2008年1月9日水曜日

アドルフ・ヒトラーの抗菌歯ブラシ


おお、ブルータス!おまえもか!と叫ぶなり、歯ブラシをばちんと床に叩きつけるこのやるせなさといったら、コーラスに泣き女をしたがえて合唱せずにはいられないのです。雨漏りみたいにどこまでも生活にしみこんできやがって、また抗菌だ!ああ忌々しい!だれか!だれか塩を持ってきておくれ!粗塩じゃなくて安いほうの塩です!うむ、ごくろうさま。

ドサー。(塩をまく音)

次!

ドサー。

むいちゃった甘栗と同じく、売り文句に「抗菌」とある日用品はことごとく、あんなものこの世から消えてなくなっちまえばいいと僕が火を吐く、宿敵のようなものであります。ファック抗菌。先日にいたってはとうとう抗菌仕様のキャッシュカードまでつくられたと聞き、絶望的な気分に打ちのめされたものです。10円玉もびっくりだ。

菌にかぎったことでもないのだけれど、なんていうかこう、雑音(ノイズ)と思わしきものはとりあえず社会から排除しておこうとするそのうすっぺらい根性が気に食わないのです。菌と言ったっていろいろあるし、悪いのもあれば良いのもある。十把ひとからげで敵と見なすようなことはどうあってもできないはずなのに、ろくろく考えもせず「まあ、一応ね」と曖昧なまま断ち切ってしまう危うさが、ゆくゆくどこにつながっていくことになるのか、考えてもみたまえワトソンくん!「菌」を「変わり者」と置き換えてみたらどうだ?

それでなくとも人間の体には免疫という驚異的、かつじつに合理的なシステムがそなわっているじゃないか?泥まみれで遊びまくる小汚い子供と、箱入りでそっと育った王子さまとではどっちが健康か、わからないとは仰いますまい!無菌室で生きるということは、イコール免疫が下がって虚弱になるということでもあるのだ。

よろしい、では100歩ゆずって虚弱も良しといたしましょう。すこやかな日々を送るために虚弱になるという逆説はいかにも馬鹿げているけれど、それも素朴な良心から生まれていると思えば、やれやれと首をふっておさめることもできる。しかしだなワッスン君。

「そんな急に発音良くしなくてもいいです」

そうした情状をさっぴいたとしても、雑音(菌)を排除したらしただけクリーンな世界になると考えるなんて、そんな直線的な話がありますか!ありとあらゆる事例と可能性をすべて考慮に入れて行動するなんてだれにもできないけれど、だからといって良きも悪しきもまるごと端折って「邪魔者は消せ」みたいな話(注1)になるなら、こんな肥大した脳みそなんてぜんぜん必要ない。みかんくらいの大きさでじゅうぶんです。まったく、チョビひげの独裁者がやってたことと何がちがうっていうんだ?

大げさだなあ!とおもうかもしれないし、僕も実際そうおもえるんだけれど、本質的には同じことです。いまもアウシュビッツが教訓として活きているのは、規模がどうあれそれが本質的に決して特異なものではないからなのだ。どんな大木もまず芽が先にあるという点で、この話が芽でないと言い切れる根拠がはたしてどこにあるだろう?だって歯ブラシが(以下略)

ああ、何しろ健全たる社会においては僕自身がある意味ノイズみたいなものなので、こういう話となると風邪をひいたネズミのごとく敏感にならざるをえないのです。

しんみり。

だからダイゴくん、君はここにいてもよいのだという、自己肯定のお話であった。

おや!もうこんな時間だ。ではさいごに昔、セブンイレブンのトイレで見かけたひみつの落書きを引いておひらきとしましょう。


炭疽菌ファッキュー!
ビフィズス菌サンキュー!



世界に対するこの軽妙にして包括的なきもちの距離感こそ、僕がつねづねこうありたいとおもうところのものです。用を足しながら人生観が変わるほどのショックをうけることなんて、そうそうない。座右の銘にしてもいい。



注1:こうした、脇目もふらず一直線に駆け抜ける100メートル走的思考のことを、ムール貝博士は「暗黒街の論理」と呼んでいます。過程がシンプルで明々白々すぎるせいか、逆に疑義をはさみづらいのだ。(そういえば博士は世界陸上をみながら「あんなに早く走ってどうするつもりなんだ?」と首をかしげていた)

3 件のコメント:

  1. 出会う人に「珍しい人だ」って1gで1円のキャビアみたいな扱いを受ける僕なんですが、最近それがうっとおしいのです。

    珍しい人ってなんだ。珍しくない人っているのか。

    動物園のパンダはさぞ不愉快でしょうとも。
    もしかすればパンダは柵の向こうの木偶の坊を笑ってるかもしれませんが、それはそれで滑稽です。

    普通が何かも分からないのに普通にならないといけない圧力を感じる大学生活なんです。

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  2. 「ふつう」というのは僕が思うに、まいにち茶碗によそるゴハンの量と同じです。米何粒分とか考えはじめるとキリがないけれど、数えなくてもよそることはできます。逆に言うと、その程度のことでしかありません。

    そうおもえば、だいたいのことはスルッとあしらえるはずです。

    あとゴハンて圧力がかかるとよりふっくら炊けるらしいですよ。

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  3. なるほど…

    凄く上手く表現するんですね。
    なんか凄くタジタジしてます(笑)

    ありがとうございました。

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