるんだ!」
「博士もちょうど倒れたところだし」
「帰り道なんてわかりゃしないよ!」
「こっちに非常口があるんです」
「非常口があるからって…え?」
「すぐに出られますよ」
「非常口があるの?」
「お帰りいただけますか」
「ここまで来てそれはないけど、でも…」
「帰ってくれないと僕が困るんです!」
「こっちだって困ってるんだよ!」
「これじゃ何のためにここにいたのかわからない」
「ああそうか。いや彼女は好きにしていいからさ」
「あ、それなら」
「非常口があったのか…あっ」
「コーラ飲みます?」
「遠慮しとくよ。そうか、さっきの彼女か」
「彼女がどうかしましたか」
「うかつだった。彼女に訊くべきだったんだ」
「ちょっと待ってくださいよ!」
「ちがうよ、ていうか何もちがわないけど」
「話がちがうじゃないですか」
「ちがわないってば!いやちがうけど…あれ?」
「帰ってください!」
「いや彼女をどうこうってわけじゃないよ、ただ何か知ってるかとおもって」
「あ、それなら」
「でも困ったな、どうやってあの場所まで戻ればいいんだ?」
「僕が知ってます」
「そうか、そりゃそうだ!それじゃ…」
「?」
「…」
「どうしたんですか」
「いや、あまりの回りくどさに吐き気がしただけだよ。それじゃ行こうか」
「博士は?」
「大丈夫、次回になったらちゃんといるから」
つづく
2009年5月22日金曜日
ブログの所有者を探して回るブログについて (2)
<前回までのあらすじ>
失踪したダイゴくんを探すムール貝博士とピス田助手。部屋のドアをあけるとそこには鬱蒼と生い茂る熱帯雨林が広がっていた。
「博士、ハトですよ」
「マンションにハトなんか珍しくもない」
「ここが本当にマンションならね」
「降りてきたぞ」
「足になんか付いてますね」
「伝書鳩か」
「そうみたいです」
「だれだ?」
「ちょっと待ってください。えーと」
「ピス田」
「なんです」
「いや、なんでもない」
「そうですか」
「で、だれだ?」
「けっちゃんですね」
「ケイジャン?」
「パーカッショニストの高橋結子女史ですよ」
「?」
「今やほうぼうでひっぱりだこのトップミュージシャンです」
「ああ、けっちゃんか」
「知らないのにそのまま進めようとしてますね」
「気を遣ってやってるんだ!」
「そのセリフ、ダイゴくんが聞いたらびっくりしますよきっと」
「だいたい誰宛なんだそれは?」
「そりゃダイゴくんじゃないですか」
「ずいぶんのんきな通信手段だな」
「熱帯雨林とはいえ、ダイゴくんの部屋でもあるし」
「意味がわからん」
「あ、これ僕ら宛ですよ!」
「なんだと?」
「あ、そうかそうかなるほど…」
「ひとりでうなずくな、気味がわるい」
「告知なんですよ」
「ひとくち?」
「ひとくちで言うと告知です」
「なんの?」
「明日、渋谷でワンマンライブがあるんです」
「だれの?」
「けっちゃん率いるパーカッショントリオ、Asoviva! のです」
パーカッショントリオ Asoviva! ワンマンライブ
imaginary numbers vol.2 〜 108年 vs 108億光年の彼方
5月23日(土)@渋谷・7th FLOOR
開場18:00 / 開演19:00
前売¥2,000 / 当日¥2,500(ドリンク代別)
出演:Asoviva!(高橋結子、朝倉真司、中北裕子)
ゲスト:笠原あやの(cello)
「あれ?なんかCDが入ってる」
「ピス田、さっきのマックスコーヒーよこせ」
「いらないっていうから飲んじゃいましたよ」
「誰がいらないと言ったんだ!」
「あ、Asoviva! のライブ盤だ。明日売るのかな」
「ちょっとさっきの自販機まで行ってくる」
「あれ?」
「そこにいろよ」
「博士!ちょっと博士!」
「のどが渇いてるんだよ」
「見てくださいこれ」
「CDなんか興味ないよ」
「ちがうんです、ほら」
Asoviva!
「imaginary numbers vol.1/ LIVE RECORDING at Obi」
¥1,000(ライブ会場でのみ販売)
1. ダーウィン
2. 耳の洞の主人
3. 100m自由形
4. 小人から聞いた話
5. 風の紋
6. 遠い昔の
「これがどうした」
「ダイゴくんのデザインじゃないですか」
「なんだと!」
「こっちがこれだけ必死になって探し回ってるのに…」
「アイツはいったいどこで何をしとるんだ?」
「でも500m先にいるってさっき立て札があったじゃないですか」
「そこにいればいいがな」
「ここまで来てそんなこと言わないでくださいよ!」
「どうせマネキンだ」
「何のために足下のわるい熱帯雨林をこんな奥地まで…」
「出口がわからんからだ」
「そうでした」
「どのみち先にすすむしかないんだよ」
「ライブ行きたいですね…」
「ここから出られたらな」
つづく
2009年5月19日火曜日
ブログの所有者を探して回るブログについて (1)
ガチャガチャ
ギィ
「ここがダイゴくんの住処です」
「ほう…」
バタン
「なんで開けたそばから閉めるんです?」
「装備不足だ」
「装備って…マンションですよここは」
「鬱蒼としてたぞ」
「人の部屋なんてそんなものですよ」
「雑然じゃなくて鬱蒼としてるんだぞ!」
「似たようなものだとおもいますけど」
「明らかに似て非なるものだ、それは」
「さっきまで腹黒い笑顔でたのしそうにしてたじゃないですか」
「『おもしろい』と『面倒』は紙一重なんだよ」
「考えすぎですよ、だってマンションなんだから」
「密林みたいなにおいのするマンションがあるか」
「でももう、来ちゃったんだから」
「そっとしておいてやれ」
「そういうわけにもいかないんですよ」
「川底に沈んだ汚泥を今さらひっかき回してどうする」
「だったらなおさらきれいにしないと」
「なんでそんなドブさらいみたいなことをしなくちゃならんのだ!」
「環境の美化というやつですよ」
「率先して汚してきたヤツがよく使う逃げ口上だな」
「このままじゃブログの維持もままならないんです」
「質問箱があったじゃないか」
「どこから手をつけていいのかわからなくなったんでしょう」
「でくのぼうめ」
「まあまあ、あとでアレあげますから」
「アレって何だ」
ひそひそ
「しかたない。だが危険と判断したら即退室するぞ。いいな」
「ええ、ええ。おおせのとおりに」
ギィ
「ひんやりしてますね」
「困憊した現代人が泣いてよろこびそうな清涼感だ」
「湿度が100%こえてますよ」
「リフレッシュにもほどがある」
「観葉植物ですかね」
「鉈で伐採するような観葉植物にはお目にかかったことがないな」
「たしかに歩きにくいですね、ちょっと」
「ずいぶんりっぱな生態系だ」
「あっ」
「なんだ」
「小川ですよ…」
「さらさら流れてるな」
「水源はどこでしょうね」
「雨だろう」
「外、晴れてましたよ」
「関係ないさ」
「部屋のなかでカサが必要とは思いませんでしたね」
「おや、いまの音はなんだ」
「鳥の鳴き声みたいですね」
「鳥ってあんな断末魔みたいな鳴き方してたか?」
「鳥だって絶望したらあんなかんじになりますよ」
「気が滅入る」
「晴れやかだったためしがあるんですか?」
「こりゃ完全に熱帯雨林だな」
「マンションの一室とはおもえないですね」
ズゴン
ドカン
バラバラバラ
ドサドサドサ
「わあ」
「ふせろ」
「部屋の中でM79をいきなりぶっ放すなんて!」
「先手必勝だ」
「それのどこが装備不足なんですか」
「この程度の砲撃じゃ威嚇にしかならん」
「グレネードランチャーですよ」
「西部警察ならオモチャだこんなもの」
「しかも部屋があんまりこわれてない…」
「だから言ったろう」
「ダイゴくんに当たってないでしょうね」
「ああ、忘れてた」
「人ん家なのにじぶんのことでせいいっぱいですからね」
「しかしまあ当たったところであんまり意味もないだろう」
「いままで何度となくそんな目には遭ってますしね」
「やれやれ!反応を探りがてらちょっと一服しよう」
「そうですね」
「やみくもに突き進んだところでどうにもならん」
「せめて何か手がかりがほしいところですね」
「ケータイは持ってるか?」
「持ってます…でも圏外じゃないですか?」
「貸せ」
「博士のはどうしたんです?」
「こないだちょっと折檻したら無期限のストライキに入った」
「こわしたんですね」
「季節外れの春闘だ」
「こわさないでくださいよ」
「こわしたことなんかない」
「あれ?アンテナ立ってる」
「アンジェリカの番号は?」
「入ってますよ」
「そうか。ならいい」
「どうしたんです急に?」
「入ってればいい。念のためだ」
「電波は正常に入るんだ…」
「ピス田、ちょっと缶コーヒー買ってこい」
「またそんなムチャを言う!」
「ムチャじゃない、そこに自販機があるだろう」
「部屋の中に自販機なんか…ありますね、たしかに」
「ルーツの微糖な」
「部屋の間取りが気になる」
「日本は自販機大国なんだよ。おまえも好きなの飲め」
「わかりました。ルーツの微糖ですね」
「まちがってもマックスコーヒーだけは買ってくるなよ」
ガサガサガサ
チャリン
ピ
ガタン
「博士、博士」
「なんだ。あっマックスコーヒーじゃないか」
「コカコーラの自販機なんですよ」
「このボンクラめ」
「この極限状況でマックスコーヒーの過剰な糖分はきっと役に立ちますよ」
「糖尿と引き換えにな」
「博士、そんなことより」
「そんなこととはなんだ!」
「向こうに美女が生えてます」
「糖尿のおそろしさをおまえは…なんだって?」
「向こうに美女が生えてるんです」
「キノコみたいに言うな」
「でもキノコみたいに生えてるんですよ。ほらアレ」
「ガキんちょにしか見えん」
「博士にかかれば誰だってガキんちょですよ」
「だからそう言っとるんだ」
「食用ですかね…」
「広義ならそう言えなくもないだろう」
「そういうなまめかしい話をしてるんじゃないですよ」
「無視して行くわけにもいかないな。おーい。ごきげんよう!」
「どなた?」
「しゃべった!」
「挨拶はすんだ。行くぞ、日が暮れると困る」
「なんだか頭がくらくらしてきましたよ」
「だから帰るべきだと言ったんだ」
「だってまさか熱帯雨林に美女が生えてるなんて思いもしませんでしたよ」
「猛獣じゃないだけありがたいとおもえ」
「服着てませんでしたね」
「キノコが服を着るわけないだろう」
「あれやっぱりキノコなんですか?」
「知らん。興味ないよ。ダイゴくんに聞きゃいいじゃないか」
「そうだ!すぐ忘れそうになる」
「引き返そうにももはや道がわからん」
「弱りましたね」
「それに…おや」
「どうしました」
「立て札だ」
←ダイゴくんこの先500メートル
「みろ!だから面倒なことになると言ったじゃないか!」
「何を今さら…。美女が生える部屋ですよ」
つづく
2009年5月13日水曜日
彼、あるいはスマートボールの行く末 その2
カタン
ジャラジャラジャラ
「やった!15点入った!」
ポカリ
「痛い。あれ?」
「何をやっとるんだキミは」
「博士!」
「2週間もブログをほったらかしてパチンコとはいい身分だな」
「パチンコじゃないですよ!」
「どう見てもパチンコじゃないか」
「ちがうってば!よく見てよ」
「このガキんちょが何だ」
「まちがえた!」
「ホラ。ね?」
「どうみてもパチンコじゃないか」
「スマートボールですよ!」
「何に見える、ピス田?」
「パチンコです」
「この宿六ども!あのですね…」
「やどろく?」
「よくみてよ!ビー玉でしょ」
「そう見えなくもないきらいもなきにしもあらずだな」
「これをこう…はじくんですよ、ピコンて」
ピコン
コン
コン
ポコ
「…でこうやって点数の書かれた穴に入ると…」
ジャラジャラジャラ
「なぜかガラス板の上に点数分のビー玉が払い出されるんです」
「それだけか?」
「それだけですよ」
「それを延々とくりかえすだけ?」
「それを延々とくりかえすだけです」
「景品の交換もなし?」
「ないですね」
「いったい何がたのしいんだ!」
「今の僕にとってこれ以上の娯楽はないんです!」
「馬鹿げとる!」
「これ、何回か当たるだけで盤がビー玉で見えなくなっちゃうね」
「隣の人はほとんどビー玉で埋まって見えなくなってました」
「見えなくなったらどうするの?」
「見えないまま続行です」
「いったい何がたのしいんだ!」
「どのみちじぶんの意志で入れることはできないんだから同じことですよ」
「常人の理解をこえとる」
「博士に言われたくないです」
「こんなことに延々と2週間も…」
「500円あれば半日つぶせますよ」
「それにしたって他にもっとできることがありそうなものだ」
「ここは21世紀の東京に残された唯一のスマートボール専門店なんです」
「だからなんだ?」
「いま使ってるのは青いビー玉だけど、ホントは白いんです」
「…」
「白い玉をつくってた工場もすでにないし、なくしたら最後二度と手に入らないから、ビー玉で代用してるんです」
「…」
「この店じたいがシーラカンスみたいなものなんですよ!」
「だからなんだ!」
「いっぱい遊ばなくてどうするんですか!」
「うまいこと使命感と大義にすりかえたな」
「僕らにはスマートボールを文化として存続させる義務があるはずです」
「スマートボール文化を支える前に、自分の存続を気にかけたらどうだ」
「僕らはそれを忠告に来たんだよ、ダイゴくん」
「ご心配いたみいります」
「で、どうなのダイゴくん」
「何がですピス田さん?」
「アルバムだよ、進んでるの?」
「はるばる?」
「アルバムだってば」
「ああ、アレね、そりゃあ、す…」
「す?」
「進んでますとも!進みすぎちゃってもう…」
「…」
「今や空の彼方です」
「お星さまになってるじゃないか!」
「だからいまUターンしてるとこです」
「いっそそのまま宇宙の塵になってしまえ」
「いやはや、先を行き過ぎるのも考えものですよ」
「口先だけは大物だな」
「まあみててください」
「…」
「この『連勝』って穴に入れば一気に勝ち越しですよ」
「…」
「それいけ!」
「それでいいならもういいけどね、べつに」
ポコン
ジャラジャラジャラ
「ホラ!みてみて!やった!痛ッちょっといたた」
「…」
「ちょっビー玉投げないで!お店の人に…あッすみませんすみません」
*
カァ! カァ!
「カラスか…」
「きっぷのいい鳴きっぷりですね」
「天丼食って帰ろう」
「そうしましょう」
「しかしここまでひどいとはおもわなかったな」
「どう見ても負け犬なのに、なんであんなに楽しそうなんでしょうね」
「本人にとっちゃ負けに気づかないのも勝ちのひとつさ」
「同情すべきですかね?」
「とっととくたばりゃいいんだ、あんなの」
2009年5月12日火曜日
彼、あるいはスマートボールの行く末 その1
ホワンホワンホワ〜ン
「この着信音はしっぱいだな。もしもし」
「ピス田です」
「ごくろう」
「博士ですか」
「他に誰がいるんだ」
「ターゲットを発見しました」
「やれやれ!」
「ずいぶんヒゲが伸びてます」
「手間をかけさせる男だ」
「今のところ動く気配はなさそうです」
「まるで逃亡者だな。結局どこにいたんだ」
「浅草です」
「浅草?」
「浅草です」
「浅草なんかでいったい何をしとるんだアイツは」
「それが…」
「どうした」
「パチンコみたいです」
「パチンコ?」
「たぶんそうだとおもうんですけど」
「たしかか?」
「やせっぽちのヒゲメガネでした」
「そんな生きものは浅草だけでも掃いて捨てるほどいるだろう!」
「あとは…」
「なんだ」
「研ナオコの『夏をあきらめて』を口ずさんでたので…」
「ああ、それならまちがいない」
「まだ5月なのに…」
「まったくだ」
「なんだか不憫で…」
「気のせいだ」
「そうですかね…」
「しかし下町でギャンブルとはおそれいる」
「わたしも目を疑いました」
「予想外にもほどがあるぞ」
「でも昔よくやってたって聞きましたよ」
「昔っていつだ」
「10代のころはバイト代全額つぎこんだことあるって」
「どうしようもないという意味では今とあんまり変わらん気もするが」
「そうですね」
「とりあえず捕獲にいこう。今どこだ」
「おいしい揚げまんじゅう屋さんの前です」
「揚げまんじゅう?」
「ハフハフ」
「食わなくていい!だいたい仲見世に何軒あるとおもってるんだ」
「いちばんおいしいとこですよ」
「雷門のでかい提灯に貼り付いとけ!」
ガチャン
*
つづく