2008年5月4日日曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その49


タンクタンクベイビーさんからのしつもんです(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)。以前バイトで使っていた削岩機用の小さなガソリンタンクには、こんな可愛い名前がついていました。むさ苦しいおっさんしか使わないような道具なのに、健気なことだなあ。



Q: 小林大吾さんの次の詩集の発売予定はあるのでしょうか?



そういえば詩集のことを聞かれたのってこれが初めてです。何しろ所有者が地球上に100人ちょっとしかいないので、「持っている」と聞けばそれだけでその日いちにちがちょっと豊かな気持ちで過ごせます。どうもありがとう!



小林大吾の公式(?)プロフィールをみると、冒頭に「17歳から真剣に詩を書き始め…」というあんまり重要ではなさそうなことがさも重要であるかのように書かれていますけれども、これは文字どおりただ「真剣に」というだけであって、「積極的に書くようになった」という意味では全然ありません。この際もっと思い切った告白をしてしまうと、僕はおそらく「詩人」と自称する人種のうちでもっとも書くことをしない詩人です。

とても大きな声で言えたものではないですが、たかだか70数ページしかないくだんの詩集も、ほとんどあれですべてと言っても過言ではないのです。すくなくとも、書きためていた分の2/3…3/5…いや4/7…くらいはあの一冊(のなかにある「ch.2 詩人の遺書」)に収められています。

というのも、埃みたいな極小の思いつきがポンと生まれでるまで1週間でも1ヶ月でもひたすら待ちつづけ、出たら出たで今度はそのあと頭の中で延々ところころ転がしつづけ、最後の1文字にいたるまで確定してからここでやっと鉛筆を手に取る、という異常にのんきなやりかた一本槍だったため、たった数行のものをひとつ書き上げるのにびっくりするくらいいちいち時間がかかっていたのです。待ちの時間がとにかく長い。これで待ち時間がゼロになればビギーとかJAY-Zになれるのに、残念ですね。

じっさい、「声に出して曲にする」という行為に手をつけるまで、僕は一度も推敲の経験がありませんでした。「2/8,000,000」の「ch.2 詩人の遺書」に収められた詩片には、どれひとつとして推敲したものはありません。さんざん時間を食いつぶした上でようやく書き上げても、それを1週間くらい寝かせて、もう一度見直して、ダメだと思ったら問答無用でゴミ箱行きです。清々しいくらいポイと捨てます。僕のばあい推敲して良くなったためしがないというのがその唯一の理由なんだけれど、10年以上も書きつづけていながら、呆気にとられるほど数が少ないのはそのためです。それだけ手間をかけてもあの程度かよ、と言われてしまえばそれまでなんだけど。

その代わり、いま読み返してもじぶんでハッとする驚きがあります。まるで誰か別の人が書いたものであるかのように、自分の作品から刺激を受ける、それが僕にとっていちばん大事なことなのです。自惚れよりもはるかに確たる自信として、みずからを「天才だ!」と心からおもえるよろこび以上に得がたいものって、ないですよ、本当に。

そういう意味では、推敲に推敲を重ねるアルバムのリリックはそれと真逆のベクトルをもった作品と言えるし、いまだにその落差を埋める手立てを見つけることができません。確たる自信どころか、盲目的に自惚れる領域さえ目まいがするくらい遠い。1枚目にくらべて、ようやく「好き」と言えるくらいにはなっただけでも、今のところは良しとしたい。前のほうが好きだった、と言ってくれるひとがいるのもわかっているし、もちろん大いに喜ばしいことではあるのだけれど、ここまでくるとこれはもう、100%エゴイスティックな話なので、本人でさえどうにもなりません。

えーと、何の話だっけ?

つまり、あんないいかげんに見えるうすっぺらな詩集でも、いろいろと骨の折れる舞台裏があって、うんぬんということです。(飛躍する結論)

でもやっぱりこんなふうに望んでくれるのは身震いするほどうれしいので、そうですね、ひょっとしたら部屋のあちこちに埋もれているものをひっかき回して、寄せ集めてみたら案外できないこともないかもしれません。すくなくとも、捨てられずにあるということはじぶんのOKが出ているということでもあるし、やってみる価値は…あるんだろうか?現時点ではそういう予定の気配すらないので、気長にお待ちいただけると助かります。

一から書き始めるとなると…モノになるのはまた10年後になりそうでこわい。



A: 今のところ予定はありません。



いっそ、パンドラ的質問箱をまとめてしまうというのはどうでしょうね?



 *


詩人の刻印(ほぼ)全曲レース、タンクタンクベイビーさんが選んでくれた1曲は「饗宴」です。どうもありがとう!


バミューダ 9
ボート 8
蝸牛 7
話咲く 7
紙屑 4
ユリイカ 4
アンジェリカ 3
腐草為蛍 3



 *



とうとう質問箱が50回目に突入です!と同時に質問が残りあとひとつになりました。いつかはこんな日がくるとおもっていたけれど…



dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)



最終回なんて言わないで!その50 につづく!

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