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2008年10月4日土曜日
古書日月堂、ふたたびオフビートを叩く
南青山にある古書日月堂はその名のとおり元来は古書店であったはずなのだけれど、いまや古本屋としての体をろくに成さないばかりか自らかなぐり捨てつつあり、いびつという意味ではヘタをするとフライングブックスの上に位置しかねない、クレイジー×オフビート=ドープなお店です。前にもここで書いたように、ポスター、包装紙、マッチラベル、千代紙、チラシ、はては旧家の小切手までといった印刷物全般(Printed Material)が非常に充実していることもあって、このお店で本を買った記憶が僕の場合ほとんどありません。
さらに日月堂は興行師という顔も持ち合わせており、これまでにも「印刷解体 vol.1、vol.2」「学校用品店」「ムラカミ家のモノに見る昭和史」といった、ほとんど古書とは直接関わりのない企画展を開催してきているのです。いいかげん店名から「古書」の文字をけずったらどうなのだといつもおもう。
そんなありさまだからときどき店主も「わたし、どこへ行っちゃうんだろう」とポロリともらすことがあるんだけど、そんなのこっちが聞きたい。
そんな愛すべきエキセントリック古書店(というか古物商)、日月堂がその逸脱ぶりに拍車(というかターボ)をかけてお送りする、この秋いちばんのユニーク企画がこちら!
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【Open House Market 2008 October】
見る買える! 解体直前・昭和の住空間を訪ねる特別な一日
Series 1 築73年・ムラカミさん家に見る昭和のくらし
→大田区・村上邸 2008年10月12日(日) 10:00 〜 18:00
Series 2 築76年・スズキ邸に見る和のしつらえ
→中野区・鈴木邸 2008年10月26日(日) 10:00 〜 18:00
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すでに取り壊しが決定している築70年以上の旧家2軒をそれぞれ1日ずつまるごと会場として借り切り、家具や建具、雑貨から食器といった、残された家財道具のほぼ一切合切を展示(というかもともと据え付け)、あまつさえそのほとんどを即売(!)するという、たぶん他にはあまり類を見ない実にダイナミックな試みです。
趣旨だけ抜き出すと即物的になってどうもいけない。でもそうではないのです。そうではなくて、事情がゆるせば今も現役でバリバリ暮らせる立派な家屋をあえて会場としてお借りし、その魅力を多くの人と共有することにこそ、この催しの最たる意義があるのです。そうしてできれば取り壊しというかたちで幕を閉じる前に、70年以上もの歳月によってこんこんと醸されてきたささやかながらも濃厚な歴史とその味わい、さらにはそこに刻みこまれたひそやかな物語を、思い出なり、あるいは実際に家財なりでみなさまにちょっとずつお持ち帰りいただきたいのです。
かつては一般的だったにもかかわらず、時代の新陳代謝によって次々と姿を消していき、とくに都市部においてはかなりのスピードで絶滅の危機に瀕しつつある伝統的な日本の建築様式、ひいてはそこに込められた職人の技と心意気をしみじみ愛でることのできる機会なんて、そう多くはありません。少なくとも何より効率が求められる現代では望むべくもない豊かな意匠と深い趣きが、ここにはあります。
また、語られることのない物語を内に秘めるのは何も家屋だけではありません。桐箪笥や黒光りする渋いちゃぶ台、モダンな照明やホーローの食器といった「道具」たちにもまた、それは受け継がれているのです。
どんな装丁の物語を実際に手にすることができるのか、ほんの少しだけ見てみましょう。
書いてる僕が鼻血を出して倒れそうです。買い占めてしまいたい。その他、トランプのようにずらずらと並べられた大量の画像が、【Open House Market】の詳細ページにはたっぷりとあるので、ゴクリと生唾を飲まれた好事家のかたがたには、そちらもぜひご覧くださいませ。
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さて、ここからが大事なぶぶんなのですが(長いなあ)、インフォメーションのどこを見ても会場となる邸宅の住所が記載されていません。何しろ店舗とちがって現在も使用中のお住まいであるため、セキュリティの関係から不特定多数に向けて所在地を公にすることがどうしてもできないのです。
したがって、どちらの会場も完全予約申込制になります。
先ほども記した詳細ページの最下段に申込フォームがあるので、興味をもたれた方はそちらから予約してください。追って自宅に現地の地図を同封した案内状が郵送で届きます。
申し込みの締め切りはどちらも開催の5日前となっていますが、10月12日(日)のシリーズ1に関しては10月9日(木)の夕方まで申し込みがギリギリ可能になったもようです。
しかしそれでも!さらにギリギリにならないと予定が確定しないという場合には(大いにありうることです)、いつものアドレス dr.moule*gmail.com(*を@に換えてね)宛に連絡先を添えてメールしてください。なるべく対応できるようにがんばります。
僕はべつに主催者でも何でもないんだけれど。でも当日は僕も現地でぷらぷらしています。
しかしライブとかリリースとか音楽関係のあれこれより、こういう告知にギュッと力をこめるあたりがいかにも小林大吾らしい。やれやれ。
しかり、古書日月堂は、ありとあらゆる「物語」を売る希有なお店なのです。
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