2018年2月4日日曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その288


乱取りチキンさんからの質問です。


Q. 無人島に何かひとつ置き忘れるとしたら何ですか?


膝を打たずにはいられない、いい質問です。「無人島に何を持っていくか」というのは言ってみれば食卓におけるカレーと同じで、バリエーションこそあれひまつぶしに最適な質問のデファクトスタンダードだとおもいますが、「何を置き忘れるか」というのはいまだかつて考えたこともありません。もう無人島にいる、というかなんならそこでけっこうな年月を過ごしているところから考えるじつにフレッシュな出発点は、無人島にひとり取り残されてしまったときだけでなく、日ごろから僕らを悩ます蚊の羽音のようなあれこれと向き合う上でこれまでにないアプローチを提示してくれているような気さえしてきます。具体的にどう役に立つのか見当もつかないのでたぶん気のせいだとはおもいますが、すくなくとも何かこう、するどい点を突いている気がしないでもないのはたしかです。

置き忘れると言っても、あらかじめ持っていったものとはかぎりません。長いこと暮らしているうちに手放せなくなった握り心地がすべすべの流木とか、よりどころがほしくてなんとなく祀ってみた石ころとか、探検してたら見つけたひとつなぎの財宝とか、島から持ち帰るはずだったものも含まれます。

ただ、見つけてもいない財宝を置き忘れてくやしがるというのはかなり高度な想像力を要する割にぜんぜん意味がわからないので、考えすぎて良さげにおもえてくる前に除外しておいたほうがよいでしょう。すべすべの流木あたりは僕なんか記念に持って帰りたがりそうだし実際置き忘れそうな気もしますが、それで小一時間考える甲斐はあったのかと言われるとこれもやっぱりぜんぜんないので、採用するわけにはいきません。

そんなこんなであれこれ想像を巡らせてみたのですが、つらつら考えるに無人島で暮らすのは生半なことではありません。暮らすというよりはむしろ生き延びるというべきです。身なりにかまってはいられないし、食えそうなものは何だって食う必要があります。楽園みたいな島ならよいけれど、未知の生物がうごめくロストワールドみたいな島である可能性もある以上、毎秒毎分が生きるか死ぬかであり、やるかやられるかです。気にするのは外敵の目であって人目ではありません。そもそもそこに人はいないのです。

そう考えると、かつては持っていたけれど無人島で生きるにはむしろ邪魔になりそうなもの、とはいえ捨てるのもアレだしまたいつか必要になるかもだからとりあえず脇に置いておこうとおもったらそのまま置き忘れてしまいそうなもの、がひとつだけあります。


A. 恥です。




質問は10年たった今でも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その289につづく!