国際的と銘打ちながら日本では驚くほどローカルな立地でぽつぽつと営まれていたおいしいパンケーキレストランIHOP(※注1)が、いつのまにかすべて焼肉屋にとって代わられたという衝撃的な事実を知ったムール貝博士は、国道405号線沿いにあるワッフルハウス(※注2)のテーブルで、注文した5枚重ねのワッフルに手をつけることもなく、ただ窓に叩きつける雨を見つめていた。
目の前には博士の身柄拘束にうっかり成功したICPOの職員が座っていた。彼もまた5枚重ねのワッフルをよそに、頬杖をつきながらうつろな目で窓の外をながめていた。こんな世界のすみっこで寸分たがわぬ喪失感を共有しながら、なおも敵対関係を維持するなんてことができるものだろうか?だいたいIHOPが焼肉屋だって?もっと気の利いた転身がありそうなもんじゃないか!小麦粉はどこへいったんだ?
閑散とした店内に、ラジオから流れてきたアン・ピーブルスの歌声が響いた。追う者と追われる者のために5枚ずつ積まれた計10枚のワッフルはしずかに、そしてしょんぼりと冷めていった。
I can't stand the rain
'gainst my window...
Bringing back sweet memories...
ウェイトレス談:「誰でも言葉にならないかなしみを抱えるときがあるものよ。わたしにできるのは、ここでいつもどおりのワッフルを焼くことだけ」
注1:
IHOP International House Of Pancakes の略。なぜかランダムハウスの英和辞典にも載っている。
注2:
WAFFLE HOUSE どんなメニューにも強制的にオレンジジュースがくっついてくるので、コーヒーを注文しづらい。
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