2008年11月6日木曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その69


そういえば僕は正月にもらう甘くとろとろに煮たおいしい黒豆を、だいじにしすぎて腐らせてしまうという愚にもつかない所行を毎年くりかえしているのです。わかっているのに毎年頭を抱えるんだから、これはもう習性というほかありません。百舌のはやにえに近い。

どうしてまた唐突にそんな話をしだしたのかというと、この企画をできるだけ長く引き延ばしたいという小賢しい思惑によってだいじに温めていたはずの質問をうっかり忘れかけていたことに、今さっきメールボックスを開いて気がついたからです。なんてことだ!脳みその出来が小鳥とおんなじだなんて、我ながらがっかりしてしまう。

でもまあ、前向きに!もう読んでくれていないかもしれないけど、だいじょうぶ、少なくとも僕が読んでます。僕が読んでくれるのなら、誰よりも勝手知ったる相手であることだし、それだけで書きつづけようというきもちになるものです。

そういうわけなので気を取り直して、犬も歩けばボニータになるさんからふたつめの質問にお答えします。どうもありがとう!できればまた戻ってきてください。



Q: オススメの本を教えて下さい。



さいきん読んだものの中で群を抜いておもしろかったのは、ジョー・ヒルの「20世紀の幽霊たち(小学館文庫)」です。いちおうホラー小説という括りにはなっているけれど、そんなカテゴライズがまったく意味をなさないほど懐の深い短編集だとおもいます。あるジャンルがあって、その枠におさまるべき体裁を保っているにもかかわらず、愛好家以外の読者を獲得したとき、その作品はクラシックと呼ばれてしかるべきですよね?おそらくこれも、そのひとつです。僕自身はこわがりなのでホラー愛好家ではぜんぜんありません。わざわざ恐怖に手を伸ばして叫ぶ人の気が知れない。

ちなみに小学館文庫というのはメジャー感たっぷりのその名とは裏腹にまだ刊行点数がちょっぴりしかない生まれたてほやほやの文庫なので、刷数が少ないうえに一冊も置いていない本屋さんも珍しくなく、ほしいとおもったときにはどこも売り切れでわざわざ神保町の書泉グランデまで足を伸ばさなくてはいけませんでした。今はごっそり増刷されたようなのでたぶんどこでも手に入るはずです。置いてある書棚を探すのが多少めんどくさいことをのぞけば。

小学館といえば奇才・古川耕による「フットマークデイズ (1)〜(3)」が絶賛発売中であることもお忘れなく!


あとは、そうですね。あまねく知られているイメージとはあまりにもギャップがありすぎて絶句してしまう衝撃の原作、カルロ・コッローディの「ピノッキオの冒険」をおすすめしましょう。ここに描かれたピノキオのどうしようもなく愚かなふるまいの数々といったら、苦々しくて目も当てられません。

しかしそれゆえにと言うべきか、はっきり言っておもしろさはディズニーの比ではないのです。

何しろピノキオの野郎ときたら学校でつかうABCの練習帳を、ジェペット爺さんが雪ふる夜にじぶんの上着を売ってまで用意してくれたにもかかわらず、その数ページ先で芝居を観るために売っぱらってしまいます。

「上着は、おとうさん?」
「売っちまった」
「なんで売っちゃったの?」
「暑かったからさ」

そんなちょっと涙腺のゆるむハートウォーミングなやりとりの、数ページ後ですよ!これをリアルと呼ばずして何がリアルだとしみじみ僕はおもう。

ちなみにディズニーでは愛すべき名脇役として描かれているコオロギも、原作では物語もろくに進まないうちにピノキオの馬鹿のせいでポックリ死んでしまいます。

えええー!



A: カルロ・コッローディ「ピノッキオの冒険」



いやまったく、これを読んだらディズニー版なんか生ぬるくって観てられないです。本当に。



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dr.moule*gmail.com(*を@に替えてね)

↑これを記すのもひさしぶりだなあ…

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